クローン兵士の日常 異世界に転生したら危険と美女がいっぱいでした

Kanaekeicyo

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第五章 懊悩編

懊悩編32話 オレはピエロになれる

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※作者より ()で閉じている会話文はテレパス通信による会話を表しています。テレパス通信とは心の中でやりとりするテレパシーみたいなものです。以後の物語で()で閉じられた会話があればテレパス通信による内緒話とお考え下さい。



ガーデンからハンヴィーを走らせるコト2時間、ロックタウンが見えてきた。

ロックタウンは切り立った山の間にある人口5万人ほどの小さな街だ。

いや、小さくはないか。鳥取県の人口の10分の1ぐらいの規模はあるんだ。

それが一カ所に集まってるんだからな。

ロックタウンの周りは高くて厚いコンクリート製の壁で囲まれ、警備兵も常駐している。

この世界の街は全部こんな感じらしい、ロードギャング対策に壁は必須なのだ。

もっともロックタウンを襲うロードギャングはいない。

ここにはガーデンから遊びにくる兵士が多いからだ。ただの兵隊とはワケが違うからな、ガーデンの兵隊は。

そもそもロードギャングがこのあたりには寄りつかない。モヒカン共も分かってらっしゃるのだ、アスラ部隊に見つかったら命がないってコトぐらいは。

世界中で戦争をやってるこの世界じゃ、どこにも安全地帯なんざありゃしない。

だったら精鋭部隊の駐屯地の近くは無法者がいないだけむしろ安全、なのでロックタウンの人口は増えていってるそうだ。

そういった事情でガーデンの兵隊はロックタウンじゃ歓迎されるらしい。

ロードギャングは寄りつかないし、司令が太っ腹なおかげでアスラ部隊の兵士達は金払いもいいんだから、街にとってはガーデン様々だろう。

ハンヴィーはロックタウンのゲート手前の詰め所でパスの提示を要求された。

助手席の同志が警備兵に敬礼したら、すぐに通してくれたけど。

同志アクセルは有名人なようだ。ロックタウンの常連さん、なのかな?

「有名人ですね、同志アクセル。」

「半年に一度、アクセルチャレンジって祭りの余興があるんでな。運転を代わろう。」

「アクセルチャレンジ? どんな祭りなんです?」

後部座席のシュリが解説してくれた。

「年の初めにロックタウンの住人達による車のレースが、半ばあたりでバイクのレースがあるんだ。そこの優勝者はアスラ部隊No.1リガーであるアクセルさんに挑戦できるんだよ。計4回、優勝者相手の車とバイクのレースにアクセルさんは出場し、負けた事はない。というか圧勝してる。」

車を止めて同志アクセルにハンドルを譲る。こっからは普通の道路だからな、事故が怖い。

「優勝者特典のエキシビションマッチみたいなもんか。優勝者とはいえ素人さんが「音速(ソニック)の」アクセルに挑むとは無茶だな。」

「音速じゃなくて光速って呼んでもらいたいがね。面白がった司令がオレに勝ったら三千万Crって賞金を賭けたもんだから、皆さん本気で挑んでくる。レースの優勝賞金が二千万Cr出るから、元から白熱したレースなんだが。」

「でも人口5万人の街じゃ優勝する人間は限られてくるんじゃないですか? 賞金だけで食っていけますね。」

「市長もそこは考えてる。外からも賞金狙いの参加者が来るのさ。街の住人なら無料で参加できるが、外から参加しに来る人間はエントリー料がいる。おまけに街が主催するトトカルチョもあるから、賞金を出しても黒字なんだよ。レース開催で得た収益は街の孤児院の運営にあててるってのが、他の街の市長と違うトコだ。代々世襲の市長さんだが、普通に選挙しても勝つだろうな。」

レースを見に来るギャラリーも街に金を落とすだろうし、上手いこと考えたな。一種の街興しみたいなモンか。

しかし代々世襲の市長って………市長と言う名の地方領主じゃねえか。

ロックタウンの住人は支持してるんだから問題ないだろうけど、非道い統治の街もあるんだろうな。

パーキングエリアに車を止めて、オレらはロックタウンの市街地に繰り出す。

「さて、オレはジャンク屋にでもいくかな。」

「僕は里のみんなにお土産を買わないと。雪風、おいで。」

「バウ!(うん!)」

「おいおい待ってくれ。みんなでまとまって行動しようぜ。オレはロックタウンは初めてなんだ。」

すると同志アクセルがテレパス通信で、

(同志、ジャンク屋に行くのは本当だが、例のブツも取りにいくんだ。)

(え!やらしい牛乳の金のシール、手に入ったんですか?)

