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屈辱の一夜 ※レイプ、モブレシーン有り※

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 祐樹の指図で拘束を解かれた一博は、手術台から引きずりおろされた。

 ズボンはまだ足に絡みついていて、下半身は露出している。
 オペ室を出て、情けない姿のまま、廊下をずるずると引きずられた。

 新たな部屋の前に来た。
 ざわめきが起こり、誰からともなく下卑た笑いが起こる。
 見上げたドアプレートには、《産科・婦人科》と古ぼけた文字が記されていた。
「ここで少し遊ぼう」
 祐樹の声はわずかに甲高く聞こえた。
 
 スライドドアが開かれ、デスク、椅子、ベッドが置かれた通常の診察室が目に入った。
「さあ、さあ、こっち」
 奥の部屋とはカーテンで仕切られている。カーテンを引き開け、内診室と呼ばれる部屋に連れ込まれた。 


 すべて剥ぎ取られ、両足を大きく開かされた状態で、内診台に拘束された。
 力をこめ、抵抗するが、拘束はびくともしない。
「うわ~。すごい眺めじゃん」
 祐樹は一博にライトを当てた。覗き込んだ男たちの目がぎらつく。
「オマエのケツの穴ってさ。なんでそんなにひくついてんの~。くく。早く来てって? 淫乱なんだから~。今までここに何人の男をくわえ込んだの? あ。そんなの数えちゃいないって? ふ」


 怒りと耐えがたい恥辱で、震えを止められない。
 早く殺せ!
 悔し涙で目がうるむ。涙に気付いた祐樹は、ぺろりとうまそうに舐めあげた。
 一博の全身を悪寒が襲いかかってくる。
 祐樹の目は瞳孔が開き、ギラギラと猛獣のような光を放っていた。

 祐樹は自分のモノを取り出した。すでに十分な大きさと硬度を持った祐樹自身が一博の蕾に突き立てられた。
 強い力で侵入してくる。同時にガンガン突き上げられる。

 痛みが脳天に達する。
 不格好に体が揺さぶられる。
 大事な個所を闇雲にしごかれ、掌で乱暴に転がされる。
「一博、感じてよ」
 弄ばれて、快感より吐き気がこみあげてくる。
「カワイイ一博。オレの大事な弟」
 うわごとのように繰り返しながら、祐樹が攻めたててくる。

 一博は屈辱的な姿のまま、祐樹に何度も犯された。

 

 その後は……。
 地獄の輪姦が待っていた。
 手首だけ縛られて床に転がされた。
 腰を抱え上げられ、男のオスがねじ込まれる。
「こりゃいい。女よりぐんとしまりが良い。たまらねえ」
「早く、替われ」
「いつも澄ましやがって。鳴かせてやる」
「つっ」
 汗まみれの一博の顔に、男の欲望が降りかかる。

 力を失った身体が責めたてられ、ぶざまにガクガク、ユラユラと動く。
 男たちは容赦なく執拗に一博の体を貪り、腰を打ちつけ、激しく責め立てた。
 全員が、ゲイまたはバイであるはずはない。だが、こういう男の世界は、男が男に惚れるという精神的繋がりで成り立っているため、絆が肉体的結びつきに転化することも多い。
『お勤め』のあいだに刑務所内で、女の代替として経験する機会もある。だから、一般のカタギ社会より、垣根は低かった。
 目の前で、性別を超越した美しさを持つ人形が犯されているのだ。よほどの頑ななノンケでない限り『自分も!』ということになる。

 自分たちの上位にいて指図していた生意気な存在を貶める――それは、下位に甘んじるしかない者たちにとって、いかなる刺激にも勝る。
 広大な屋敷に住まい、高級外車を何台も所有し、超高級ブランドで身を包んでの贅沢三昧。
 自分たちを、顎で遣い、不用になれば切り捨てる存在―そんな高嶺の花を手折る快感は、なにものにも換え難いに違いない。しかも『男稼業』が売りの男を『犯す』のである。


