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一学期【恋する乙女】編
『恋する乙女』で『ストーカー』②
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「落ち着いたか? 結城ちゃん」
俺は結城琴乃葉の頭を撫でながらできるだけ優しい声で尋ねた。彼女は目元の涙を拭い、首を縦に傾けた。彼女の部屋にお邪魔して現時刻午後9時、あと二時間後には警察に補導される時間だ。因みに女の子の部屋に案内されたからといってドキドキしたりしない。 まぁ、実際はしたのだけど。 健全の男子高校生あるあるだと俺は思うから恥ずべき事ではない。
「それじゃ、話の続きをしようか」
俺は結城琴乃葉が落としたスケッチブックを拾いあげ、机に置いた。 そして一度、お茶を啜って彼女の返事を待った。
「ん!!」
結城琴乃葉は頬を微かに赤らめながら、スケッチブックを開きとあるページを突き出した。それは俺が中学生の頃に描いた『紺髪の青年と黒髪の青年』の立ち絵のページだった。
そこで俺はふと琴乃葉結先生最新作小説の表紙絵を思い出した。俺は学生鞄から小説を取り出し、その表紙絵とスケッチブックの絵を見比べた。
「あぁ、これ俺が昔描いてた奴か」
「ん!」
結城琴乃葉は首を何度力強く縦に振った。俺は小説とスケッチブックから目を離し、
「君は俺の絵に憧れてたのか?」
「ん」
「そうか。 でも、少し俺の描いてた絵と違うんだな」
「少し・・・手直しした」
結城琴乃葉はそう言って目の前で一枚の絵を描いた。それは俺が昔描いていた『銀髪の巫女』の絵だ。 しかし、目の形や髪型、小物類等は全くの別物だ。おっとりしていた目が凛々しくなっており、髪型もショートヘアからロングヘアに変わっていた。 おまけに手に持っていた天秤は錫杖へと変わっていた。衣装もワンピースみたいなのから貫頭衣へと変わっていた。しかもそれは俺の絵なんか比較にならないほど上手い絵だった。要するに俺のが下位で彼女のが上位版という感じだ。
「負けました」
「そ、そんなこと・・・ない」
思わず敗北宣言をした俺に、結城琴乃葉は恥ずかしそうに否定した。嬉しいけど、まだそんなにと素直に思っているのだろう。 こういう時、俺が嫌いになるタイプはふたつ。
ひとつは、褒められて調子に乗るタイプ。
もひとつが、内心は当たり前だと思っているが、表に出さないタイプ。
だが結城琴乃葉はどちらにも当てはまらない。 心の底から嬉しく思い、それでいてまだまだ成長出来ると頑張る努力家タイプだ。 こういうタイプはとても好きなタイプで、共感できる。 だが、それも昔の話だ。 今の俺に、頑張ろうという気持ちはない。 努力しても無理だと知ってしまったから・・・俺は絵を描くことをやめた。これからはそこそこの人生を歩む。 平凡で飛び抜けた出来事がない現実を俺は生きる。 そう、例え、周りが普通じゃない奴らばかりだとしても。
「そっか、あ、そろそろ帰るね。 明日、学校で話の続きをしようか。 文芸部にいるから待ってるね、結城ちゃん」
「あ・・・」
結城琴乃葉は何か言いたそうな顔でこちらを見た気がしたが、俺はごめんね、と頭を下げメアドの紙を置いて自宅へと帰宅した。
結城琴乃葉の家の帰り道、俺は彼女が最後に何を言おうとしていたのか考えていた。
「憧れ? 好き・・・は、ねえよなぁ。 全くわかんねぇ!」
俺は道路のど真ん中で頭を抱えて叫んだ。クスクスと聞こえる笑い声に俺は恥ずかしくなり慌ててその場を後にし、家の前まで猛ダッシュした。 俺はドアノブをつかみ家へと入った。
「ただいまぁ・・・ん? 誰かいるのか?」
靴を脱ぐ際に、足元に妹の物とは別の靴を見つけ、俺は不思議に思いながらリビングの扉を開けた。
「おーい、誰か来てる・・・誰?」
扉を開けた先、机に置かれたひとつの鍋を囲むように座る妹と知らない女の子二名。 一人は長い黒髪を後ろで束ねたポニーテールとかいう髪型をした女の子。 傍やもう一人は活発なイメージを醸し出す茶髪ショートボブの女の子。 うん、ほんとに誰? いつから俺の家に妹2人が追加されたの? 勝手な後付け設定はやめて欲しいんですけど? と、そんな言葉を天に向かって叫びたい気分の俺にひょっこりと向いの席から妹華が人懐っこい笑顔を浮かべながら声をかけてきた。
