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番外編続編 再びの出会い Ⅴ (完結編)
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五
オレは緊縛され、スチール製デスクの上に座らされていた。
「一博。綺麗だ」
マジックミラーの正面に向かされているので、オレは、自分の姿を見ることができた。
腰にまかれていた縄は、オレの裸身を飾る装飾と化していた。
男にしては柔らかさのある肌に、縄が深く食い込む。
縄は、オレの胸の前でクロスされ、食い込んでいる。
痩せているが、発達して厚みを持ったオレの胸筋が、ふくらみを見せる。
立ち上がった胸の紅い果実は、上向き、己の存在を誇示していた。
「なぜ、オマエはそんなに卑猥で、それでいて汚らわしさがひとかけらもないんだ」
鈴木は、悔しげに口辺をゆがめ、敗北宣言のようにつぶやいた。
オレの脚は、それぞれ折り曲げられた形で拘束され、M字に開脚状態だった。
「一博、何故、オマエは存在する?」
鈴木の目が、細められる。
オレの背後に周って、後ろから、オレの胸の両の果実を、指でつまんで弄くった。
胸を鷲掴みにし、強い力で揉みしだく。
「ん。ん。ん……」
口にはめられたボール・ギャグのため、言葉にならない。
もっと強く。もっと……。
オレは身を震わせた。
「人形のように、作り上げられた完璧な肉体だ。どんな姿にされようとも、輝きと美しさを失わぬ清らかさは、何処から来るんだ」
鈴木は呻くように独白した。
「一博、オマエは、暗く汚い内面に比して、侵しがたい高潔な身体の持ち主だ」
鈴木は、オレの胸から腹部へと指を滑らせた。
臍に軽く触れる。
「腹部にできた、ほんの僅かな肉の襞が、彫刻や人形などではなく、生身の人間であることを物語っている。完全ではあるが、生身であるから美しい」
鈴木は、まるで詩を朗読するように、感情のこもらない賛辞の言葉を吐いた。
鈴木、オマエは、オレの虜になるな。
そんな小さい男に成り下がるな。
オレは、頭を振った。
マジック・ミラーに映るオレの姿は、限りなく刺激的だ。
刑事たちは、ミラーの向こうで見て、この光景を〝オカズ〟にしている。
そう思うと、オレのものはさらに硬度を増した。
鈴木は、オレの顎をつかんで上向かせ、緘口具を施された口の端から流れ出る雫を、丁寧に舐め取った。
「あぁぁ。あ、ぁぁ」
オレの口から漏れるのは、吐息と、声にならぬ声。
なんて無様なんだ。
耳に響く自分の声に、オレは欲情する。
もともと惨ったらしく醜いマゾ男が、さらに惨めな姿になって喜ぶことは醜悪の極みでしかない。
だけど、限りなく美しい自分が、辱められる姿はアートだ。
美しいオレを見てくれ。
オレを愛してくれ。
だけど、オレに跪くような、安っぽい愛は、要らない。
オレは矛盾した感情を抱く。
勝負は負けたくない。
鈴木をオレに跪かせたい。
だけど、そうなれば、もう鈴木とはお終いだ。
勝敗が決まれば、もうゲームは面白くなくなってしまう。
だが、勝ちたい。
負ければ、どうなるか。
鈴木がオレに魅力を感じなくなり、少しでも興味を失えば、オレは、その場限りの〝娯楽〟に供され、闇に葬られてしまう。
考えもつかぬ残酷な方法で。
鈴木が、オレに興味を抱く限り、オレは無事というわけだ。
鈴木は、快楽殺人者だ。
鈴木が、オレの魅力に完全に屈服すれば、オレにとってつまらぬ相手に成り下がる。
けど、鈴木が、オレを殺害しても惜しくないという気持ちを持てば、オレはこの世とおさらばなのだ。
この場では殺されずとも、長い懲役が待っているかもしれない。
死を賭けたゲーム。
危うい綱渡りだった。
オレの首は、薄皮一枚で、残っている。
オレは、今、目の前にある快楽に、身を任せることにした。
「オレはまた形を変えて、あんたの前に現れる。それがいつなのか、楽しみにしておいてくれ」
鈴木一郎はオレに告げた。
「せいぜい楽しみにしてるよ」
オレは小さく答えた。
翌日、オレはあっさりと釈放された。
広域指定暴力団の首領(ドン)というオレの地位からいって、難癖をつければ、いくらでもボロは出る。
オレが、自白せず、完黙(完全黙秘)を貫いたとしても、下部の者が、警察のいいなりの供述をすれば、お終いである。
〝共謀共同正犯論〟や〝使用者責任〟を、限りなく拡大解釈して適用されれば、末端のそのまた枝の組員のしでかした犯罪まで、〝親〟であるオレも連座が免れなくなる。
このまま、十年も、ヘタをすれば二十年も塀の中という恐れもあった。
うちのお抱え弁護士たちが、不当逮捕であると、必死に奔走してくれた成果なのか。
日向が、裏から手を回してくれたのか。
軽微な犯罪の容疑のみで、府警本部を動かし、さらには、検事に拘留の延長の許可まで出させた。〝お遊び〟のために、多数の人間を動かし得た。
鈴木の力はいかなるものだったのだろうか。
鈴木一郎が、逮捕も釈放も自在に操れる力を持っていたと考えるほうが当たっているのだろう。
オレを塀の中に送れば、鈴木とて自由にはできない。
オレを有罪にすることが本意のわけはない。
すべては謎のまま終わった。
ひとつ言えるのは、この先、また鈴木がなんらかの刺激的な〝お遊び〟を、仕掛けてくるであろうことだった。
そして、鈴木一郎と、日向の長い戦いも始まるのだろう。
