クローン兵士の日常 異世界に転生したら危険と美女がいっぱいでした

Kanaekeicyo

文字の大きさ
上 下
160 / 173
第六章 出張編

出張編50話 わびさびあるのは銀閣寺

しおりを挟む


また異世界の夢を見た。

カナタは言葉巧みにシジマ博士とやらを調略し、実戦に投入される事によって研究所を脱出したようだ。

出来の悪い息子だと思っていたが、私に見る目がなかっただけだったか。

いいぞ、その狂った世界で生き抜く為には悪辣ぐらいで丁度いい。

問題はカナタが配属されるのが精鋭部隊だという事だな。同盟最強のアスラ部隊、か。

夢の続きをもっと見たかったが、目覚めの時が近い事がわかる。

何度も夢を見るうちに、そういう感覚も身につけてきたようだ。




私はソファーの上で目を覚ます。

すぐに夢の内容をメモに書き記す。見た物、聞いた事、覚えている限りの全てを。

ソファーに座って見落としがないか考えているうちに、大きな見落としをしている事に気付いた。

見落としとは夢の内容ではない。

異世界の夢を見るのはソファーで眠った時ばかりだという事に、ようやく気が付いたのだ!

この………大間抜けめ!そんな事に今まで気付かなかったのか!

出来が悪いと見限ったカナタの方がよっぽど抜け目がないぞ!

自分をぶん殴りたくなるほど後悔したが、時計の針は巻き戻らない。

ソファーで眠った時にだけ夢を見る、ならば必ず理由があるはずだ。

考えろ、ソファーに、リビングルームにあって寝室にないもの…………

そうか!たぶん、いや間違くそうだ!

私はソファーの傍にあるキャビネットの引き出しを開ける。

引き出しの中には息子の遺品が入っている、この中に手掛かりがあるはずだ!

財布、手帳、スマホ、………そして勾玉! 親父から贈られ、息子が肌身離さず身につけていた勾玉だ!

………親父は異世界からの異邦人、その親父が息子に贈った勾玉、これに違いないだろう。

この勾玉こそが、異世界へと繋がる鍵なのだ。





「なるほどねえ。言われてみれば、確かに神秘的な輝きを放つ勾玉ね。」

朝食を作りにリビングに降りてきた風美代に、事情を話した。

「まったく自分の馬鹿さ加減に嫌気がさすよ。なんだってもっと早くに気が付かなかったんだ。」

そうすれば、もっと多くの異世界の情報を入手出来ていたというのに!

「後悔先に立たずよ。前向きに考えましょう、手掛かりを掴めたんだってね。」

勾玉をテーブルの上に置き、フレンチトーストを作り始めた風美代の言葉に同意する。

「ああ、前向きに考えよう。キーパーツを手に入れたんだと。」

そう、今は後悔の時間ではなく、行動の時間だ。

「それでな、権藤と一緒に親父の親友だった物部さんを訪ねに京都へ行ってみようと思う。何か知っている可能性があるからね。」

「いつ立つの?」

「朝食を終えたらすぐにだ。駅で権藤が待ってる。」

「あらあら、だったらアイリを起こして準備させなきゃ!」

「キミも来る気か!?」

風美代はフレンチトーストをフライパンから皿に盛り付けながら澄まし顔で答えた。

「行っちゃダメな理由はないでしょう? アイリが銀閣寺を見たがってるし。」

「来るのは構わないが、観光旅行じゃないんだぞ。」

………金閣寺ではなく銀閣寺を見たいとは。いい趣味をしているな。

「じゃあアイリを起こしてくるわね。先に食べてて。」

そう言って風美代は私に何も言わせず、エプロンを外して二階へ上がっていった。

………母は強しというが、強くなりすぎだろう。

いつの間にか主導権を奪われている事に気付いた私は、仏頂面でフレンチトーストを食べる事になった。





「おやおや、取材のはずが観光旅行になったみたいだな。」

東京駅のホームで待っていた権藤はニヤニヤ笑っている。この男、明らかに私の窮状を面白がっているな!