「あ、お兄、おかえり」
「あ、あぁ。 ただいま・・・」
「お兄も早く座りなよ」
「えーと、その前に何してんだ? てかその子達誰?」
俺は思わず口から疑問が零れた。
なぜならこんな時間に妹と同じぐらいの歳の女の子が遊びに来てるのだ。 ちなみに現在の時刻は午後10時だ。あと一時間後には警察様に補導されるレベルです。それに夜は危険がいっぱいだ。 最近では、『誘拐』や『強姦』、『神隠し』の中でも神隠し事件が一番多発している。 朝流れていたニュースでは、服や持ち物だけを残して人だけが消えるおかしな事件が報道されているほど現在、慈愛市は危険に陥っている。その為、18歳以下の未成年者は9時以降歩くのを禁じられている。 といっても、国の法律で決められたものでは無いため、守る人は少ない。 それもそのはずで、これまで慈愛市の犯罪率は2%と発生率はとても低い。それに犯罪といっても万引きやスリというまぁまぁ可愛い程度の犯罪だった。 だというのに突然、犯罪率が倍まで高まり、神隠し事件ばかりが起こるようになった。しかも神隠しにあうのは必ず高校生だけ。となると、俺達も対象に入るのだ。 警察も捜査しているが、全くわからないらしい。それもそのはずで、神隠しなんて非現実的な事が起こるのがまずありえない。 でも最近の慈愛市はどこか変だと俺は少し思っている。根拠はないけどね。 さてさて思考を切り替えて、この状況の説明を聞かないとな。 俺は鞄をソファに置き、妹華の隣の椅子に腰を下ろした。
机に置かれた鍋はどうやらしゃぶしゃぶだった。うん、美味しそうだ。
「所で妹よ、お兄ちゃんはまだこの子達が誰か聞いてないのだが? 昼にいた子達とは違うようだけど、お兄ちゃんに紹介してくれないか?」
「えー、自分で聞きなよ、お兄」
妹華は豚肉を掴みしゃぶしゃぶしながら答えた。何て生意気な妹なのだろう。 オマケにその豚肉は俺が明日、桃芽先輩と士郎先輩の二人に元気になってもらう為に買ってきたものだ。それに野菜などもそん時に焼肉で使う食材だった。 なのに、なのに勝手に使うとかは。 お兄ちゃんはとても悲しい、妹よ。そして妹の友達よ、貴様らも容赦なく肉を貪るんじゃないわ!! どんな教育受けたらこうなるんでしょうかねぇ!? てか自己紹介普通はしない? 妹の兄だよ? 家族ですよ? この家の人に会ったら普通は挨拶するよ? 最近の若者は挨拶もできないの? 俺もう悲しい...
「お兄、さっきから顔がキモイんだけど」
「キ、キモイだと? お、おま、お兄ちゃんに向かってなんて事を!」
「はぁ? 妹だからこそ言えることでしょ? それともなに、お兄って私以外の女の人にそういうこと言われて興奮する人なの? うわぁ、引くわ~」
妹華はからかうように口元に手を当てニヤニヤしながらムカつく口調で告げた。
「・・・それは無い」
「その間は何? 少しだけそれいいなぁとか思ったでしょ、妄想大好きお兄」
「お、思ってないし!? お、俺、蔑まれるより蔑む方が好きだし!・・・あ」
思わず口に出してしまったが、そうえば妹の他に2名いたの忘れてた。 俺は冷汗ダラダラの顔でそちらを見れば、黒髪ポニテはドン引き、茶髪ショートボブは頬を赤らめていらっしゃる。 うんうん、黒髪ポニテさんの方の反応はわかる、分かるけどさ、茶髪ショートボブさんの反応は理解し難いかな。べ、別に俺はドSでもドMでも無いわけで、いわゆるノーマルですので、はい。 そこは誤解のないよう。 てことで誤解を解くのと共に彼女らの名前でも聞いておこうか。
「君たちに質問なんだけど、自己紹介お願いしていい? 因みに俺の事は妹から聞いてる感じかな?」
「えぇ、知ってますよー、妹に欲情する変態お兄さんだって」
「・・・ん? 欲情、変態?」
聞き捨てならないワードが二つも出てきてお兄ちゃんはどれから聞けばいいのかわからないよ? 妹華はいつも俺のあることない事をクラスメイトに言いふらしてんの? そんなにお兄ちゃんが嫌いなのかな、妹よ。
