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5 父琢己との初体験 

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 驚異の回復力で、わずかな傷跡も残っていないオレは、病院から逃げ出した。

 玄関にいた若い部屋住みの舎弟たちは、オレの帰還に驚いた。

「すごいじゃん。一博。驚いちゃったよ~」

 廊下で、すれ違った祐樹がオレの腕をつかんだ。

「テメエのそのねちっこい話し方、なんとかしろよ」
 手をふりほどき、汚いものに触れられたように、パッパッと払ってやった。

「一博、無事で良かったよ。ライバルが居なくなっちゃ僕も困るからさ~」
 まだねちねちと話し続ける祐樹に構わず、自分の部屋に向かった。


 ある決意を胸に秘めたオレは、自室で黒づくめのスーツに着替えてから表座敷に向かった。

「失礼します」
 廊下に正座して、静かに襖を開くと、幹部連中を集めて訓示していたオヤジと目が合った。

「一博。退院したのか。それにしても別人だな」
 オヤジは驚いたように目を見開いた。

「ではわたしたちはこれで……」

 集まりは中断され、潤をはじめとする幹部たちはぞろぞろと退出していった。

「おやっさん。ちょっと庭を散策しましょう」
 伏し目でチラリと見ると、返事を待たず庭に降り立った。

「お、そうするか」
 オヤジも庭に降りた。

「一番奥にある大きな夾竹桃の木は、今時分、満開ですかね」
 オレは、飛び石の上を伝って、広い裏庭の奥へ向かった。

「影が薄くなったような」
 オレの後ろ姿を見ながらオヤジがつぶやいた。

 確かに筋肉が落ち、ゼロに近かった脂肪が、わずかながらついている。

「ここに戻ったからにはすぐ元通りになりますからご心配なく」
 内心の動揺を見透かされないように、冷静な口調で応えた。

 離れ座敷の前に来ると、上目遣いにオヤジの顔を見た。

 オヤジは縁側に上がると障子を開け、オレを招き入れると再び障子を閉めた。

 今夜、潤を呼ぶつもりだったらしく、すでに布団が敷かれている。
 オレの心臓がドクンとはねた。

 そのために来たのに、なんてこった。
 簡単に動揺する自分が情けない。

 オヤジはひとつ咳払いした。

 ここは単刀直入に行こう。
 意を決したオレは静かに上着を脱いで、二つ置かれた乱れ箱の一つに丁寧に収めた。

「まさかオマエ……」
 オヤジは低い声でうめいた。

 オヤジの動揺に、オレは冷静になっていく。

「よろしくお願いします」
 正座して、深々と頭を垂れた。

「いいんだな」 
 オヤジはオレを立ちあがらせると、優しくオレを抱きしめた。
 二メートル近くあるオヤジの腕の中に、オレの身体はすっぽり収まった。

「一度だけ……」
 オレの声はかすれ震えていた。

「ほんとうにいいんだな」
 オヤジは、うなずくオレの顎を上向かせ、唇を重ねてきた。

「オヤジ……さん」

 オレは吐息のような声を吐いて、オヤジの唇を激しく求めた。

 唇を甘噛みされる。
 唇の間を割って、舌をねじ込まれる。
 逃げるオレの舌が追われ、そして捕らえられる。

 静けさの中に甘い響きが流れ、耳に心地よくフィードバックしてくる。

 同じDNAを持つ唾液は好ましい味だった。
 股間が熱を持つ。

 オヤジは唇を放し、オレの瞳を見詰めてきた。
 三白眼で強い光を放つオレの瞳も、今は黒々と濡れているはずだ。

 きつく抱きしめられ、髪を撫でられる。
 オレの髪がオヤジの武骨な指の隙間をサラサラと流れる。

「あいつの香りだ」
 オヤジがつぶやいた。

 我が子ではなく、遠い日に失った房枝という激しい炎を今一度この手で抱くのだと思っている、いや、思おうとしているのだろう。

 シャツがはぎ取られ、オレはピクリと身を震わせる。

 シャツの下は素肌だ。
 胸に指をはわされるだけで、ゾクゾクした。

「きめが細かいな。滑らかな肌だ。潤とはまた違う。この肌にはどんな彫り物が似合うか」
 オヤジは楽し気につぶやいた。

 色素が薄く、小ぶりなオレの乳首がふっくりと立ち上がる。
 掌で胸襟ごと揉みしだかれる。
 あくまで優しく。

「ん、ん」
 恥じらい、押し殺した声が漏れ出た。

「初めてなのか」
 オヤジの言葉に小さくうなずく。

「潤に手ほどきしてやったのもこのオレだ。当時は初々しかったが」

 オヤジは饒舌で、心の中の葛藤が感じられた。

 ベルトを外し、ゆっくりとズボンを脱いだ。
 下着はまだ残してある。

 オヤジはオレの身体を抱いて白いシーツの上に横たわらせた。

 大事な人形のように。

「ペニスは単純だ。男同士は駆け引きが要らない。締まり具合も女と比べ物にならない。だが、女は女の良さがある。このオレのように、どちらも極めればいい」

 ゆっくり、じらすように下着をはぎ取られていく。
 頬がかっと熱くなった。
 すでにオレ自身は立ち上がっている。

「元気があるな」

 布団の上に押し倒された。

 オレのモノが口に含まれ、舌を裏側に当てられて強く吸われる。
 オレはそこだけに集中する。
 先端から先走りの露が、絶え間なくこぼれだす。
 敏感な裏側を攻められる。
 舌先を左右に舐め擦られる。
 ねっとりと、丁寧に、そして激しく、緩急をつけて。

