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第一幕:【魔盗団】殲滅作戦編
ラフィーナの仕事 後編
しおりを挟む魔力と魔力のぶつかり合い。本来ならば魔力量の高い方が圧倒的に有利。しかし、時に強い想いがその常識を覆すことがあると言われている。ただ、それは稀な現象であり、本当に不確かで不明瞭な想いなるものが不利な魔力量を大幅に増幅させるかは怪しいもので、それに縋るものは少ない。
「うぉおおおお!!」
喉が張り裂けんばかりの雄叫びをあげてアルメは【獄虹星龍砲】にさらなる魔力を注ぐ。しかし、ラフィーナの魔力量には到底及ばない。
(…沢山の魔力を注いでるのに…全く押し返せない!?)
徐々に迫り来る魔力の斬撃にアルメは呻く。
「どうしましたか? この程度ではS級になった所で死にますよ。それが嫌なら、限界をここで超えてください」
焦るアルメとは対照的に涼しい顔で淡々と言葉を発するラフィーナ。振り抜いた魔力の斬撃は速度も威力も落とすことなく、寧ろ加速し増していく、別段、魔力を注ぎ続けてる訳では無いと言うのに、魔力を注ぎ続けるアルメを圧倒している。因みに彼女が口にする『限界を超える』というのは、シエンから教わった事だったりする。彼女もS級になる際に当時昇級試験担当者だったシエンとの戦いで限界を超えた経験がある。
(あの時の事は屈辱的でしたが、先輩のおかげで限界をこえれたのは事実)
ふと嫌なことを思い出してラフィーナは少しだけ苛立つ。それに呼応して【獄虹星爆龍閃】の威力が更に増幅する。が、すぐに我にかえり、心を落ち着かせる。
(どうやら私もまだまだみたいですね。感情の浮き沈みで魔力コントロールが不安定になるとは)
ラフィーナはそう心の中で呟いた後、魔力コントロールに専念する。魔法の難しい点は、魔力で生み出した魔法の形を維持する為に込める魔力量の調整という点だ。例えば、魔法の形を維持するのに必要な魔力量を注ぎ込んでいなければ、対象に触れる前に形を保つことができず消えてしまう。その為、魔法一つ一つに適した魔力量を込めなければならない。より強力で巨大な魔法となれば尚更注ぎ込む魔力量を調整できなければ意味が無い。また、同魔法でも使い手の実力によって注ぎ込む魔力量も変わるので全員が全員同じ量の魔力を注ぎ込まないといけないという訳では無い。今の状況で例えるなら、ラフィーナが発動した【獄虹星爆龍閃】とアルメの発動した【獄虹星龍砲】は魔法ランクで比べれば同格。しかし、使い手のクラスで比べればラフィーナが圧倒的に上。よって、ラフィーナが注ぎ込む魔力量は本来の千ではなく二千となり、アルメが注ぎ込む魔力量は本来の千となる。これだけだとどれくらい違うのかもよく分からないと思うので、もう少し説明を付け加える。
この世界に住む生物全てには体内に魔力を宿していることが当たり前となっている。そして冒険者にとって強さを表すのは肉体と魔力の量。ここでは肉体に関しての事は放っておいて魔力量の方だけに注目する。同じ生物とはいえ、全員が全員同じ量の魔力を有している訳では無い。これ迄の中で一番多くの魔力を体内に有していたのは数千年前に亡くなった天災級魔法の使い手【ククル・セグネイト】という男だった。その男の魔力量は一万であり、それからはククルの魔力量を基準に冒険者達の魔力量の比較がされる様になった。因みにシエンの魔力量は七千五百と高くもなく低くもないと言った感じだ。
(私の魔力量が六千。それに比べて、冒険者カードを確認した限りでは、アルメさんの魔力量は三千六百程度)
シエンやラフィーナの様な魔力量はS級で充分にやっていける数だが、アルメの今の魔力量ではS級でやっていくのは無理がある。だからこそ、ここで魔力量四千まで到達してもらうために限界を超えてもらうことになる。
「さぁ、早く限界を超えてください。残り時間1分ですよ。貴方はこの程度の覚悟で挑戦したのですか?」
「…んなわけないだろ!!」
「口先だけでは駄目です。この魔法に打ち勝ち、証明してください!貴方の覚悟を!!」
ラフィーナがここで初めて大きな声で、アルメを鼓舞した。
「…うぉおおおおおおおおおおおおおお!!」
ほとんど体内に魔力が無いのが嫌でもわかる。それでもアルメは負けないという想いだけで【獄虹星龍砲】を維持する。頭に浮かぶのは、妹や弟達の笑顔。
(そうだ…俺は…負けられないんだ。妹弟達のためにも!!)
その時、奇跡が起きた。稀に起きると言われる【想い】の強さが魔力量を覆すという奇跡が。
「…威力が増した」
ラフィーナは微かに感じた強い魔力に反応する。
(どうやら強い想いが圧倒的な魔力量を覆したようですね)
ラフィーナはかつてシエンが言っていたことを思い出す。
『想いの強さは常識を簡単に覆す』という言葉を。
「やはり【想い】と言うのは恐ろしいものですね」
その一言と共に、【獄虹星爆龍閃】が【獄虹星龍砲】により形を維持できなくなり崩壊し、ラフィーナの木剣を砕くと共に身体を吹き飛ばした。そして、壁に直撃した瞬間、試験終了の音が鳴る一秒前に【試験合格】という魔法文字の表示が上空に浮き上がったのだった。
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