「まぁ、その事は後でじっくり妹華から聞くとして、君、名前は?」
「あ、そうえばそうでしたね。 えーと、ワタシは、白凪桔梗です。 妹さんとは仲良くさせてもらってまーす、よろしくね、おにーさん♪」
黒髪ポニテこと白凪桔梗は明るい系なちょっと俺の苦手なタイプでした。ギャル風なのかよく分からないけど、これが最近のギャルなのかな? 俺とは生まれた世界が違うようだ。まぁ、妹華がこんなんだし、彼女も同じタイプだろうとは思ってたから驚かないけどね。
「それじゃ、次に君お願いできるかな?」
俺は執拗にこちらをジーと見つめる茶髪ショートボブさんにとりあえず笑いかけた。 第一印象大事、これ絶対。 ここでコミュ力のあるなしが分かるんだよなぁ。 と、そんなどうでもいいことより、彼女の話を聞かなきゃな。
「え、えーと、ほ、星京翠といいます! よ、よろしくお願いします! お、おにいしゃん!!」
・・・何この萌える生き物。 現実に萌えれる生き物っていたんだね。現実も捨てたもんじゃねえなぁと俺は思いました。所で二人の名前聞けたけど、そこからどうすればいいの? 流石の俺も、妹の友達とご飯食べるのは辛いよ? 特にこの男性が入りにくい雰囲気+知らない人だらけの教室に一人放り込まれた雰囲気感がすごすぎて泣きそうだよ。メスゴリラやイケメン新のコミュ力が欲しい(泣)
最悪、京治のKY力でもいいから(泣)
「俺、外で食ってきたから3人で食いなよ(この場にいるのが辛いから)」
「ん、そうなんだ。 あ、お兄」
「どうした、妹華?(残ってとか言うなよ)」
「ご飯食べ終わったら、二人の家まで送ってくのついてきてくれる?」
妹華はお茶を一気飲みして、頼み事をいう時しか見せない可愛らしい仕草で質問してきた。俺はとりあえずこの場から早く逃げ出したかったのでその質問に了承して鞄を手に自室へと篭った。
「さて、部屋に戻ったのはいいがすることないしなぁ」
俺は教科書類が乱雑に積まれた机の上で頬杖をつきながら呟いた。しかし本当に暇である。 一瞬、新か京治に電話をかけようと思ったがこの時間帯は、新は読書、京治はナニをしているはずだから邪魔したら悪いもんなぁ。 まぁ、これまでに京治の邪魔は何度もしてきたが飽きた。 そうえば、メスゴリラに掛けたことは無かったなぁ。 よし、掛けてみるかな。
俺は鞄から携帯を取り出し、メスゴリラに電話を掛けた。因みにメスゴリラというのは桜花の事である。待つこと数分、ガチャという音が鳴り、少し眠たそうな声が聞こえた。
「もしもし~、こんな時間に何のよお~?」
「あ~、寝てた感じか?」
「当たり前でしょ~、用ないなら切るね」
「あ、あぁ。 なんか悪かったな」
俺はそう謝ると、『別にいいよ~、おやすみ』と桜花の声が聞こえ、それの後にプツンという音が鳴った。 電話が切れたようだ。 なるほど、大発見だ。 桜花はこの時間に寝ている。 そのくせに背は伸びないんだな。
「はぁ、暇だ」
俺はベッドに身を投げて、天井を仰ぎながら呟いた。 いや、ほんとにつまらない。 暇すぎて暇すぎて京治の滑り芸ばかりが頭をよぎる。 俺そろそろ末期かなぁ。 仕方ない、エロ本読むか・・・そうえばエロ本持ってなかったわ。うーん、エロ本ない、エロゲもない、彼女もいない、AVもない、あるのはアニマルビデオ略してAVとライトノベルのみ。 うーん、暇だ。 こういう時、みんなどう暇を潰してんのかなぁ? 学生ズボンを脱ぎながら考えていると、扉が思い切り開かれ、妹華とお友達二名が入ってきた。ちなみにもう1度言うが俺は現在、学生ズボンを脱ぐ途中だ。 となると必然的におパンツ様が『こんにちは』しているわけでして、そのおパンツ様に妹華たちの視線がいくのが恥ずかしいと普通の人なら思うだろう。 だがしかーし!! 所詮は妹と友達! ということは妹とあんま変わらない、いや、同類だ! てなわけで俺はシャツとパンツのみの体勢で声をかけることにした。
「よぉ、もうお帰りか?」