 今までフェラさせてやった、飢えた男たちとは大違いだった。
 情熱的だが、余裕がある。

「あ、う。んんん」
 きつく吸われて、オレは顎をのけぞらせる。
 両腕で顔を隠した。

 オレの若い体はこらえられない。
 たちまち高みに到達する。
「ああ……っ」
 体がしなり、痙攣する。
 熱い若さがほとばしる。
 オヤジは迷わず、ごくりと飲み干した。

 今度は四つん這いにされた。
 オヤジの目がオレの秘所を視姦する。

 オヤジは、まるで儀式を執り行うように、慣れた手つきでコンドームを装着し、ローションをたっぷりと塗った。
 押し開かれて顕わになったオレの花弁は、ひくひくおののいて、オヤジの雄を待ちわびている。

 恥じらい身もだえる自分を俯瞰してながめている気分だった。
 それだけで、気分が高まっていく。

 じらせるように花弁にそっと触れられ、緊張する。
 ローションをたっぷり掬い取った人差し指を差し入れられて、入り口をぐるりと撫でられる。
 脱力していたオレのモノが頭をもたげる。
 指を増やし、さらに奥へとローションを塗られていく。
 花弁が、オヤジの指を強い力で締め付けるのが、自分でも分かった。
 凝視されて花弁がぴくぴくとおののく。

 ただの通過儀礼のつもりだったけど、情けないことに、オレは恥じらいと恐怖で無言になっていた。
 オヤジの『可愛いやつめ』という眼差しが痛い。

 じっくり解されていく。
 それだけでオレの身体がビクビクと反応を返す。

「任せておけ。男同士の良さをゆっくり教えてやる」
 オヤジの余裕に満ちた言葉に、小さくうなずくしかなかった。

 雄の先端をあてがわれただけで、オレの花弁がきゅっと締まる。
 オレの雄はすでにしっかりと硬度をもち、先端がポロポロと涙をこぼす。

「いくぞ」
 ゆっくりと攻め入ってきた。

 まだ蹂躙されたことがない、花弁の奥へと、太い異物が押し入って来る。

「ん、ん、ん」
 閉じた口からくぐもった呻きが、空間に漏れ出す。

 さすがにオヤジのテクニックは抜群だった。
 痛みどころか不快な違和感も無かった。

「ひあっ。ううあ」
 内部を撫で擦られ、突き上げられて、押し殺した叫びがオレの口から流れ出す。

「つつっ。んんん」
 喘ぐ柔らかな声が、自分の声ではないような気がした。

「誰にも聞こえやしない。もっと声を上げていいぞ」
 オヤジの声掛けにも、できるだけ声を押し殺した。

 オヤジが激しく体を打ち付ける。
 肉体のぶつかり合う音が命を歌う。
 オレの若い身体が応える。
 捕まえて放さないようギュッと締め付ける。

 オヤジは己の雄をコントロールしながら、オレの高まりに合わせてくれる。

「いくぞ」
 オレの中に精が解き放たれると同時に……。

「ああっ」
 愛撫されていたオレの雄蕊からも、愛がほとばしった。

 身体が力を失って突っ伏す。
 オヤジは、うつぶせになって力を失ったオレの体を、優しく仰向けに横たえてくれた。

 こんなセックスがあったんだ。
 初めて知った世界は鮮やかな色どりに満ちていた。

 余韻に浸るなんてもったいない。
 オレはオヤジの肩に手を回し、強く抱きついた。
 雄の象徴はすでに力を取り戻している。

「元気なもんだ。そんなに良かったのか」
 オヤジはオレの蕾の周りを舐め、舌先でつついた。
 アリの門渡りを舌先でくすぐる。

「来て」
 オレは小さくささやいた。



 お互い、何度、果てたかわからない戦いは終わった。
 心地良い疲労感に満たされる。

 オレは身じまいを糺して正座した。

「最初で最後の契りということで……」
 深々と頭を下げた。

「おう。わかっている」
 オヤジは即座に答えた。
「無かったことにしよう」

 オヤジの言葉を背に、オレは座敷を後にした。
 二人はまたもとの二人に戻って、再びの機会を持たないはずだった。


 ここ数年、関西大手の神姫会との抗争も小休止状態で平和が保たれていた。
 それでもいつまた抗争の火種が再燃し始めるとも限らない。

 昨今では、中国マフィアを始めとして、不良外国人勢力の台頭も見逃せなくなった。

 オレは時宜に則したシノギを模索し続けた。
 語学力を生かして外国人と接触し、銃を密輸入して売りさばいたり組のために収集したりし始めた。
 現地に足を運んで直接交渉する仕入れに力を入れた。
 大きな資金源の獲得は、オヤジを大いに喜ばせた。

 オレは調子に乗ってさらなるシノギを画策した。

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