オレか、日向か、鈴木一郎か、そのいずれかの命が失われるまで。
了
オレは緊縛され、スチール製デスクの上に座らされていた。
「一博。綺麗だ」
マジックミラーの正面に向かされているので、オレは、自分の姿を見ることができた。
腰にまかれていた縄は、オレの裸身を飾る装飾と化していた。
男にしては柔らかさのある肌に、縄が深く食い込む。
縄は、オレの胸の前でクロスされ、食い込んでいる。
痩せているが、発達して厚みを持ったオレの胸筋が、ふくらみを見せる。
立ち上がった胸の紅い果実は、上向き、己の存在を誇示していた。
「なぜ、オマエはそんなに卑猥で、それでいて汚らわしさがひとかけらもないんだ」
鈴木は、悔しげに口辺をゆがめ、敗北宣言のようにつぶやいた。
オレの脚は、それぞれ折り曲げられた形で拘束され、M字に開脚状態だった。
「一博、何故、オマエは存在する?」
鈴木の目が、細められる。
オレの背後に周って、後ろから、オレの胸の両の果実を、指でつまんで弄くった。
胸を鷲掴みにし、強い力で揉みしだく。
「ん。ん。ん……」
口にはめられたボール・ギャグのため、言葉にならない。
もっと強く。もっと……。
オレは身を震わせた。
「人形のように、作り上げられた完璧な肉体だ。どんな姿にされようとも、輝きと美しさを失わぬ清らかさは、何処から来るんだ」
鈴木は呻くように独白した。
「一博、オマエは、暗く汚い内面に比して、侵しがたい高潔な身体の持ち主だ」
鈴木は、オレの胸から腹部へと指を滑らせた。
臍に軽く触れる。
「腹部にできた、ほんの僅かな肉の襞が、彫刻や人形などではなく、生身の人間であることを物語っている。完全ではあるが、生身であるから美しい」
鈴木は、まるで詩を朗読するように、感情のこもらない賛辞の言葉を吐いた。
鈴木、オマエは、オレの虜になるな。
そんな小さい男に成り下がるな。
オレは、頭を振った。
マジック・ミラーに映るオレの姿は、限りなく刺激的だ。
刑事たちは、ミラーの向こうで見て、この光景を〝オカズ〟にしている。
そう思うと、オレのものはさらに硬度を増した。
鈴木は、オレの顎をつかんで上向かせ、緘口具を施された口の端から流れ出る雫を、丁寧に舐め取った。
「あぁぁ。あ、ぁぁ」
オレの口から漏れるのは、吐息と、声にならぬ声。
なんて無様なんだ。
耳に響く自分の声に、オレは欲情する。
もともと惨ったらしく醜いマゾ男が、さらに惨めな姿になって喜ぶことは醜悪の極みでしかない。
だけど、限りなく美しい自分が、辱められる姿はアートだ。
美しいオレを見てくれ。
オレを愛してくれ。
だけど、オレに跪くような、安っぽい愛は、要らない。
オレは矛盾した感情を抱く。
勝負は負けたくない。
鈴木をオレに跪かせたい。
だけど、そうなれば、もう鈴木とはお終いだ。
勝敗が決まれば、もうゲームは面白くなくなってしまう。
だが、勝ちたい。
負ければ、どうなるか。
鈴木がオレに魅力を感じなくなり、少しでも興味を失えば、オレは、その場限りの〝娯楽〟に供され、闇に葬られてしまう。
考えもつかぬ残酷な方法で。
鈴木が、オレに興味を抱く限り、オレは無事というわけだ。
鈴木は、快楽殺人者だ。
鈴木が、オレの魅力に完全に屈服すれば、オレにとってつまらぬ相手に成り下がる。
けど、鈴木が、オレを殺害しても惜しくないという気持ちを持てば、オレはこの世とおさらばなのだ。
この場では殺されずとも、長い懲役が待っているかもしれない。
死を賭けたゲーム。
危うい綱渡りだった。
オレの首は、薄皮一枚で、残っている。
オレは、今、目の前にある快楽に、身を任せることにした。
「オレはまた形を変えて、あんたの前に現れる。それがいつなのか、楽しみにしておいてくれ」
鈴木一郎はオレに告げた。
「せいぜい楽しみにしてるよ」
オレは小さく答えた。
翌日、オレはあっさりと釈放された。
広域指定暴力団の首領(ドン)というオレの地位からいって、難癖をつければ、いくらでもボロは出る。
オレが、自白せず、完黙(完全黙秘)を貫いたとしても、下部の者が、警察のいいなりの供述をすれば、お終いである。
〝共謀共同正犯論〟や〝使用者責任〟を、限りなく拡大解釈して適用されれば、末端のそのまた枝の組員のしでかした犯罪まで、〝親〟であるオレも連座が免れなくなる。
このまま、十年も、ヘタをすれば二十年も塀の中という恐れもあった。
うちのお抱え弁護士たちが、不当逮捕であると、必死に奔走してくれた成果なのか。
日向が、裏から手を回してくれたのか。
軽微な犯罪の容疑のみで、府警本部を動かし、さらには、検事に拘留の延長の許可まで出させた。〝お遊び〟のために、多数の人間を動かし得た。
鈴木の力はいかなるものだったのだろうか。
鈴木一郎が、逮捕も釈放も自在に操れる力を持っていたと考えるほうが当たっているのだろう。
オレを塀の中に送れば、鈴木とて自由にはできない。
オレを有罪にすることが本意のわけはない。
すべては謎のまま終わった。
ひとつ言えるのは、この先、また鈴木がなんらかの刺激的な〝お遊び〟を、仕掛けてくるであろうことだった。
そして、鈴木一郎と、日向の長い戦いも始まるのだろう。
オレか、日向か、鈴木一郎か、そのいずれかの命が失われるまで。
了
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