俺は堂々とした立ち振る舞いで妹華に尋ねた。 ちなみに勃ってはいないので誤解なきよう。一つ気になったのは妹の友達二人が俺のパンツを見た時の反応かな。白凪桔梗は蔑んだ瞳をパンツに向け、星京翠はなんか凝視してたしね。あれって、脳内メモリーに焼き付けてるのかなぁ? まぁ、俺のパンツ見て考えつくのは、脅迫に使う材料的な意味としてしか使えない気がするんだよね。 だって俺のパンツで自慰行為するヤツ見たことないよ。 まぁ、自分も見せたことないんだけどね、誰にも・・・まず自慰行為する為のオカズは0だし。 妹の部屋すぐ隣だしね。辛くないけどストレス発散方法が筋トレか料理だけというのはちょっと飽きました。我が親友の京治君が言うには自慰行為は気持ちいらしい。けど、彼と同じ猿扱いはヤダなのでやらないがね。さて、ズボンを箪笥から取り出し・・・股間死んだ_:(´ω`」 ∠):_
「・・・なにすんだ、よ」
俺は尋常じゃないほどの痛みに顔を歪ませながら背後にいる妹を睨みつけた。大して、妹である妹華は蔑んだような瞳でこちらを見つめ口を開いた。
「口を開くな、息を吸うな、心臓を動かすな」
「理不尽すぎだろ!?」
なんだよ、息するなとか・・・心臓動かすなとか、兄である俺に死ねって言ってんの? 酷すぎてお兄ちゃん泣きそう。 それにしても起こらせた理由が分からない。 パンツ見たからってそこまで言うか? というかそもそもノックもなしに入ってくる時点で意味不明。 悪いのは妹達の方だ。 だが、ここでさらに怒りを買うのはまずい。
「わ、悪かったから・・・部屋出ていってくれませんか?」
俺はいまだに痛む股間を押さえながら妹とお友達に懇願した。
「またそれしたら貧相なソレもぎ取るから」
「・・・はい」
妹に貧相って言われたことによる悲しみはどんなことよりも辛かった。
俺は結城琴乃葉の頭を撫でながらできるだけ優しい声で尋ねた。彼女は目元の涙を拭い、首を縦に傾けた。彼女の部屋にお邪魔して現時刻午後9時、あと二時間後には警察に補導される時間だ。因みに女の子の部屋に案内されたからといってドキドキしたりしない。 まぁ、実際はしたのだけど。 健全の男子高校生あるあるだと俺は思うから恥ずべき事ではない。
「それじゃ、話の続きをしようか」
俺は結城琴乃葉が落としたスケッチブックを拾いあげ、机に置いた。 そして一度、お茶を啜って彼女の返事を待った。
「ん!!」
結城琴乃葉は頬を微かに赤らめながら、スケッチブックを開きとあるページを突き出した。それは俺が中学生の頃に描いた『紺髪の青年と黒髪の青年』の立ち絵のページだった。
そこで俺はふと琴乃葉結先生最新作小説の表紙絵を思い出した。俺は学生鞄から小説を取り出し、その表紙絵とスケッチブックの絵を見比べた。
「あぁ、これ俺が昔描いてた奴か」
「ん!」
結城琴乃葉は首を何度力強く縦に振った。俺は小説とスケッチブックから目を離し、
「君は俺の絵に憧れてたのか?」
「ん」
「そうか。 でも、少し俺の描いてた絵と違うんだな」
「少し・・・手直しした」
結城琴乃葉はそう言って目の前で一枚の絵を描いた。それは俺が昔描いていた『銀髪の巫女』の絵だ。 しかし、目の形や髪型、小物類等は全くの別物だ。おっとりしていた目が凛々しくなっており、髪型もショートヘアからロングヘアに変わっていた。 おまけに手に持っていた天秤は錫杖へと変わっていた。衣装もワンピースみたいなのから貫頭衣へと変わっていた。しかもそれは俺の絵なんか比較にならないほど上手い絵だった。要するに俺のが下位で彼女のが上位版という感じだ。
「負けました」
「そ、そんなこと・・・ない」
思わず敗北宣言をした俺に、結城琴乃葉は恥ずかしそうに否定した。嬉しいけど、まだそんなにと素直に思っているのだろう。 こういう時、俺が嫌いになるタイプはふたつ。
ひとつは、褒められて調子に乗るタイプ。
もひとつが、内心は当たり前だと思っているが、表に出さないタイプ。
