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序幕:闇夜の鴉

とある街の英雄譚(改訂)

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世界にはモンスターと呼ばれる恐ろしき害獣が存在する。彼等がどこから現れどうして現れたのかを知る者は誰もいない。ただ、それが世界の常識として広まったのは数十年後。そして現在---各地に設立された冒険者ギルドで【冒険者】という職業を生業とした者達が人々を守っていた。

--①--

貧困街アネス。そこは統治者である貴族が没落したことにより2年前から貧困と化してしまった元裕福街。そんなアネスには没落貴族に代わり、冒険者という職業を利用した荒くれ集団が1年前に我が物顔で支配を始めた。それからというもの、若い女性や若い男性は冒険者達の慰め者とされ、逆らう者や気に入らない者は処刑されてきた。

「はぁ~。こいつにも飽きたな」

「そりゃそうっすよ。アニキ!」

「こんなに使い回せば反応も悪いし飽きますって」

豪奢なベッドで横たわる今にも呼吸困難で死にそうな程に息が荒れて虚ろな目をした全裸の女性から視線を外して、ため息をつく巨漢の男に、取り巻きらしき二人の男が声をかける。

彼等は、貧困街アネスを支配する荒くれ冒険者のリーダーとその仲間。三人は毎日の様に若い女を無理矢理攫い襲っては精神が壊れるまで犯し尽くしていた。余りにも非人道的な悪行に逆らう者は誰もこの街には居ない。なぜなら、逆らえばどんな目に合うかを人々は既に思い知らされているからだ。統治者の公開処刑で。 だからこそ人々は彼等の悪行に耐えて耐えて耐えてきた。いつか、自分達を救ってくれる英雄が現れるのを信じて。

そして--ついに英雄が姿を現す。いや、彼はきっと英雄でも救世主でもヒーローでもないのかもしれない。

アネスの象徴と言われる屋敷【クロノア】の窓から微かに中を覗く一つの影。人影と例えれるのか疑問を抱いてしまうほどに人の原型のない影。しかし人影に見えなくもない。だからこそここでは影と表現させてもらおう。その影には影姫ノ使者カリウスの象徴と言われる魔鴉レゼの面が付いていた。

「・・・・」

何かを呟いた影が姿を消す。それと同時に荒くれ集団のリーダーと仲間2人がいる部屋が漆黒に染まる。言葉の通り光ひとつない孤独のような純黒。


「な、何が起ぎゃあああああああああ!?」

「お、おい!どうし・・・いだい!?いだいよおおおおおおおおおおおお!?」

「お、お前ら落ち着け!!クソ!敵襲だ!全員でてこい!おい!!」

漆黒の中で響く仲間2人の悲鳴に荒くれリーダーが冷静を装いながら他の仲間を呼ぶ。しかし部屋の外で見張っていたはずの見張り達が駆け込んでくる様子がない。

「は?? お、おい!聞こえてんだろ!早く助けに来い!お・・・ひぃ!?」

叫んでいた荒くれリーダーが小さな悲鳴の声を漏らす。というのも突然、首に冷たく硬いなにかが触れたからだ。冒険者である荒くれリーダーはそれがなんなのか分かっていた。人の首を容易く掻っ切るには十分すぎるナイフ。ゴクリと荒くれリーダーが息を呑む。そんな彼の耳に、

「答えろ。お前が--【荒骨こうこつ螺旋らせん】頭領のロッセか?」

と若い男の底冷えた声が囁かれる。ここでシラを切れば逃げ切る可能性もあるが、冒険者としての本能が嘘をつく事を否定している。だからこそ彼の口から漏れるのは怯えた様な悲鳴と荒ぶった呼吸。

「お前が悪人であるなら分かるはずだ。この状況で黙る者の末路を」

その一言と共にナイフが首に食い込む。微かな痛みに荒くれリーダーが声を漏らす。しかし答えることがなく、ナイフを持つ影は更に食いこませる。すると、

「そ、そうだ!お、俺がロッセだ!! 黙ってたのは悪かった!!だ、だから許してくれ!見逃してくれ!!」

荒くれリーダーことロッセが遂に影の質問に応えた。その返答に影はただ一言『そうか』と呟くと、ロッセの首をナイフで掻っ切った。そして栓を抜かれた切り口から大量の鮮血が噴出し、漆黒に赤が映り込む。

「悪人に助けを求める権利なんてあるわけないだろ」

影は光の差さない暗い瞳で遺体を一瞥し、再び姿を消した時には、漆黒に染まっていた屋敷の部屋は元の色を取り戻していた。しかし最初の頃と違い、真っ白な床は赤い鮮血に彩られ、首を掻き切られ息絶えた【荒骨ノ螺旋】頭領ロッセと腹部に大きな穴が空いた男と頭部を潰された男の亡骸、そして--鴉の羽が存在した。

のちに、これを見た貧困街の住民達は口々にこう語る。

影姫えんき様の使者が我々を救う為に現れた』と。

そしてその話はあらゆる尾ひれがつき、各地に使者えいゆうの名が広まった。

影姫ノ使者カリウス】と。
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