上 下
7 / 42
第一幕:【魔盗団】殲滅作戦編

真の番人

しおりを挟む

神殿の最奥。そこには宝物庫の扉があった。シエンは魔法トラップが張られてないかを地面に落ちていた石ころを投げて確認する。すると、扉に触れた石ころが雷の槍に砕かれる。どうやら、今回の魔法トラップは【雷帝らいてい怒槍どそう】らしい。

「なかなか厄介な魔法トラップをしかけやがるな」

シエンは拳銃を再び取り出し、銃口を扉に向ける。そして、

「魔弾装填--地の魔精霊よ。汝、弾丸となりていかづちを滅しろ」

と唱える。すると、その声に応じた地の魔精霊が地面から出現し、己が肉体を弾丸へと変換させて宝物庫の中心に埋め込まれている【雷帝の怒槍】の起動魔法陣を貫き破壊する。

「よし、開けるか」

シエンは魔法トラップが無効化された扉に手をふれ開ける。最初に視界に入ってきたのはいくつもの冒険者の白骨死体。その次に一振の剣を床に刺してその柄を握る格好をした石像があった。普通の石像にしては微かな魔力を帯びている。おそらくだが、魔力で動く仕組みなのだろう。

「真の番人はこの石像ってことか?」

シエンは試しに下位呪文で小さな炎を放つ。その炎が石像に少しづつ迫り、刹那、強烈な風が石像を守るように巻き起こった。

「なるほど。自動防御魔法陣か」

先程、石像を守った風は【自動防御魔法陣】によるもの。かつて太古の時代に存在していたという【失われし呪文】の一種だ。 他にも【自動攻撃魔法陣】、【自動治癒魔法陣】がある。この魔法は本来であれば人にかけることしか出来ない。しかし、石像にかけられるということは相当の魔法陣の使い手だ。

「しかも、数千年前の魔法陣が未だに残ってるなんてな」

拳銃に魔弾を一気に4つも装填しながら呟く。そして、一度息を吸い、狙いを定める。石像の額へと。

「赤、青、黄、緑の弾丸は混合し、全ての因果を断ち切る」

詠唱が終わるのと同時に引き金をひいた。放たれた赤、青、黄、緑の弾丸は途中から混合しひとつの弾丸となりて石像の額へと向かう。そして先程のように【自動防御魔法陣】の効果により風が生まれる。そう予想していた青年の読みを石像は覆す。風が生まれたかと思えばそれは風ではなく透明な薄い鏡だ。その鏡に弾丸が直撃し、貫くかと思いきや、キンッと跳ね返す音がなり、シエンの方へと返ってきた。

「--くっ!?」

反射による弾丸が自身の額に触れる手前、シエンはギリギリで身を躱す。久しぶりに死の匂いを感じ取ったシエンは吐き捨てるように告げる。

「はっ。まさか、【自動防御魔法陣】以外に【自動反撃魔法陣】までかけられてるなんてな」

シエンはどうしたものかと拳銃に魔弾を装填しながら考える。【自動防御魔法陣】と【自動反撃魔法陣】を突破するのはそこまで難しくないが、この二つが掛けられているということはまだ謎があるはずだ。そんなことを考えていると、

『汝、強さの証を示せ』

男の声が響き、石像が動いた。床に刺された剣を引き抜き、切っ先をシエンに向ける。それが合図だ。

「--っ!?」

瞬き一つの時間で目前まで剣の先端が迫り、紙一重で身を躱すが、躱した先に石像の拳が存在し、思い切り顔面をとらえる。硬い石の感触が顔面を襲い、シエンの身体が吹き飛ぶ。ダラァッと鼻から血が垂れ、顔に痣が生まれる。一瞬の気の緩みで意識が持っていかれそうだ。

「ペッ。こんな依頼ならもう少し金ぶんどっとけば良かったかな」

シエンは口の中の血を吐き捨て、少し後悔する。簡単な依頼だと聞いていたから受けたものの今度からは多少は気をつけようと反省しつつ、射撃で中距離を保つ。流石に接近戦は分が悪い。だが、石像はそんなことお構い無しと弾丸を体で弾きながら徐々に距離を詰めてくる。そして、再び石像の間合いまで距離が縮まる。

『終わりだ、人間』

石像が剣を振り上げ、告げる。もう避ける時間はない。絶対絶命の状況下。その中でシエンは含みのある笑みを浮かべ、

「終わるのはお前だ、バーカ」

とある一点へと狙いを定め、引き金をひいた。パァンっという乾いた音がなり、続けて砕ける音がした。その音は石像の右肩から鳴ったもの。それに伴い剣が地面へと落下する。

『どういう…事だ?』

何が起こったのか分からない石像。それの額に銃口を向け、

「どんな硬いもんでもな、何度も同じ場所に傷をつければ壊れるもんなんだよ。それと【自動防御魔法陣】と【自動反撃魔法陣】に頼るつもりだろうけど、もう無意味だよ」

引き金に指をかけ、

「--数千年もおつかれ」

労いの言葉と共に石像の核を撃ち砕いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...