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第一幕:【魔盗団】殲滅作戦編
西都からの来客
しおりを挟むカダが消えてから数分後。やっと緊張の糸が切れ、硬直していた体が動くようになったシエンは先程聞いた全ての情報を一語一句忘れない内にギルド統括者に伝える為に、ラフィーナ達全員を近くに寄せて転移魔法で冒険者ギルド【クレイセルド】職員専用の裏口に移動する。そして中へと入り、まずはラフィーナ達を医務室に運び込んで寝かせておく。
「さて、イドルさんに報告しないと」
シエンは急いでギルド統括者の部屋に向かう。その道中で、
「おやおやおや? どこぞの駆け出し君かと思ったら、後輩くんじゃないか。まだまだ休憩時間じゃないというのにどこに行くんだい?」
そう声をかけてきたのは絶賛サボり中だったらしいメイナだった。毎度の如く、持ち場から離れてフラフラとギルド内を歩き回っている彼女。普段であればライネスが捕まえに来るはずなのだが、厨房の仕事がまだ終わっていない様で捕まることは無いという余裕があるのだろう。
「もぐもぐ」
片手に持った袋に入っているお菓子をめちゃくちゃ食らっていた。どこからかっさらってきたのかは知らないが、シエンやラフィーナの様な下っ端職員以外に見つかったらお仕置確定案件だ。
「それで?どこ行くの?」
ひと休憩といった感じでお菓子を食らう手を止め、シエンに尋ねる。しかし、そんなことを答えてる暇がないシエンは『また後で話します』とだけ告げてその場をあとにしようとするが、
「ふーん。どこ行くか知んないけど、一応連絡。父さんが君を呼んでたよん♪」
聞き捨てならない言葉が聞こえ、足を止める。
「その話、本当ですか?」
「モチのロン。どうやらなんかしらの件で西都レインセマムから西守獣騎士団がご来訪なさったみたいでね。今はそれについてのお話中でそれが君にも関係あるお話みたいだよ」
もぐもぐもきゅもきゅ、と食べるのを再開したメイナが詳しいことを伝える。西都レインセマムからわざわざ来るということは大事だ。失踪事件といい、【刻罪ノ欠片】や世界改変、そしてこのタイミングでの西守獣騎士団の来訪。あまりにも都合がよすぎる。もし、自分が得た情報が西守獣騎士団の来訪理由と関係があるのならば伝えるべきだろう。それにあちらから呼ばれているなら好都合だ。
「教えてくれてありがとうございます、メイナさん」
「ん、気にしなくていいよ~。このお菓子貰う代わりに父さんに頼まれただけだから」
メイナはもぐもぐと食べながら告げる。その言葉にシエンは、『それでめんどくさがり屋の彼女がここにいたのか』と納得する。普段なら、誰の頼み事も『めんどい』と断る彼女は、毎度の如く冒険者と口論になることが多く大変だった。おかげで冒険者に怒られるのは毎回、何故かシエンだった。
「それじゃ、失礼します」
「ん。またねー」
シエンはメイナと別れ、ギルド統括者の部屋に向かい、扉を開ける前に軽く深呼吸する。そしてドアを数回ノックする。暫くして部屋の中から、
「今は大切なお客様とお話をしてる最中なんだが、誰かな?」
イドルさんの静かだが耳にすっと入ってくる声が返ってきた。その声の雰囲気に一瞬、呑まれかけるが頭を降って誤魔化す。そして、
「シエンです」
と答える。それから暫くして
「あぁ、シエン君か。ごめんごめん、入ってきていいよ」
さっきの声とうって変わり、柔らかい声が返ってくる。シエンは『失礼します』という言葉と共にドアノブを回し扉を開ける。そして最初に視界に入ってきたのは、
「やぁ、いらっしゃい」
シエンを笑顔で出迎えるイドルと、西都レインセマムの象徴である炎虎の紋章が胸に施された軍服に似た灰色のコートを羽織った金髪の女性の姿だった。
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