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番外編続編  再びの出会い Ⅰ

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 オレ、釈光寺一博は、大阪市内で行われた直系組織の組長の葬儀に参列した。

 オレの片腕兼スパダリ、若頭の日向潤は、博多での〝掛け合い(交渉ごと)〟のため、今回は別行動である。

 葬儀も終わって、翌日に帰京するだけのオレは、側近数人を引き連れて大阪の北新地を飲み歩いた。

 その際、多数のヤクザ風の男たちに絡まれたオレは、
「誰にものを言ってる」
〝秒殺〟で男たちを叩きのめした。

 ちょっとした〝余興〟、よくあることで終わるはずだった。
 
 自分の拳と蹴りの威力を熟知しているオレは、力をコントロールし、相手に負わすダメージを打撲程度に抑えていた。相手に傷を負わせていない。

「これからは相手を選べよ」
 捨てゼリフを残して立ち去ろうとしたときだった。

 目の前に、十数人の警官がばらばらと姿を現した。
 後方からも警官が押し寄せる。

 たちまち警官隊に取り囲まれた。
 まるで事件を予測して、待ち構えていたみたいな迅速さだった。

「オレらは被害者だ。目撃者もいる」
 オレは、自分の正当性を主張した。

「喧嘩は喧嘩や。喧嘩両成敗や」
 現場に駆けつけた警官たちは、オレの言い分を無視し、『相互暴行』で、加害者、被害者双方を検挙しようとした。

 警官隊は、相手方を直ちに、PC(パトカー)に収容した。
 男たちは意外なほど素直に乗り込んで行った。

「言い分は、署についてからだ」

 よほど頭が固いのだろうか。
 検挙数を稼ぎたいのだろうか。
 問答無用でオレに迫った。

「オヤジさんを渡せるか。これは正当防衛じゃねえか」
 同行していた舎弟、若衆たちが、オレの周りを固めた。

「目撃者も大勢いるから、すぐ容疑は晴れる。騒ぐな」

 子分まで巻き込んで、公務執行妨害で逮捕されては拙い。

 オレは、納得できずに騒ぐ組員たちを制して、素直に手錠をかけられ連行された。

「おやじさん。すぐなんとかします。少しだけ辛抱してください」

 頭を押さえられ、PCに手荒く押し込まれるオレの耳に、舎弟が必死に叫ぶ声が届いた。

 日向がなんとかしてくれる。
 すぐに顧問弁護士を来させてくれる。
 いや、警察署まで行って事情を説明すれば、わかってくれる。

 オレは軽い気持ちだった。
 

                        一

 暴行事件でしかない。
 戦意を喪失させる程度に手加減したから、相手を病院送りにしたわけでもない。

 単なる喧嘩なら、所轄署に連行されるはずだ。

 北区なら、眼と鼻の先に、御堂筋に面して曽根崎署がある。
 パトカーはそこに向かうと思ったが・・・・・・。

 パトカーの向かった先は、大阪城の道路向かい、大阪市中央区大手前にある府警本部だった。
 オレを乗せたパトカーは、府警本部の一階、暗く大きな口を開けた、関係者用駐車場入り口に吸い込まれた。

