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第一章:神聖リディシア王国襲撃編

第一試験、開幕

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男と女を混ぜた人物--ゼノは驚く私達を見て、笑顔を浮かべる。

『驚くのも無理はありませんが、貴方方の無駄な疑問に一々答えるのも面倒臭いので、勝手に話を進めます。後で聞いてなかったと言われても、そんな事は知りません。では、説明を始めます』

ゼノはそう言って、第一試験【勇気の試練】の説明を始める。

その内容はこんな感じだ。

最初に、【勇気の試練】と言うのは私達に、勇者に必要不可欠な【勇気】という感情が宿っているかを見極める試練。

次にその見極め方が、ゼノの扱う恐怖魔法で私達が1番恐れているものを見い出し、鏡魔法で生み出す。そしてその恐怖対象を前に、逃げずに勇気を持って立ち向かえるかどうかというものだ。

至ってシンプルな試験内容だが、厳しい試験だ。恐怖という感情はそう簡単に拭えるものじゃない。第一試験からここまでハードとなると第二試験はもっと過酷になるだろう。

…私には、恐怖を攻略できる自信が無い。

『とまぁ、試験内容はこんな感じかな。それで、質問ある人はいるかなぁ? 二人まで答えてあげる』

ゼノがそう言うと、キリカさんとミレルさんが同時に手を挙げた。

『じゃあ、まずは君からどうぞ、キリカ・如月』

名前を呼ばれたキリカさんは、1度頭を下げた後、

「恐怖対象を鏡魔法で生み出すと言っていましたが、もしその対象が生き物では無い場合どうなるのですか?」

そう質問をなげかける。確かに、必ずしも、恐怖対象が生き物とは限らない。例えば、感情や場所。

『あぁ、その事なら大丈夫さ。もしそんなことがあったら、僕が恐怖対象になる様に恐怖の感情をその子に植え付けるから』

そう簡単な事のように答える。しかしそれは、要するに彼の力で、他人の感情を思うがままにいじくれるという事だ。

『それじゃ、ミレル・トランバレト君。君の質問を聞かせてくれるかな?』

キリカさんの質問に答え終えたゼノは、ミレルに話を振る。名前を呼ばれたミレルさんは、眼鏡をクイッと上げた後、

「恐怖を乗り越える試練との事だが、僕に恐怖はない。だと言うのにこの試練を受けろというのか?」

冷たい声音で尋ねた。審判神エルケイス様にもそうだが、ミレルさんは、他人を見下す癖がある。あまりにも失礼な行為だが、それは自分がこの世で一番尊く強い存在だと思っているからなのだろう。そんな彼の発言をゼノは、

『なるほどなるほど。君はどうやら沢山の人に愛されて育ってきたお子ちゃまなんだねぇ』

馬鹿にするように、最初よりもすごく楽しそうに笑った。

「・・・僕が、お子ちゃま? この僕が?」

『君以外にお子ちゃまという言葉が当てはまる存在がここにいるかい? 自分以外は『劣等』とでも思っているんだろう? この世は自分のためにあると思ってるのだろう? そんな人間が、お子ちゃまじゃなくなんて言うんだい?』

ギリッと、ミレルさんからが歯軋りした。それに拳も強く握り締められ血が出るんじゃないと心配になるくらいだ。

「いいだろう。ゼノと言ったな? 僕がお子ちゃまじゃないってことを貴様に証明してやる」

そう言うと共に、ミレルさんの右手に光が集束し、一本の剣が姿を現した。それは、【武器生成クレティツオ】と呼ばれる創成魔法の一種。名前の通り、あらゆる武器を生み出す魔法だ。

『へぇ。そんなチンケな魔法で私とろうってのかい? まぁ、君がそれを望むなら--お子ちゃまな君に恐怖というものを教えてあげるよ』

「ふん、恐怖を刻むのは貴様ではなく、僕だ」

武器生成クレティツオ】で生み出した剣を、ゼノに突きつけ宣言する。

『ふふ。それじゃあ、これより【ミレル・トランバレト】の試験を始める』

静かにゼノがそう試験開始の合図を告げた。
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