 いつのまにか猿轡ははずされていた。

 その場にいる皆がみな、期待している。
 一博の、許しを乞い、泣き叫ぶ声を……。

 一博は、懸命に声を殺して耐えた。それでも、意識に無関係に声が漏れる。
「ん。んん」
 高くはないが甘い響きを持った声は、野獣たちの欲望の炎に、さらに油を注ぐらしかった。




 


       

 祐樹の足元に横たわった一博は、死んだように反応を示さなくなっていた。

 壊れた人形をいたぶっても面白くない。
 ようやく男たちの性の饗宴は終わりを告げた。
 最後の男が、一博の体内から自身をズルリと抜き出し、その状態で時が止まった。
「いいざまだ」
 祐樹の喉から乾いた笑い声が出た。

 無様に大きく開脚したまま、ボロ屑のように床に仰向けに横たわる人形
 それは美しい光景だった。
「もう少し自分の分を弁えてりゃこんな終わりは無かったのに」
 祐樹は、一博の脇にしゃがみ込んで、額にかかった髪をなでた。
「早速バラしまっか」
 矢波組の組員のひとり小杉が、鈍く光る旧ソ連の軍用銃トカレフを取り出し、一博のこめかみにグリグリと押し付けた。
「祐樹はん。ここでバラして、この建物ごと火ィつけまっか? こんなときのため思て、ガソリンもぎょうさん持って来させてまんねん」
 矢波が、一博の体を靴の先でコンコンこつきながら提案する。
「待ってください。矢波さん」
 立ち上がった祐樹は、搾り出すような低い声で言った。声はかすれていた。
「え? なんでっか? 祐樹はん」
 一博を蹴るのを止めた矢波は、怪訝そうな顔で祐樹を凝視してきた。
「すぐ殺すのはもったいないでしょ。拉致して……」
 祐樹の言葉に、たちまち矢波は逆上した。
「何言うてまんねん! これは遊びちゃいまんで! こうしてワシが来てるのかて結果を見届けるためや。あんたの酔狂でゆっくり待ってなんかおれまへんで。ワシは益田の仇の首とって、はよ神戸に帰りたいんや」

「オレがちゃんと始末しますから」
「祐樹はん。どういうこっちゃねん。約束が違うで。関西を舐めたらアカンで!」
 矢波はさらに態度を硬化させた。



 祐樹は、一博を抱いてみて、もっと一博を欲しくなっていた。
 こんなすばらしい人形は他にない。
 人形を監禁し、思うままに飼育したい。
 調教しがたい獲物を、自分の手で屈服させる。それこそ最高の快楽だ。
 シャブ漬けにして、思い通りの人形に仕上げて手元に置くのもいい。
 一博という美しい生き物を、自分の手で飼育したい。
 思いが絶ち難くなっていた。

「兄弟盃の件は破談や。益田の仇、倉前一博のタマを取って帰らな収まりがつかへん」
 矢波が一喝した。
「く、組長」
 思わぬ展開に戸惑った小杉は、一博の頭にピタリと突きつけていた銃口をはずして立ち上がった。
「……」
 祐樹は懐からマカレフを抜いた。すばやく劇鉄を起こし、矢波の額めがけて弾を発射する。
「ぐぁっ」
 矢波は目を大きく見開いたまま、仰向けにドッと倒れた。
「やろーッ。よくもオヤジを!」
 小杉のトカレフが、祐樹めがけて火を噴いた。
 だが、祐樹側の舎弟大木戸が、小杉の腹にドスをねじ込むほうが一瞬早かった。
 手元の狂った弾は大きくそれ、ステンレス製の戸棚のガラスを破って中に吸い込まれ、何度も跳ね返って音を響かせた。

 矢波組対釈光寺組の死闘が始まった。 
 十一対六で、祐樹側が有利な状況である。しかも矢波側は、しょっぱなから大将の首を取られている。矢波組は防戦一方になった。
 ほんの数分のうちに、矢波側は一人残らず死亡し、祐樹側は二人死亡、一人軽症という結末となった。

