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第六章 出張編
出張編25話 嫌がらせは入念に
しおりを挟む司令の目論見通り、叩き上げの武闘派であるヒンクリー准将を東雲派に引き込むコトに成功した。
これで司令は野望の階段を一段上がったのかな?
「そう言えばヒムノンをアスラ部隊に引き込むって話は本当なのか? 役に立つとは思えんが。」
そうか。ヒムノン少佐は解任確実とはいえ、まだヒンクリー師団所属だよな。
「准将は反対なんですか?」
「まさか、引き取ってくれるなら有難い話だ。戦地でペーパーナイフはいらんからな。」
「尖ったナイフばっかり揃ってるウチにはペーパーナイフが不足してますんで、オレがスカウトしました。」
オレがヒムノン少佐をスカウトしたのが、准将には意外だったらしい。
「剣狼は見所のある青年だとシノノメ中将が褒めていたが………」
どうやらオレは方々で過大評価されてるみたいだな。
「それは中将の買い被りですよ。でもヒムノン少佐は過小評価されすぎです。戦地以外じゃ有用なヒトなんですよ。」
「軍人は戦地で役立ってこそだと思うがな。ヒムノンの話はさておき、死神の正体を暴いたのも剣狼だと聞いたが本当か?」
「推論の上に推論を積み上げた危なっかしい橋でしたが、ウチには優秀な偵察要員がいましてね。死神の話ですが、スペック社のエージェントだと判明したのに箝口令が敷かれてますよね。何故ですか?」
「死神は辺境に配属された部隊に突然奇襲をかけてくるだろう? それに対して打つ手がないのだろうよ。打つ手がない以上、情報を公開すれば辺境配置の部隊に恐怖を与えるだけだと判断したって寸法さ。上層部のアホ共の考えそうな事だ。」
ヒンクリー准将は苦虫とクルミを噛み潰しながら答えてくれた。
「戦略的要地を狙ってこないなら放置して構うまいって計算も働いてるんでしょうね。兵士の命をなんだと思ってるんだ。」
「将官としては耳が痛い台詞だな。」
マリカさんが嘆息しながら、
「辺境配置の部隊に殲滅部隊が現れたら撤退せよって命令ぐらい出すのが思いやりだろうにねえ。」
「そうなるとハッタリをかましてきますよ。殲滅部隊を名乗る部隊が辺境に大量発生するんじゃないですかね。」
「そうか、その可能性が高いな。カナタならどうする?」
「殲滅部隊がスペック社のエージェントであるコトは友軍には開示します。その上で殲滅部隊対処用の部隊を編成し迎撃にあたると辺境配置の部隊に通告、その情報は機構軍に漏れるでしょう。それで様子を窺いますね。」
「しかし何時何処に現れるか分からん殲滅部隊に対応する為に、精鋭部隊をいくつも待ち伏せさせておく事は出来んぞ。」
ヒンクリー准将の意見はもっともだ。オレも殲滅部隊を本気で殲滅出来るとは思ってない。
それをやるのは同盟軍にとってロスが大きいってのは、統合作戦本部と考えが一致してる。
「ええ、だからハッタリなんですよ。死神は狡猾だからハッタリだと見抜くかもしれませんが、死神に命令を出すスペック社の偉いさんはどうでしょうね? 少なくとも今までみたいに気分良く作戦行動は出来ないでしょ? 慎重にならざるを得ない。」
「カナタは狡い嫌がらせを考えさせたら同盟一なんじゃないか? まあ飲みな。」
マリカさんが新しいワインのコルクを抜いて、オレのグラスに注いでくれる。
………もう一人で一本開けちゃったんですか? ペース早すぎっしょ!
ヒンクリー准将が頷きながら、
「なるほどな。情報が漏洩する前提で、死神の行動に制約を加えるという手か。確かにハッタリだと見抜いても、無警戒で今まで通りって訳にはいくまい。ハッタリでなかった場合の事を考えればな。統合作戦本部に作戦案として進言しておこう。」
オレはマリカさんに注いでもらったワインをじっくり味わいながら、考えをまとめる。
「さらに狙われそうな辺境部隊の駐屯地周辺に隠しカメラを配備しておきましょう。殲滅部隊が隠しカメラを発見すれば、待ち伏せを警戒してくれるかも。うまくいけば殲滅部隊の映像を撮れるかもしれませんし。とにかく殲滅部隊には手枷足枷をつけてもらうってセンでいいんじゃないかと思います。」
「わかった、統合作戦本部がいくらアホ揃いといえど、カメラ代が惜しいとまでは言わんだろう。剣狼は参謀としても有望そうだな、ウチの師団に来ないか?」
「有難いお話ですけど、オレは水晶の蜘蛛が気に入ってるんで………」
マリカさんがニヤリと笑いながら、
「アタイの目の前で部下を引き抜こうってのかい? そうは問屋が卸さないよ。」
「ヒムノンとトレードって事でいいじゃないか。」
「割に合わないね。死神対策だが、そこまでやるってんならダメ押しもしとくべきだ。機構軍の辺境配置部隊を一つ、完膚なきまで壊滅させてやろうじゃないか。」
「緋眼、それにはどういう意図があるんだ?」
………ああ、そういうコトか!いい手だ。
