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番外編 Ⅲ

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      ◆ 奇跡の契り ◆
 
 オレは部屋の鴨居の最上部から吊り下げられた。

 両腕を頭の上部でひとつに束ねられ、両足もまとめて縛りあげられてブロックが吊り下げられている。
 身体が思い切り引き伸ばされて、関節がぎしぎしと音を立てる。

「まずどうするかな」

「目をくりぬくか? いや。恐怖にかられた目ってのもいいからな。後回しだ」
 リトルとケイゴが楽しげに手順を相談し始めた。
 ふたりの目はもう理性のある人間のそれではなかった。

「う、げ」
 二人の脇で、SINがえづいた。
 少しにしろ理性が残っていたらしい。

「お前らの好きにしろ。オレはもういい」
 蒼ざめた顔でその場を出ようとする。

「ダメだ。兄貴。一蓮托生なんだぜ。あんただけいい子になってどうすんだ? 殺しに加わってくれなきゃ」
 リトルがSINの腕を強くつかんだ。

「わ、わかってる。けど……」
 言い訳しようとするSINに、ケイゴの一言が追い討ちをかける。

「兄貴がそんなに意気地のねーヘタレとはな」

「バカ言え。俺はそこまでの趣味はないってこった。度胸云々じゃ……」
 SINは口ごもった。

 三人の様子を横目に、鈴木はタバコを悠然とふかしている。

「じゃあ、解体ショーを開始すっか。悪く思うなよ。組長さん」
 リトルが、サバイバルナイフの切っ先を一博の腹部に当てた。
 

 ナイフが撫でるように、オレの腹直筋のあいだをなぞる。

 今まで、何人も死体をみてきた。
 自分が殺した相手。
 潤が積み上げた屍。
 人間ではないただの物体は、ただ醜かった。
 
 そんな気味の悪い物体と化した自分を、あの潤にだけは見られたくないと思う一方で……。

 どうせなら思い切りグロテスクな代物と化して、潤を驚かせたい。
 自分の汚く醜い細胞の集合体を全て曝け出して、つぶさに見せ付けたい気がした。

 !
 冷たい刃が、オレの大胸筋の真下あたりに押し付けられた。
 刃先が肉に食い込み、今まさに皮膚が切り裂かれようとする。

 と、そのときだった。

「ちょっと待って。そこまで。そこまで」
 鈴木は、リトルの手首をグイと握ってサバイバルナイフを下ろさせた。

「え? もうやっちまうんじゃ?」
「まさか、いまさら中止ってんじゃないですよね? ね。鈴木さん」
 ケイゴとリトルは怪訝そうに、鈴木の顔を見つめた。

 鈴木には、なんの表情もなかった。
 そして、ひとこと。

「あ~。ご苦労さん。もうええわ」

 そう言った瞬間だった。

 鈴木が、左袖口に仕込んでいた〝ピアノ線〟を一気に引き抜く。
 三人に襲い掛かる。

「!」
 瞬時の出来事だった。

 三人は突っ立ったまま、驚愕するひまも無く、その命を絶たれた。

 切断された首がボトリと落ちる。
 次に胴体がかしぐ。
 大きな振動とともに、切り倒された大木のように畳の上に落下した。
 首が落ちたのも、胴体が倒れるのも、三体ともほぼ同時だった。

「す、すげーッ!」
 オレは、芸術的な殺しの技に感動した。



 オレは鴨居から下ろされ、脚の拘束を解かれた。

「このヤロー」
 自由になったオレは鈴木に蹴りを入れた。

 だが難なくかわされる。

「ふふ。まだそんなに元気が残っているとは、驚きだね」

 鈴木は笑みを浮かべながら、オレに何発もパンチを食らわせてきた。
 さらに蹴りを入れておとなしくさせてから、オレを畳の上にねじ伏せた。


「はうッ」
 オレはころりとおもてがえされた。
 仰向きにされると、脚を高く担ぎ上げられて、鈴木のものを受け入れさせられた。
 身を固くする間もなかった。

 前戯もなく、なんのためらいもない一連の動作で、鈴木のものが最奥にまで侵入する。

 こんな感覚は初めてだった。

 オレの呼吸に合わせた絶妙なタイミング。

 驚くほど敏捷で、入神の技の持ち主だった。

 挿入するや、強く弱く。
 じらし、そして激しく。
 グラインドし、抽挿を繰り返す。

 オレの内壁はそのたびに刺激を受けてわななく。
 ただ激しいだけでも、優しいだけでもない。
 オレが思うままに与えられる快感。
 オレの感覚がそのまま相手にも伝わっているような攻め。