「けど。えらいことになりましたね。若」
 大木戸が心配そうに尋ねてきた。

 そこで初めて祐樹は我に帰った。
「関西のやつらは死んじまったから、死人に口無しだ。なんとでもいいわけはできる」
 強がりながらも、祐樹は狼狽の色を隠せなかった。

 一博さえ消せばうまくおさまる。だが、祐樹には、一博を葬る決心などつくはずがなかった。

 コツコツ
 突然、ドアをノックする音がした。
 祐樹たちは壁に張り付き、獲物を手に思い思いに身構えた。

「誰だ!」祐樹の誰何の声に、
「祐樹の若」と声をかけてきたのは、日向潤だった。

「どういうことです? 祐樹ぼっちゃん。説明していただきましょうか」
 潤は、無様に転がる一博を指差して、眉ひとつ動かさず、静かに訊ねてきた。


 潤は祐樹と一博の間にあって、常に公平な存在だった。
 一博が屋敷に来た当初は、一博の世話役のような時期もあったが、その後、琢己の秘書的存在にもどり、兄弟に公平に尽くしてきた。

 祐樹と同い年の潤は、親友でもあり、精神的には兄貴でもあった。
 潤の登場は、祐樹にとって救いの神と思われた。
「実はこれには事情が……」
 どんな状況でも冷静さを失わない潤なら、この場をうまく収めてくれるのではないかという、一縷の望みが湧いてきた。
「潤。助けてくれ! なんとかこの場を……」
 恥も外聞もなく、潤にすがりついた。

 だが……。
「若。見苦しいですよ」
 潤は、思いもかけぬ冷たい表情をみせ、祐樹の腕を振り払った。
「安心なさい。若はもう何にも考えなくていいってことですよ」
 言うなり潤は、冷たい刃を一分の狂いも無く祐樹の心臓にぶち込んできた。
「潤…オ、マ、エ……」
 勢いよく血が噴出す傷口を押さえながら、その場にくずれおちた。
 冷たいタイルの床に頬をつけ、最後に祐樹の口からこぼれ出たのは、
「おふくろ。オレはやっぱり……」という言葉だった。
 
 だが、このかすかな言葉は、誰の耳にも届かなかった。





 


 わずかに意識を取り戻した一博の視界に潤の姿が映る。

 潤の動きは、神がかり的に俊敏だった。
 チャカとドスを見事に使い分け、間髪を入れず裏切り者たちに襲いかかった。
 何があったか理解できず棒立ちになったままの者、動物的本能で、いち早く反撃を試みた者、ただ慌てふためいて逃げようとした者、全員が瞬時に骸となって床に転がった。

「じ、潤? なぜここに……」
 かすれきった声で絞り出すように尋ねた。
「若、これで大丈夫。禍根は根こそぎ絶たねばです」
 返り血を浴びた潤は、にやりと笑った。
 それは一博の知らない潤だった。

 潤は、一博を抱き上げ、理事長室に付属したバスルームに運ぶと、ゆっくりとバスタブに下ろした。
 力を失った一博の体はずるりと滑り、バスタブの底に丸まってすっぽりと収まった。
 目を閉じる。
 まるで胎児に戻ったような気がした。
「冷たいですが、我慢してくださいね。この建物、電気は通じていますが、ガスは止まってるので、湯が出ないんです」
 言いながら、潤が一博の体を洗い始めた。

 がたがたと震え続ける一博の体を手早くバスタオルで拭き、バスローブで包んでくれた。
 そのまま抱きかかえ、理事長が仮眠に使っていた部屋に運ぶ。
「しばらくお休みになればいいですよ。私がついていますから」
「潤、さ、寒い」
 震えが止まらない。それは冷たい水で洗われたからだけではなかった。
「潤。お、オレ……」
 震える手で、潤のがっしりした腕をしっかり握りしめた。
「若……」
「寒い。潤。オレを抱いて。抱きしめて」
「わかりました。暖めるにはこれが一番といいますからね」
 潤は静かに服を脱ぎ捨て全裸になると、一博のわきに横になった。
 バス・ローブをそっと脱がし、一博の細い体を己の腕に抱きしめる。
「潤」
 じかに触れた潤の体は、想像以上に温かかった。
 鍛えられた筋肉は硬く、鍛えてもなお柔らかさを失わぬ一博の筋肉とは相違していた。
 麒麟の彫り物が異彩を放つ。
「温ったかい」
 潤のぬくもりは、忘れていた人肌のぬくもりを思い出させた。