(ああ、同志の分も買ってきてやろうか?)

(いえ、オレはやらしい牛乳を飲んで自力で集めます。おっぱいの道は一日にしてならず、なので。)

(オッケー、そういう事情だ。他にも色々いいモンを仕入れてくるから、帰ったら臨時党大会(オッパイマニアフェス)を開催しようぜ。)

(おっぱいぱい、了解です。健闘を祈ります。)

同志アクセルとのテレパス通信を切断した途端に、シュリからテレパス通信が入る。

(カナタ、里のみんなにお土産を買うのも本当だけど、ホタルへのプレゼントも買いたいんだ。)

(ああ、そういう事情か。リリスがいちゃゆっくりプレゼント探しも出来ねえよな。)

(うん、仲直りのプレゼントだからガーデンで買う訳にもいかないだろ?)

(そりゃそうだ。ガーデンのモールに並んでるようなプレゼントアイテムはホタルだって普段から見てる。んなモン贈ったら誠意を疑われちまうわな。通販じゃ来るまでに時間がかかりすぎるし。)

(そういう訳なんだ。ナツメの事は頼む。)

(了解だ、ホタルの喜びそうなモンを頑張って探せよ。)

(雪風を連れて行くから大丈夫。女子力高いから。)

雪風先輩は女の子だからな。しかしシュリ、傍目には犬とプレゼントを相談してる変な奴だと思われるぞ。

「准尉、内緒話は終わった?」

「ななな、なんのコトでせうか?」

「はいはい、分かったからさっさと行きましょ。」

リリスはオレの手を引いてサッサと歩きだす。一瞬逡巡したようだがナツメもついてきてくれた。

待て待て、待ち合わせ場所を決めとかないと。オレはリリスを制して立ち止まる。

「じゃあ夕方集まって一緒に晩メシにしよう。同志、どっかいい店あります?」

「18:30にテンガロンハウスって店に集合だ。リリス、場所を知ってるか?」

「ロックタウンの地図はもう暗記してあるから問題ないわ。」

便利だねえ、人間ナビゲーター。



分散行動するコトにしたオレは、リリスとお手々を繋いでロックタウンのショッピングモールを歩く。

ナツメは無言で後に続く。う~ん、この微妙な距離感よ。まさに今のオレらの関係の縮図だな。

リリスが足を止めブティックに入っていったので、店の外で待つコトにした。よし、距離を詰めてみよう。

「ナツメは服とか買わないの?」

「…………服は姉さ、マリカが選んでくれるから。」

ん? 今コイツ姉さんって言いかけたな。

「…………ひょっとしてマリカさんと二人の時は、姉さんって呼んでたりするのか?」

ナツメはふるふると首を振った。姉さんって呼べばいいと思うけど。マリカさんは喜ぶんじゃないか?

