冒険者狩りをしている青年の表稼業

雪鵠夕璃

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第一幕:【魔盗団】殲滅作戦編

【魔盗団】

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【暗獄の大樹林】中心部に拠点を置く【魔盗団レルメル】。大気を漂う魔素は完全に穢れきっており、地面や草木は腐食している。更に、あらゆる部位が抉れた狼や片足に枷が嵌められ白目を剥いた人間が拠点の周囲を彷徨い歩いていた。そんなおどろおどろしい拠点は大爆発による熱波をいとも容易く無力化した。あの大爆発程度では、超強力な魔力防壁に覆われている【魔盗団レルメル】の拠点に傷をつけることは叶わない。せいぜい、振動を感じさせるので精一杯だ。

「おっととと…」

木製テーブルに肘を置いて、酒の入ったグラスを持っていた白髪の男の口からそんな声が漏れる。『酔っちまったのか?』と周囲を見渡してみると、どんちゃん騒ぎをしている【魔盗団レルメル】の団員達も同じに揺れに襲われ驚いていた。

「酔いって訳じゃないみたいだな」

グイッとグラスに口をつけて、酒を飲み干す。

「地震にしては揺れが小規模だし、この森の入口付近と拠点から少し離れた位置から微かに感じる魔力…。まさかここが勘づかれた?」

白髪の男は瞼を閉じる事で集中力が増し、数キロ先までの微かな魔力の気配を感知するほどの索敵能力を有した【魔盗団レルメル】幹部の一人。目を開け、魔力の気配から正体を見破ろうとする。しばらく唸ったあと、

「ここから近いのは…温かな水色の魔力と純粋な白い魔力。この感じは…妖精と妖精使い?」

白髪の男は脳内に【暗獄の大樹林】の地図マップを展開させる。そして先程からずっと感知している魔力達の位置と地図マップを重ね合わせる。

入口付近に無数の忌々しい光り輝く魔力。

中心から少し離れた付近に温かな水色の魔力と純粋な白い魔力。

更に中心から離れた付近に黒と白が混合した魔力。


「あの光り輝く魔力は…騎士団特有のモノ。…面倒な事になったな」

白髪の男は木製椅子から腰を上げ、かしらのいる二階の部屋に向かった。【魔盗団】の拠点は二階建てとなっており、外観は巨大な大樹にカモフラージュされている。その為、そう簡単に拠点バレをすることは無い。しかし、意味もなく騎士団がこの森にやってくる程に暇とは思えない。というのも、情報収集を行っている限りでは騎士団がここに用のある依頼は何も無いという情報を得ていた。ただ、情報収集の中で、彼らは仲間意識がゼロに等しい為、仲間の1人が囚われているという重要な情報に気づくことは無かったが。

「リーダー。早急にお伝えしたいことが」

コンコンとノックをして、部屋の中にいるであろう頭に声をかける。暫くして、『入れ』という了承の言葉が返ってきて、扉を開けて中に入る。

「失礼します」

「あぁ。で、伝えたいことってのは?」

白髪の男の視線の先で、椅子に偉そうに座る隻眼の男が尋ねる。彼は【魔盗団】の頭【グウィル】。仲間を盗み殺しの駒としてしか見ていない残虐非道な根っからの悪。

「先程、この森全域で揺れが生じたのを感じたと思います」

「あれか。確かに揺れたなぁ」

「あの揺れの原因を探る為、能力を駆使して魔力感知をした所、騎士団と妖精、妖精使いらしき魔力と今までに見た事のない魔力を感知しました」

その言葉にグウィルの表情が険しくなる。

「そいつァ、ここがバレたって事か?」

「はい…おそらく」

「なるほどなァ。通りで森に放った俺の奴隷ペットの一体が消えた訳だ」

ゴキゴキと首の骨を鳴らして、グウィルは口元に笑みを刻む。

「んじゃまァ、まだバレてねえと思ってる騎士団バカ共にご挨拶でもしに行くとするかァ」

「…ご挨拶ですか?」

「あぁ、ご挨拶だ。そうだなァ、とりあえず拠点周辺の屍狼スカラジャルフ奴隷ペット、それとアイツ・・・を向かわせろ」

グウィルの最後の『アイツ』という言葉に、白髪の男は息を呑んだ。ここで『アイツ』と言うのは【魔盗団】の中で知る限りあの男しかいない。

かつてあらゆる悪を断ち切ってきた元Sクラス冒険者であり、現在は【魔盗団】の番犬と成り果てた恐ろしい男。

「わかり…ました。 あの男--【ガヴォット・ジャーヴィス】を解き放ちます」

白髪の男はグウィルの命令に頷く。

「後のことは任せる。一応忠告だが、俺に恥をかかせるなよ、ラゼット」

最後に脅しのような言葉を背に受けながら、白髪の男【ラゼット・シルバー】は部屋を後にした。
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