 遊びで抱き合ったやつらの肌は、なぜぬくもりがなかったんだろう。
 今までのモノクロの世界でのセックスを思った。
 あの日、望んで抱かれた琢己でさえ、一博に、色のある世界を見せてくれなかった。その肌にあたたかさを感じなかった。

 この潤なら……潤となら、色の付いた景色が見れるのじゃないか。
 ふとそんなことを思った。

 暴力による痛みはすぐ癒えても、屈辱の記憶はこれからも一博を苦しめるに違いない。さきほどの出来事を消しゴムであるいは修正液で消し去ってしまえたらと一博は思った。
 今すぐ。
「オレを抱いて! 潤」
 九年間封印されていた言葉が一博の口をついて出た。
「潤。オレをオマエの手でめちゃめちゃにして。今夜のことを何もかも忘れたいんだ」
 潤の頬に触れ、肩に頬を埋めた。
「ふふ。若。なんです? それじゃあまるでレイプされた女が、恋人に言うセリフじゃないですか」
 潤は取り合わない。
「潤~」
 甘い声を出し、潤の股間に手をのばす。
 だが……触れるか触れないうちに、潤はその手を優しく握って離させ、きっぱりした口調で答えた。
「若。気の迷いですよ」と……。


 潤は親父に操を立てているのか。親父のことがそんなに……。
 潤の拒絶に、父琢己の影を見た一博は、誘いの手を止めた。
 また恥をかかされた。
 そういう思いが湧いたが、潤の腕の中はあくまで暖かだった。
「若」
 潤が一博の目を見つめてくる。
「あなたはもっと強くならなくちゃいけません。今度の一件だって、全て忘れることです。知っている者は皆始末したのですからね」
「皆……ってそういや……」
 潤が殺した舎弟の中に、潤と同室だった正治という若い男も含まれていたことに気付いた。
 整理整頓のことでいつも潤に叱られていた正治も、今ではいっぱしの男に成長し、琢己から盃をもらっていたが、潤とは同室のままで弟のようにかわいがられていた。
 その正治まで簡単に抹殺できるものなのか。
 他の舎弟にしてもそうである。ずっとひとつ屋根の下で、潤とうまくやってきた仲間ではないか。
 状況が状況とはいえ、有無を言わさず皆殺しとは……。
 あの場の潤としては、もう少し温情のある解決方法があったのではないのか?

 それがヤクザ社会の掟の厳しさなのか。
 そう思いかけて、一博は次ぎの考えにぶちあたった。

 愛する釈光寺琢己を苦しめたくないという深謀遠慮だ。
 問題が明るみに出れば、琢己の立場は非常に苦しいものになる。
 息子祐樹を許してやりたいという父親としての立場。
 組長として裏切り者に厳しい制裁を課さねばならないという立場。
 琢己はその間で切歯腐心したはずである。
 そして……どんな決断を下すにせよ、その処断は、その後の琢己に塗炭の苦しみを与えただろう。
 それを回避し、かつきっちりケジメをつけるにはこの方法しかなかったのだ。

 潤の苦しい胸のうちを思いやった。
 と、同時に、潤にそこまでの行動を取らせる琢己に対する、強烈な嫉妬を感じていた。


 とにもかくにも、潤の行為は一博に大いなる利益をもたらしてくれた。
 期せずして一博の忌まわしい過去は帳消しになった。
 競争相手であった祐樹をいとも簡単に葬り去り、一挙に一博を表舞台に引き上げてくれた。もう跡目を継ぐのは一博しかいない。

 オヤジにもしものことがあれば、今すぐにでも、このオレが……。
 一博は潤の胸の中で夢想した。
 一博がアタマで、万事に有能な潤が補佐する。それこそが理想の関係ではないか。
 そう思うと、一博の脳内を打算的な感情が駆け巡った。

 そのためには、今、潤に『抱かれる』のは、まずい。
 今、セックスを始めれば、琢己のように潤を抱くのではなく、自分が抱かれてしまう。それは今後の関係においてうまくないと、一博は判断した。


 ふたりは抱き合ったまま、静かな眠りについた。 
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