だが結城琴乃葉はどちらにも当てはまらない。 心の底から嬉しく思い、それでいてまだまだ成長出来ると頑張る努力家タイプだ。 こういうタイプはとても好きなタイプで、共感できる。 だが、それも昔の話だ。 今の俺に、頑張ろうという気持ちはない。 努力しても無理だと知ってしまったから・・・俺は絵を描くことをやめた。これからはそこそこの人生を歩む。 平凡で飛び抜けた出来事がない現実を俺は生きる。 そう、例え、周りが普通じゃない奴らばかりだとしても。
「そっか、あ、そろそろ帰るね。 明日、学校で話の続きをしようか。 文芸部にいるから待ってるね、結城ちゃん」
「あ・・・」
結城琴乃葉は何か言いたそうな顔でこちらを見た気がしたが、俺はごめんね、と頭を下げメアドの紙を置いて自宅へと帰宅した。
結城琴乃葉の家の帰り道、俺は彼女が最後に何を言おうとしていたのか考えていた。
「憧れ? 好き・・・は、ねえよなぁ。 全くわかんねぇ!」
俺は道路のど真ん中で頭を抱えて叫んだ。クスクスと聞こえる笑い声に俺は恥ずかしくなり慌ててその場を後にし、家の前まで猛ダッシュした。 俺はドアノブをつかみ家へと入った。
「ただいまぁ・・・ん? 誰かいるのか?」
靴を脱ぐ際に、足元に妹の物とは別の靴を見つけ、俺は不思議に思いながらリビングの扉を開けた。
「おーい、誰か来てる・・・誰?」
扉を開けた先、机に置かれたひとつの鍋を囲むように座る妹と知らない女の子二名。 一人は長い黒髪を後ろで束ねたポニーテールとかいう髪型をした女の子。 傍やもう一人は活発なイメージを醸し出す茶髪ショートボブの女の子。 うん、ほんとに誰? いつから俺の家に妹2人が追加されたの? 勝手な後付け設定はやめて欲しいんですけど? と、そんな言葉を天に向かって叫びたい気分の俺にひょっこりと向いの席から妹華が人懐っこい笑顔を浮かべながら声をかけてきた。
「あ、お兄、おかえり」
「あ、あぁ。 ただいま・・・」
「お兄も早く座りなよ」
「えーと、その前に何してんだ? てかその子達誰?」
俺は思わず口から疑問が零れた。
なぜならこんな時間に妹と同じぐらいの歳の女の子が遊びに来てるのだ。 ちなみに現在の時刻は午後10時だ。あと一時間後には警察様に補導されるレベルです。それに夜は危険がいっぱいだ。 最近では、『誘拐』や『強姦』、『神隠し』の中でも神隠し事件が一番多発している。 朝流れていたニュースでは、服や持ち物だけを残して人だけが消えるおかしな事件が報道されているほど現在、慈愛市は危険に陥っている。その為、18歳以下の未成年者は9時以降歩くのを禁じられている。 といっても、国の法律で決められたものでは無いため、守る人は少ない。 それもそのはずで、これまで慈愛市の犯罪率は2%と発生率はとても低い。それに犯罪といっても万引きやスリというまぁまぁ可愛い程度の犯罪だった。 だというのに突然、犯罪率が倍まで高まり、神隠し事件ばかりが起こるようになった。しかも神隠しにあうのは必ず高校生だけ。となると、俺達も対象に入るのだ。 警察も捜査しているが、全くわからないらしい。それもそのはずで、神隠しなんて非現実的な事が起こるのがまずありえない。 でも最近の慈愛市はどこか変だと俺は少し思っている。根拠はないけどね。 さてさて思考を切り替えて、この状況の説明を聞かないとな。 俺は鞄をソファに置き、妹華の隣の椅子に腰を下ろした。
机に置かれた鍋はどうやらしゃぶしゃぶだった。うん、美味しそうだ。
「所で妹よ、お兄ちゃんはまだこの子達が誰か聞いてないのだが? 昼にいた子達とは違うようだけど、お兄ちゃんに紹介してくれないか?」
「えー、自分で聞きなよ、お兄」
妹華は豚肉を掴みしゃぶしゃぶしながら答えた。何て生意気な妹なのだろう。 オマケにその豚肉は俺が明日、桃芽先輩と士郎先輩の二人に元気になってもらう為に買ってきたものだ。それに野菜などもそん時に焼肉で使う食材だった。 なのに、なのに勝手に使うとかは。 お兄ちゃんはとても悲しい、妹よ。そして妹の友達よ、貴様らも容赦なく肉を貪るんじゃないわ!! どんな教育受けたらこうなるんでしょうかねぇ!? てか自己紹介普通はしない? 妹の兄だよ? 家族ですよ? この家の人に会ったら普通は挨拶するよ? 最近の若者は挨拶もできないの? 俺もう悲しい...