 東京人のオレは、大阪府警本部を目にするのは初めてだった。
 府警本部は、近年ほぼ全面的に建て替えられ、大阪府庁と敷地を接し巨大な威容を誇っていた。 

 取調室に入れられたオレは、人定事項を確認され、『弁解録取書』なる書類を作成された。
 被疑者の言い分を、刑事が書き記す書類だ。

 
 やましいことはない。
 オレは素直に答えた。

 だがそこからが問題だった。

  オレは両手錠をかけられ、腰縄をうたれた姿で、警察官にはさまれ、小部屋へと移動させられた。

 留置場に入れられる前に必ず受けさせられる『身体チェック』の洗礼だった。

 狭く殺風景な部屋の中央に、台があった。
 看守係と、刑事が五人、手錠と腰縄をはずされたオレを取り囲んだ。

 どの刑事もヤクザ顔負けの面構えぞろいだった。
 服装も違う。
 刑事といえば、地味で安物のスーツといったイメージだけど、ラフな恰好の者もいる。

 どう考えても一課の刑事じゃない。
 オレがヤクザだから、丸暴(四課)に回されたのか。
 これは厄介なことになるかも知れないな。

 オレの心に、ふと不安がよぎった。 
       
  オレは、少年時代、鑑別所に送られた経験はあったが、逮捕経験はなかった。

 けどオレの周りは極道ばかりだ。
 懲役に行っていない者は少ないから、自慢半分で経験談をよく聞かされていた。

 当然、身体検査のことも聞いている。   
   
「さ、早よ脱がんかい」
 刑事のひとりが、オレの足を蹴った。

 まず、身体検査で、かまそうというわけだな。

 初めての者にとって、全裸の身体チェックは、精神的にかなりきつい。

 最初に、被疑者に精神的ショックを与え、従順にさせ、その後の取調べを、警察の優位に展開しようとする意図がある。

 覚悟を決めて、恥ずかしがらず、平然としているしかないな。

 オレはおもむろにスーツの上着を脱いだ。
 スーツの下は素肌だ。

「ほお」
 上半身の白さに、誰かが吐息をついた。

「下も早よ脱がんかい。腐れ外道が」
 刑事の一人が、オレの肩をこついた。

  オレは、ベルトをはずした。

 ベルトはここでしばらくおさらばである。
 自殺防止と武器等への転用防止のため、金属製の飾りなどのついた服と一緒に、釈放まで預かられる決まりだ。
 被疑者は、警察内はもちろん、検察庁等への移動に際しても、ベルトのない不恰好な状態で歩かなければならない。

 オレは、刑事にせかされながら、ズボンを脱いだ。

「ドアホ。パンツもや。一緒に脱げや。わかっとるやろが」
 刑事が、思わず躊躇するオレに罵声を浴びせた。

 悪いことをしていないのに、こういう扱いはないだろう。

 むかっ腹が立つが、下着を取らないわけにはいかない。
 ここで無駄に抵抗すれば、〝公務執行妨害〟で、本当に罪に問われてしまう。
 我慢するほかない。

「くくく」という忍び笑いが、聞こえる。
 オレは自分の顔が、恥ずかしさと悔しさで上気するのを感じた。

「その台に乗るんや」との指図に、オレはゆっくりと台に脚をかけて上った。
 まるで死刑台にでも上る気分だった。
 いや、奴隷市場で、客に品定めされる異国の捕虜の心境か。