「…………………」

なんか喋ってくれ。オレは沈黙恐怖症なんだよ。ええい、なにか話題はないもんか。

「じゃあなにか食べたいものとかないの? お、あそこにクレープの屋台があるぞ。」

「………別に食べたくない。」

そして訪れる静寂の時間…………くぅ、間がもたねえ。

気まずいワケじゃないが、このもどかしい空気を誰かなんとかして下さい。

「お待たせ。なによ、みょ~な空気を発生させちゃって? これ以上有害物質を世界に拡散させない方がいいんじゃない?」

したくてしてんじゃありません。とにかくナツメさんの天岩戸あまのいわとは堅牢すぎて手がでねえの。

脳内の納豆菌の活性化の為に糖分でも補給するか、でもオレはクレープはそんなに好きじゃねえんだよなぁ。

お、そうだ。

「リリス、ロックタウンの地図は暗記したって言ってたよな。どっかに羊羹売ってるとこないか?」

爺ちゃんに剣道を習ってた頃は、練習が終わったら爺ちゃんの好物の芋羊羹を一緒に食べてたんだよな。

久しぶりに美味しい羊羹が食べたくなったぞ。

「脳内データバンクの情報によると…………つるかめ屋って京菓子の専門店があるわね。最近出来た支店で、本店は照京みたいだけど………」

「つるかめ屋!」

お、ナツメが反応したぞ。

「ナツメ、その店を知ってるのか?」

「…………パパがお土産によく買ってきてくれた。」

楽しかった思い出も、今のナツメにとっちゃ痛みを伴う思い出になってるんだよな。

でもな、それでも前に進んで欲しいんだ。楽しかった思い出まで封印するコトねえんだから。

「…………行ってみないか、つるかめ屋に。どうしてもイヤなら行かなくていいけどな。」

「………………」

「わかった、無理強いはしない。でも楽しかった思い出まで封印するコタねえと思うぜ。いつかつるかめ屋の菓子を一緒に楽しめる日がくるといいな。」

「………………いく。」

うっしゃぁ!ロックタウンまで来た甲斐があったぜ~!

「よし、行ってみよう。リリスもいいだろ?」

「いいわよ、中でもきんとんが絶品らしいわ。もちろん、准尉の奢りよね。」

「オーケーオーケー、行きましょう行きましょう。」



「京菓子つるかめ屋」ロックタウン支店では、お土産や贈答品の販売だけじゃなく、小売もやってて店内でも食べられるみたいだった。

オレはマリカさんとシグレさん用にお土産を買った。オレは気配りの出来る男なのだ。

それから3人で名物の栗きんとんと栗羊羹を買って、店内の椅子に腰掛けて食べる。サービスでお茶もついてきた。

「うん、お値段の分の価値はあるわね。甘味甘味。」

「あまあまでうまうまだな。老舗の味って感じがする。」

オレとリリスの楊枝が止まった。ナツメに異変があったからだ。驚くべき、いや、喜ぶべき異変が。

「………………パパ………ママ………ぐすっ………」

ナツメは栗きんとんを食べながら泣いていた。懐かしい思い出の味は、幸せだった家族の思い出でもある。

空気の読めるリリスは茶化したりせず、静かにナツメを見守ってくれてる。

うん、いい女だぞ。帰ったら褒めてやるからな。

不審に思った店の人が売り場から近づいてくる。親切はありがたいけど、今は邪魔させたくないな。

オレは立ち上がって、着物を着たおばさんがこっちに来る前に事情を説明にいく。

「あ、あのお嬢はんは………」

「少しそっとしておいてやって下さい。思い出のお菓子みたいなんです。」

「やっぱり!あのお嬢はん、雪村のだんさんの娘はんちゃいますのん?」

「ナツメのコトを知ってるんですか!」

「へえ、わてが本店で修行してた頃、旦さんは、よお買いに来てくれはったさかい。いつもナツメさんと奥さんの写真を持ってはって。………来る度に新しい家族写真を見せてくれはったんどす。」

「………そうですか。」

「雪村の旦さんと奥さんはお気の毒な事で………ナツメさんは兵隊はんになりはったと聞きましたが、薔薇園ローズガーデンにいやはったんどすか。」

「ええ、オレらの大切な仲間です。」

「………ナツメさんをよろしゅうお頼たのもうします。」

「はい、もちろん。」

多分、ナツメのお父さんの持っていた写真の中のナツメは、いつも笑っていたんだろう。

この人のナツメの印象は笑顔の可愛いお嬢さんだった。だからパッと見では気付かなかったんだ。

オレは涙ぐみながら栗きんとんを食べるナツメを見ながら思う。

戦場では殺戮天使(キリングエンジェル)で構わない。でも普段は笑顔でいて欲しいよな。



……………決めた。ナツメに笑顔が戻るんだったら、オレはいくらでも道化師ピエロになってやるよ。



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