「………言うと思ったよ。物部さんを訪ねるのは私と権藤だけでいいだろう。その間に風美代とアイリは京都観光さ。なんの問題もあるまい。」

「敏腕官僚と評判だった天掛も主婦と子供の前では無力らしいな。実に結構だ。」

なにが結構なんだ。まあ家に置いておくより安全かもしれん。全てを失った苫米地は娑婆にいるのだ。

「権藤のおじさん!私ね、銀閣寺が見たいの!」

リュックサックを背負ったアイリはご機嫌のようだ。

「ほう、銀閣寺とは渋い趣味だね。銀閣寺のどこがいいんだい?」

「パパが言ってたの!通は金閣寺より銀閣寺が好きなんだって!わびさびがあるのは銀閣寺、そう言ってたよ!」

父親の影響か。………思えば本当に私は息子になにもしてやらなかったな。

与えたのは金だけ、………まるで銀閣寺のように侘(わび)わびしくさびしい親子関係だった事に気付きもしなかった。

「光平さん、また悪い方に考えを持っていってるわね? 大方、今まで息子になにもしてやらなかった、とか考えてるんでしょう?」

やれやれ、母は強し、か。強くなるだけにしてもらいたいものだ。強い上に鋭いとか始末に負えんぞ。

「そんなところだ。そんなに私は分かりやすい顔をしていたかい?」

「とても分かりやすい顔だったわ。でもね、なにもしてこなかったなら、これからすればいいのよ。それだけ。」

「ご説ごもっとも。さあ、行こうか。」

私達は新幹線に乗り込み、京都を目指した。




京都駅で風美代達と別れ、権藤と共にタクシーで物部さんの住む四条烏丸町に向かう。

「権藤、あの二人に護衛をつけずに大丈夫かな?」

「苫米地は自宅から動けんよ。新聞や週刊誌の記者が張り付いているからな。動くとすれば、ほとぼりが冷めてからだろう。実際、苫米地はどうなりそうなんだ?」

「米国の司法当局次第だが、少年を強姦したならともかく、金を払って合意の上での買春だからな。不起訴になる可能性が高い。」

常習的とはいえ初犯だ、外交関係的にも事を荒立てはすまい。

「だが社会的には死んだだろう。同性愛ならセーフだろうが、児童性愛を許容する社会はない。この日本ではなおさらな。」

「だから用心が必要なんだ。未来を絶たれた自由の身、復讐ぐらいしかする事もなかろうからな。」

私を狙ってくるなら構わん。返り討ちにしてやるまでだが、苫米地のような青びょうたんは女子供を狙ってくるかもしれん。

「騒ぎが収束しだしたら、しばらく天掛家の居候をさせてもらおう。俺か天掛、どっちかは家にいたほうがいい。」

「そうしてくれると助かる。」

そんな会話をしている間に目的地についたようだ。




「物部さんは神社にお住まいではないのか?」

「数年前に宮司を引退されて、今はマンションに一人住まいだそうだ。」

私と権藤は物部さんの住むマンション「バードハイツ烏丸」にやって来ていた。

権藤の調べでは物部さんの住むのは505号室らしい、普通に考えれば5階にあるはずだ。

私と権藤はエレベーターに乗り、5階に上がる。

「505号室、ここだな。」

権藤がインターフォンを鳴らすと、しばらくして老人の声がした。

「誰かね?」

「産業流通新聞の記者、権藤と申します。天掛翔平さんの事でお伺いしたい事がありまして。翔平さんの息子さんの天掛光平氏も一緒です。」

ガチャリと音がしてドアが開かれ、厳めしい顔付きの老人が顔を出した。

この老人は何度か家に来た事がある。顔見知り程度の関係でしかないが。

「………お上がりなさい。茶でも出そう。」

私達は小綺麗な客室に案内され、応接椅子に腰掛けるよう促される。

キッチンに向かったらしい物部さんは、しばらくして湯飲みを載せたトレイを持って帰ってきた。

「これはあいすみません。遠慮なくいただきます。」

遠慮という言葉とは縁遠い権藤はさっそく茶を啜り始める。

「ワシの好みで昆布茶しかないがの。光平くんも飲み給え。」

実は昆布茶は苦手なのだが、ここは飲むしかなさそうだ。

この老人にヘソを曲げられたら無駄足になる。

「ほっほ、光平くんは昆布茶が苦手じゃったか。無理して飲まずともええ。」

「………物部さん、ご無沙汰をしております。」

「息子さんは残念じゃった。お悔やみを申し上げる。葬儀に顔も出さんですまんかったの。」

「いえ、お気持ちだけで………!!!」

この老人!なぜ波平が死んだと知っている!知らせを出したのは数少ない近親者だけだ!

「ほう、物部さんは波平くんの事をご存じでしたか。なかなか耳がお早いようですな?」

権藤も同じ事に気付いたらしい。目付きが鋭くなっている。

「まあの。その件で来たのではないのかね?」

「そうなのです。なにかご存じの事がおありでしたら教えて頂きたい。」

私は深く頭を下げた。息子の事は交渉によって聞き出すよりも、私の正直な心情を分かってもらって聞かせて欲しい。

「………翔平から聞いた人となりとはずいぶん違うのう。人がお変わりになったか。変わらぬよりは良い事じゃて。」

「なにかご存じなのですね?」

「知っておるような知らぬような。ワシは翔平から頼み事をされて、その通りに実行したまでじゃよ。」

「その頼み事を教えてください!」

「秘密を守ってもらえるかの? ご法に触れる部分もあるのでな。」

「もちろんです。」 「名こそ三流新聞ですが、守秘義務厳守は一流がウリでね。」

頷いた物部老人は厳かに話し始めた。



少しづつだが、彼方の世界へと近づいている。歩みを止めなければ必ず行き着くはずだ。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

処理中です...