「ええざまじゃのぉ。釈光寺組の組長さんよぉ。普段は、仰山の人間に囲まれて、ええ御身分やろけどな。ここではそうはいかんで。ただの罪人や」

「大親分かて、一皮剥いたら、毛の無い猿や」

「叩けば、ホコリの出る体じゃ。わいらがナンボでも叩いて、懲役、長いこと喰らいこませたる」

 日頃、暴力団と渡り合って、よほど鬱憤がたまっているのだろう。

 ヤクザというだけで、「全員、ぶっ殺したい」という丸暴も多いと聞く。
 
  オレの体を、男たちが無駄にペチペチと叩きながら、チェックし始めた。

「ええっと。墨はないな。綺麗な体や。手術の跡はなし。体の欠損もなし」
 
 以前、カチコミで先鋒切って乗り込んだ際受けた、腹から背にかけての創傷の痕跡が見逃された。

 オレは特異な体質なので、傷跡が極端に残り難いけど、眼を凝らしたら、見落とすはずはないのに。
 つまり、チェックは、おざなりだった。

 被疑者を嬲りものにするだけが目的か。

 オレはこの後の展開が気になった。  
   
「おい、もっと脚、開かんかい」
 刑事が、オレの太腿を叩いた。

 もう一人が、オレの膝下をつかんで、スタンスを広げた。
 オレの、握った拳が、怒りに震える。

「ここはどないかな。何も隠してへんかいな? お~お~。女みたいな顔の割りに立派なモノ持っとるやないけ」

 大柄な刑事が、オレの股間に熊手のような手を差し入れて、オレ自身の先をつまんだ。
 ふたつの果実の裏まで、覗き込んで入念にチェックする。

「性器に異常なし。玉入れもなし」

 ペニスの表皮に傷を入れ、真珠などの玉を埋め込んでいるヤクザ者は多い。
 入れた玉の数も、記録されると聞く。

  知識はあったけど、実際に全裸で検身台に立たされると心が萎える。

「ほな、尻、突き出して」

 いよいよ来た。
 ここは我慢だ。

 そう思いながら、体が勝手に動いてしまう。オレは思わず身をくねらせた。

「大人しいせんかい。ケツが裂けても知らんで」

 屈強な大男四人がかりで抵抗を封じられ、ガラス棒を手にした刑事の眼前に、尻を晒すはめに陥った。

「動いたら 、腸管、破ってまうで」

 刑事のあざける声を耳にしながら、オレは屈辱に目を閉じた。

「あ」
  臀部の両側から手で秘所がグイと押し開けられる。
 ガラス棒らしきものが挿入され、抵抗する蕾が押し開けられる。

「ほれ、見てみぃ。ええ色やないか」
「どれどれ」
「いつも見させられてる汚いおっさんのケツとはえらい違いじゃ」
「眼福ゆうんはこのことや」
「ほお。えあらい組長はんのケツはこないなんかいのぉ。エステで穴の中まで磨いてもろとるんか」

 刑事たちが、代わる代わる覗き込む気配に、オレは固く目を閉じたまま、血のにじむほど唇を噛んだ。

「うう」
 秘所がさらに大きく広げられる。
 何の準備も施されることなく、ぐいぐい入り口部分が引き伸ばされる。

「はぅ」
 突然、ガラス棒が引き抜かれた。

 ようやく体内のチェックが終わったと安堵したのもつかの間。
 明らかに固いガラス棒ではないものが、オレの体内に侵入してきた。
 誰かが無遠慮に指を差し入れたらしい。

「ん、んっ」
 蕾のフチをなぞられる。

「何をするんだ。やめろ。何も隠していないことは、もうわかっただろがよ」
 オレは、嫌悪感に身を震わせ、激しく抗議した。

 男の指が、オレの内部でうごめく。
 オレは逃れようと、体を捻る。

「こんなんで、もう感じるんか。腰、使いよってからに。釈光寺、オマエ、ゲイか」
  どっと笑いが沸き起こった。

「あ、やめろ。うく」
 指は増やされたらしく、さらに蕾は押し広げられた。
 太い指が、オレの中を無遠慮に探る。

「あうっ」
 前立腺の裏側をごりっと刺激され、反射的に仰け反った。

 オレの体を両側から押さえつける男たちの腕に力が入る。

「ほれほれ。ここが感じるんかいな」
 指の動きが、オレのスィート・スポットに集中する。

「くは。ん。んぁ」
 感じていないのに、自然に、腰がビクリビクリと反応する。

 どうしてこんなめに遭わされるんだ。
 オレが何をしたってんだ。

 オレは屈辱に震えた。


 ふっと日向の顔が浮かんだ。
 日向がきっと何とかしてくれる。

 いや、この場を乗り越えさえすれば、すぐに釈放される。

 じっとこの屈辱に耐えるしかなかった。

「肛門内も異常なし」
 散々、内部を蹂躙していた指から、ようやく解放された。

「はぁあ」
 オレは思わず短い吐息を漏らした。

 被疑者が、肛門内に、覚せい剤などの薬物や、小さい武器などを隠し持っていることはよくある。
 自殺防止の意味合いもあっての検査だけど、オレの場合、刑事の人数が多く、必要以上に念入りだった。
 面白がっているとしか思えない。

「えらい大人しいのぉ。男やったらもうちょっと抵抗したらんかい。こないな目に会うて、喜んどるんか。お偉い組長はんは、ホモでマゾなんかいな」

 煽る言葉に強く唇を噛んだ。
 生暖かいものが口の端を伝う。

「いつまで裸でおるんや。マゾ野郎」

 服を着ることを許されたオレは、やっと衣服を身に付けた。

 簡単な身体チェックのはずが、何時間もかかった気がした。
 怒りに指が震える。

  続いて、指紋の採取。
 指の一本一本、インクをたっぷり付けられ、指紋台帳に押印させられる。
 ご丁寧なことに、手の平までも、採取された。

 写真を、正面から二枚、横向きに二枚、斜め横からも撮られる。

 どうしてこんなめにあっているんだ。
 いままでヘタをうったことなどないのに。

 オレは情けなくなった。
 気分はもうすっかり有罪判決を受けた犯罪者だった。
 
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