「お兄、さっきから顔がキモイんだけど」
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「・・・それは無い」
「その間は何? 少しだけそれいいなぁとか思ったでしょ、妄想大好きお兄」
「お、思ってないし!? お、俺、蔑まれるより蔑む方が好きだし!・・・あ」
思わず口に出してしまったが、そうえば妹の他に2名いたの忘れてた。 俺は冷汗ダラダラの顔でそちらを見れば、黒髪ポニテはドン引き、茶髪ショートボブは頬を赤らめていらっしゃる。 うんうん、黒髪ポニテさんの方の反応はわかる、分かるけどさ、茶髪ショートボブさんの反応は理解し難いかな。べ、別に俺はドSでもドMでも無いわけで、いわゆるノーマルですので、はい。 そこは誤解のないよう。 てことで誤解を解くのと共に彼女らの名前でも聞いておこうか。
「君たちに質問なんだけど、自己紹介お願いしていい? 因みに俺の事は妹から聞いてる感じかな?」
「えぇ、知ってますよー、妹に欲情する変態お兄さんだって」
「・・・ん? 欲情、変態?」
聞き捨てならないワードが二つも出てきてお兄ちゃんはどれから聞けばいいのかわからないよ? 妹華はいつも俺のあることない事をクラスメイトに言いふらしてんの? そんなにお兄ちゃんが嫌いなのかな、妹よ。
「まぁ、その事は後でじっくり妹華から聞くとして、君、名前は?」
「あ、そうえばそうでしたね。 えーと、ワタシは、白凪桔梗です。 妹さんとは仲良くさせてもらってまーす、よろしくね、おにーさん♪」
黒髪ポニテこと白凪桔梗は明るい系なちょっと俺の苦手なタイプでした。ギャル風なのかよく分からないけど、これが最近のギャルなのかな? 俺とは生まれた世界が違うようだ。まぁ、妹華がこんなんだし、彼女も同じタイプだろうとは思ってたから驚かないけどね。
「それじゃ、次に君お願いできるかな?」
俺は執拗にこちらをジーと見つめる茶髪ショートボブさんにとりあえず笑いかけた。 第一印象大事、これ絶対。 ここでコミュ力のあるなしが分かるんだよなぁ。 と、そんなどうでもいいことより、彼女の話を聞かなきゃな。
「え、えーと、ほ、星京翠といいます! よ、よろしくお願いします! お、おにいしゃん!!」
・・・何この萌える生き物。 現実に萌えれる生き物っていたんだね。現実も捨てたもんじゃねえなぁと俺は思いました。所で二人の名前聞けたけど、そこからどうすればいいの? 流石の俺も、妹の友達とご飯食べるのは辛いよ? 特にこの男性が入りにくい雰囲気+知らない人だらけの教室に一人放り込まれた雰囲気感がすごすぎて泣きそうだよ。メスゴリラやイケメン新のコミュ力が欲しい(泣)
最悪、京治のKY力でもいいから(泣)
「俺、外で食ってきたから3人で食いなよ(この場にいるのが辛いから)」
「ん、そうなんだ。 あ、お兄」
「どうした、妹華?(残ってとか言うなよ)」
「ご飯食べ終わったら、二人の家まで送ってくのついてきてくれる?」
妹華はお茶を一気飲みして、頼み事をいう時しか見せない可愛らしい仕草で質問してきた。俺はとりあえずこの場から早く逃げ出したかったのでその質問に了承して鞄を手に自室へと篭った。
「さて、部屋に戻ったのはいいがすることないしなぁ」
俺は教科書類が乱雑に積まれた机の上で頬杖をつきながら呟いた。しかし本当に暇である。 一瞬、新か京治に電話をかけようと思ったがこの時間帯は、新は読書、京治はナニをしているはずだから邪魔したら悪いもんなぁ。 まぁ、これまでに京治の邪魔は何度もしてきたが飽きた。 そうえば、メスゴリラに掛けたことは無かったなぁ。 よし、掛けてみるかな。
