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番外編
慈愛園七夕祭り⑤
しおりを挟む時刻は19時。慈愛園七夕祭りのフィナーレ【星輝の舞】が行われるまで後5分ほど。学校へとやってきた生徒、先生や遊びに来た外部の人達はグラウンドに集まっていた。
「あぁ、これで七夕祭りも終わりかぁ」
「もっと食べたかったな~」
「お前は散々食ったろ!」
「んぎゃ!?」
こめかみグリグリ攻撃に雫が『痛い痛い』と泣きわめく。だがグリグリをやめることはない。沢山食べてたくせに食べ足りないのは許せない。俺の所持金がどれだけこいつの食費に消えていったか…。
「--あんた何してんの?」
ふいに隣から声をかけられる。俺はそちらに目をやると一人の女子生徒が立っていた。
「お、リィンじゃん。やっと棺桶から出てきたのか?」
太陽が出てる間は棺桶から出ないリィンに声をかける。それに対し、
「ずっと棺桶の中にいたかったけど、華薇先生に出てこないと棺桶破壊するぞ、って言われたから仕方なくよ…」
不機嫌そうに口をとがらせる。
「ははは、それは大変だったな。ま、せっかくなんだし【星輝の舞】を一緒に見ようぜ」
「別にいいけど、とりあえず雫の頭から手を離してあげたら?」
「・・・あ」
リィンとの会話に夢中になっていたが、そうえば雫の頭をグリグリしていたのを忘れていた。俺は即座に、こめかみから拳を離す。
「んきゅ~」
なんか言語とはかけ離れたよく分からない声を漏らした後、雫はペタンと座り込む。
「やっちまった」
「やっちまった、じゃないわよ。全くあんたは」
リィンは座り込む雫を呼び出した棺桶に横たわらせて、ため息をつく。相変わらず便利な棺桶だとつくづく思う。
「っと、こんなことしてる間にもう【星輝の舞】が始まる時間じゃねえか」
そう呟いたタイミングで、パンッパンッと花火が弾けるような音がした。ただし、それは花火ではなく、星族による星火だ。まぁ、星火も花火も大して変わらないが。しばらく星火が弾けた後、美しい着物と羽衣を纏った五体の星族が星空に姿を現す。
キラキラと輝く星とどこまでも黒く綺麗な空をバックに星族が何も発することなく舞い始める。その度に星も舞う。あらゆる星座がその名前の意味どおりの姿で舞い踊る。ただしこれはまだ前座のようなもの。【星輝の舞】の1番の目玉は、美しければ美しいほど、流れ星が落ちるということ。だからこそこの祭りを楽しみにしている人達は多い。
どんどんと星族の舞は美しさを際立たせ、人々の視線を独り占めする。それは誰しもが星族の洗練された動きに見惚れているからだ。
そして、ソレは来る。
無数の流れ星が黒い空を裂くように軌跡を描く。
「きたきた!願い事言わねえと!」
「早く願わなきゃ!」
「うん、そうだね」
京治、桜花、新は目を瞑り何度も心の中で願い事を唱える。それにならい、俺も願い事を唱える。
こんな楽しい日がこれから先も続きますように、と。
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