「准将、殲滅部隊殺しの部隊が結成されたってハッタリに信憑性を持たせる為ですよ。一度でいい、辺境配置の敵部隊を壊滅させればハッタリに厚みが増します。スペック社の偉いさんは軍人じゃなく商人です。疑心暗鬼のタネに必ずなります。」
「死神殺しの部隊だとどうやって悟らせる。統合作戦本部からの発表ではあざとすぎるだろう?」
「敵部隊を殲滅してから死神にメッセージを残しておけばいいんです。兵士の落書きに見せかけて「待ってるぜ、死神」とでも書き残しておけば、ね。死神には見抜かれる前提なんで、そのぐらいのあざとさはあってもいい。引っ掛けたいのは死神に指令を下す連中だ。」
「ふむ、悪くないな。だが誰がやる? 敵を殲滅するだけなら強ければ可能だが、他の基地に連絡を取らせてはいけないとなると手際の良さも求められる。その両方を今までやりおおせている死神の優秀さは認めざるをえん。少なくとも俺の師団でそんな事が出来る部隊はないな。」
オレはマリカさんの様子を窺う。………そうくるだろうと思ってたよ。
「アタイらさ。水晶の蜘蛛が幻の殲滅部隊殺しの部隊を偽装する。死神に出来た事がアタイらに出来ない訳がない。」
だよな、ウチは電撃戦は得意中の得意だ。アサルトニンジャ主体の大隊なんだから。
「クリスタルウィドウなら他部隊に連絡すらさせず、辺境配置部隊を殲滅可能だろう。やってくれるのか?」
「イスカがうんと言えばね。………カナタ、そうなった場合の覚悟はいいな?」
………偽装作戦が決行されれば、オレらは辺境配置の敵部隊を一人残らず殲滅しなきゃいけない。
そうなると、大量殺戮に適したオレの狼眼がモノをいう。
マリカさんはオレに大量殺戮の覚悟はあるかと聞いているのだ。
「………やれます。蜘蛛の毒牙にかかる部隊はお気の毒とは思いますが、これは戦争なんでね。」
「よし、明日にでもイスカと相談してみる。すぐさま作戦ってコトにはならないだろう。蜘蛛達は今、イズルハ列島で休暇中だしね。カナタが将校に昇進して、初の作戦ってことになりそうだが。」
短期の電撃作戦だ。大規模反攻作戦「ブレイクストーム」の発動前に挟む任務として適当だと司令は判断しそうだな。
この作戦は決行されると考えておいた方が良さそうだ。
「となると絶対零度の女との決闘で医療ポッド入りとかは避けないといけませんね。」
「そのぐらいカナタならやれんだろ。」
勝つ自信はあるけど無傷は無理ですよ。アイツは大口叩くだけあって相当な腕だ。
「絶対零度の女? シオン・イグナチェフの事か?」
「准将はあの生意気な金髪大女を知ってるのかい?」
「………ああ、「皇帝」と呼ばれたラヴロフ・イグナチェフとは若い頃に同じ部隊にいてな。俺の戦友だった。」
シオンの親父さんは「不屈の」ヒンクリーの戦友だったのか。
「准将、だったら一つ頼まれてくれないか? カナタと絶対零度の女は将校カリキュラムの終了後にガチ勝負する事になっててね。審判役がいるんだ。アタイがやれりゃいいんだが、里の爺婆共がアタイの顔を見たいって五月蝿いらしいんで、一度は業炎の街に里帰りしなきゃなんない。准将の部下でそれなりに腕が立つ奴に立会人になってもらいたい。」
「俺が立会人になろう。勝負の場所も用意する。」
ヒンクリー准将の顔が陰を帯びる。なにかシオンの事情を知ってるのだろうか。
「若手の諍いにわざわざ准将が出張る必要はないと思うけど、なにかあんのかい?」
「………ああ、ちょっとな。それに剣狼と絶対零度のガチ勝負なら見逃す手はない。俺が命を賭けて戦う理由は次の世代への橋渡しをせねばならんからだ。剣狼や絶対零度みたいな次の世代への、な。」
「オレもシオンもまだまだ未熟者です。准将のお目汚しをするような大層なモンじゃありませんよ。」
「なあ、剣狼。オレもこの戦争が始まった20年前は無謀で未熟な新兵だった。そんな俺がなんで生き残ってると思う?」
「准将に才能がお有りになったからでは?」
「俺に才能がなかったとは言わん。それに運も良かったんだろう。………だがな、俺がここまで生き残れた最大の理由は、俺より経験豊富な古参兵達が助けてくれたからだ。命を賭けて未熟な俺を育ててくれた、生き残る術(すべ)術を教えてくれた、だから今の俺がある。俺がそうして貰ったように、今度は俺がそうする番なのさ。」
ヒンクリー准将の台詞には激戦を生き抜いてきた古参兵のみが有する重みがある。
「………カナタ、好意に甘えておけ。金髪娘も准将が立会人なら文句はなかろうよ。」
マリカさんもその重みを感じとったのだろう。声のトーンがいつになく真剣だ。
「それではオレ達の勝負の立会人、よろしくお願いします。………准将、ありがとうございます。」
「任せておけ。………願わくば見せてくれ、俺に次の世代の可能性ってヤツをな。」
「期待に応えられるよう微力を尽くします。」
最初の勝負みたいに狡っ辛い作戦勝ちはしたくない。いや、出来ない。
カリキュラム終了まで後三週間か。
夢幻一刀流の技でシオンに勝とう。オレはそうすべきだし、そうしたいんだ。
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