 激しいロックの、音の洪水の中に身を置くような感覚だった。

 いや、オレが奏でられる楽器そのものだった。

 オレの肌を飾り立てるさまざまな箇所のピアスが揺れ、きらめく。

 激しい動きに合わせ、乳首のピアスが揺れて、敏感な場所に刺激をもたらす。

 鈴木は至妙のテクニックで、オレを追い詰める。

「ん。あ。ああああッ」
 弱い箇所を重点的に突かれて、声を堪えられない。
「あうッ。うう。ああーッ」
 喘ぎが止まらない。

 鈴木はオレの内部を攻めながら、繊細な動きをする指で、まるでギターを弾くようにオレのものを愛撫した。

 男たちにつけられた根元裏側のビュービス、包皮のフォースキン、亀頭裏側フレナムといったピアスも攻めの小道具だった。

 鈴木は、それらに微妙なタッチで触れ、強く引っ張り、そして優しく揺らす。
 素肌に施された飾りは、痛みとともに、絶妙な刺激を与え続ける。

 巧緻な攻め技と精妙な手練

 オレはすぐに頂点に上り詰めさせられた。

「あ――ッ。あうううァッ」
 ひときわ高い鳴き声とともに、白濁を勢いよく、二人の腹の間にぶちまけた。


 いつのまにか、拘束を解かれていた。
 オレの両腕が、鈴木の身体をしっかり抱いて、背中に爪を立てる。

 こんなセックスがあったなんて……。

 ハアハアと息を上がらせ、脱力したオレを、鈴木はさらに攻め続けた。
 オレのモノが、すぐまた勢いを取り戻す。

「んんん。あ。あッ。あッ」
 オレの口から絶え間なく声があふれ出る。
 声をおさえようとすることさえ頭にはなかった。

 オレは、ただ、与えられた快楽を貪欲に貪る人形だった。

 もう、なんだっていい。
 あやふやな意識の底に、果てしなく沈んでいく。

 異常なシチュェーションだからこそ燃える。
 オレは声を上げ続けた。

        

 オレが何度目かの絶頂を向かえたとき、鈴木にも射精の瞬間が訪れた。

 それはあっけないものだった。

 鈴木は苦しげな声をあげ、オレの内部におのれの全てを吐き出した。


 それからまた何度愛し合っただろう。
 ふたりは、時を忘れ、睦みあった。
 元からの恋人同士だったみたいに。
 長い旅路の果てでようやく巡り会った唯一無二のひとであるかのように。



「オマエは、初めてオレをその気にさせてくれた男だ」
 鈴木は、オレの頬に手をあてて顔を近づけ、そして唇に触れた。

「オレも、普通に誰かと愛し合って、喜びを得たい。けど今までどうしても無理だった」
 人形のように動きを止めたオレのからだを抱いて、鈴木は頬擦りした。

「オレは……。このさきオマエとできるかっていうと、そうはいかない気がするんだ」
 鈴木の目から透明な雫があふれ出した。

「とりあえず、今ここでオレを始末してずらかるしかないな」
 オレが結論を出してやった。
 命乞いなんてしたくない。

「面の割れた殺し屋の末路は決まっている。だけど……一度壊してしまったら、こんな人形はもう手に入らないんだ」

 理性と感情が渦をなして鈴木の心の奥を激しく波立たせている。
 そう感じたオレは面倒になった。

「どうとでもしろよ」
 オレは煽った。

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