俺は鞄から携帯を取り出し、メスゴリラに電話を掛けた。因みにメスゴリラというのは桜花の事である。待つこと数分、ガチャという音が鳴り、少し眠たそうな声が聞こえた。
「もしもし~、こんな時間に何のよお~?」
「あ~、寝てた感じか?」
「当たり前でしょ~、用ないなら切るね」
「あ、あぁ。 なんか悪かったな」
俺はそう謝ると、『別にいいよ~、おやすみ』と桜花の声が聞こえ、それの後にプツンという音が鳴った。 電話が切れたようだ。 なるほど、大発見だ。 桜花はこの時間に寝ている。 そのくせに背は伸びないんだな。
「はぁ、暇だ」
俺はベッドに身を投げて、天井を仰ぎながら呟いた。 いや、ほんとにつまらない。 暇すぎて暇すぎて京治の滑り芸ばかりが頭をよぎる。 俺そろそろ末期かなぁ。 仕方ない、エロ本読むか・・・そうえばエロ本持ってなかったわ。うーん、エロ本ない、エロゲもない、彼女もいない、AVもない、あるのはアニマルビデオ略してAVとライトノベルのみ。 うーん、暇だ。 こういう時、みんなどう暇を潰してんのかなぁ? 学生ズボンを脱ぎながら考えていると、扉が思い切り開かれ、妹華とお友達二名が入ってきた。ちなみにもう1度言うが俺は現在、学生ズボンを脱ぐ途中だ。 となると必然的におパンツ様が『こんにちは』しているわけでして、そのおパンツ様に妹華たちの視線がいくのが恥ずかしいと普通の人なら思うだろう。 だがしかーし!! 所詮は妹と友達! ということは妹とあんま変わらない、いや、同類だ! てなわけで俺はシャツとパンツのみの体勢で声をかけることにした。
「よぉ、もうお帰りか?」
俺は堂々とした立ち振る舞いで妹華に尋ねた。 ちなみに勃ってはいないので誤解なきよう。一つ気になったのは妹の友達二人が俺のパンツを見た時の反応かな。白凪桔梗は蔑んだ瞳をパンツに向け、星京翠はなんか凝視してたしね。あれって、脳内メモリーに焼き付けてるのかなぁ? まぁ、俺のパンツ見て考えつくのは、脅迫に使う材料的な意味としてしか使えない気がするんだよね。 だって俺のパンツで自慰行為するヤツ見たことないよ。 まぁ、自分も見せたことないんだけどね、誰にも・・・まず自慰行為する為のオカズは0だし。 妹の部屋すぐ隣だしね。辛くないけどストレス発散方法が筋トレか料理だけというのはちょっと飽きました。我が親友の京治君が言うには自慰行為は気持ちいらしい。けど、彼と同じ猿扱いはヤダなのでやらないがね。さて、ズボンを箪笥から取り出し・・・股間死んだ_:(´ω`」 ∠):_
「・・・なにすんだ、よ」
俺は尋常じゃないほどの痛みに顔を歪ませながら背後にいる妹を睨みつけた。大して、妹である妹華は蔑んだような瞳でこちらを見つめ口を開いた。
「口を開くな、息を吸うな、心臓を動かすな」
「理不尽すぎだろ!?」
なんだよ、息するなとか・・・心臓動かすなとか、兄である俺に死ねって言ってんの? 酷すぎてお兄ちゃん泣きそう。 それにしても起こらせた理由が分からない。 パンツ見たからってそこまで言うか? というかそもそもノックもなしに入ってくる時点で意味不明。 悪いのは妹達の方だ。 だが、ここでさらに怒りを買うのはまずい。
「わ、悪かったから・・・部屋出ていってくれませんか?」
俺はいまだに痛む股間を押さえながら妹とお友達に懇願した。
「またそれしたら貧相なソレもぎ取るから」
「・・・はい」
妹に貧相って言われたことによる悲しみはどんなことよりも辛かった。
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