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第四章 昇進編
昇進編24話 君臨する女帝
しおりを挟む戦闘ヘリ達はカーチスさんが撃退し、機甲部隊はアビー姉さんが半ばスクラップにした。
戦力が半減した機甲部隊を救うべく、レブロン師団分隊は陸戦兵部隊を投入してきた。
そうなるとオレ達の出番である。
マリカさんの突撃命令と共に、オレ達は最前線に躍り出るべく動き出す。
オレは唯一にして最高の友であるシュリと併走して、陸戦兵部隊との戦いの場へと駆けてゆく。
「たかだか倍の兵力差じゃ僕の芸を使うまでもなさそうだね。」
「レブロン師団分隊1400名を皆殺しってワケにもいかない。相当な窮地にでもならない限り、使うべきじゃねえよ。」
「出来るヤツはカナタに任せるよ。カナタの勇戦ぶりを見学させてもらうとしよう。」
「シュリ、戦車の砲塔がコッチ向いてるぜ!」
「おっと、回避しそこねたら流石にマズいね。」
敵は劣勢を挽回するべく、少々の同士討ちが起ころうとも戦車部隊は砲撃を躊躇わない方針に転じたらしい。
オレとシュリは散開して躱したが、無用なカロリーの消費だった。
戦車の砲撃はリリスの展開した桁外れの念真障壁によって阻まれていたのだ。
砲撃を止めて見せた銀髪ちびっ子の指先から少量だが血が滴(したた)っている。
砲撃でダメージを負ったのではない。念真障壁の展開負荷にリリスの華奢な体が耐えきれず、毛細血管が損傷したのだ。
「ふぅん、意外と止まるもんね、戦車の砲撃って。」
「リリス、あんまり無茶すんな!自分の念真能力に殺されるぞ!」
「もうやんないわよ。私はこれが初の実戦だから、どの程度出来るか試しておかないとね。」
オレがリリスに警告している横を赤い疾風が駆け抜けていく。
その圧倒的なスピード、100mを4秒フラットで走破する足を持つ女、マリカさんだ。
コブラでも5秒フラットだぞ。どういう足してんだよ。時速80キロ以上出てる計算になる。
マリカさんは走りながらハンドクラッカーのピンを抜き、戦車の砲口に放り込んですぐに離れる。
戦車から慌てて戦車兵達が飛び出してきた直後に戦車は爆発、戦車兵が宙に舞う。
ずいぶん高く飛んだねえ、頭から地面に着地した兵士達はもう動かない。
ああいう戦車の殺し方もあんのか。マリカさんほど華麗に出来なくても、似たような戦法はオレでもやれそうだ。
戦車が戦争の主役から滑り落ちるのも道理だな。
戦車よりよっぽど安価だもんな、バイオメタルアンプル剤の方が。
そんなコトを考えていたオレの周りを敵兵5人が包囲する。
いけね、戦場でボケっとしてたら当然こうなるよな。
まあ、あまり問題じゃないが。
オレはダッシュで距離を詰め、前方の兵士を始末にかかる。
後方から攻撃しようとした兵士はリムセの脳波誘導ブーメランが刺さってその命を奪う。
そのまま走り込んできたリムセはオレと背中合わせに構え、新たな敵を警戒してくれる。
背面に憂いがなくなったオレは、前面の兵士をなんなく仕留めた。
「軍曹、めっなのです!油断鯛焼きって諺があるのです!」
「それ、なんか旨そうだな、油断鯛焼き。」
「あ、あれ?」
「リムセ、それを言うなら油断大敵だ。だから僕が普段から言ってるだろう? 文武両道こそ軍人のあるべき姿で………」
「シュリのお小言はもう聞き飽きたのです!耳にタコ焼きが出来るのです!」
鯛焼きの次はタコ焼きかよ、そういやリムセは食いしんぼだったな。
口喧嘩は轟音で遮られる。戦場中央まで司令の旗艦、白蓮が進軍してきたのだ。
出撃ハッチが開き、純白の戦装束を纏った司令の勇姿が見えた。クランド中佐と0番隊を率いて、千両役者のご登場である。
司令の肩に止まっていた白い鷹が、殺戮の舞台となった平原の空に悠然と飛び立つ。
「あれは………」
「司令の目、修羅丸だよ。雪風と同じようにバイオメタル化された鷹さ。」
「なるほど、視界をリンクさせて上空から戦場を俯瞰出来るってワケか。」
「そうだよ。でも久しぶりだな。「女帝」の異名を持つ司令の戦いぶりを見れるのは。」
司令は0番隊の先頭に立って、レブロン師団分隊の正面に斬り込んでいく。
司令を数で潰そうとレブロン師団は戦力を正面に集中させるが、司令は構うことなく前進していく。
無謀にも司令の前に立ちはだかった敵は、尽く斬り捨てられていく。
強え、司令は完全適合者、強いのは分かっていたけど、アスラ部隊総司令の名に恥じぬ強者ぶりだ。
速さならマリカさん、技の切れならトゼンさんが上だろう。
だけど司令はトータルファイターだ。速くて強くて巧い。
全てが高水準、隙のなさで言えば3人の完全適合者の中でも、司令が抜けているように思う。
そして草でも刈るみたいに敵兵の命を刈り取るクランド中佐も、アスラ部隊の隊長達に匹敵する腕前のようだ。
いや、その老練で完成された動きは、隊長達すら凌いでいるかもしれない。
「神兵(シンペイ)」と称されるだけのコトはある。発音は同じシンペイでも新兵のオレとは大違いだよ。
おっと、見とれてる場合じゃないな。また敵に包囲されたらシュリのお小言地獄が待っている。
司令が戦場に出てから5分と経たない間に、力の均衡に綻びが見え始めた。
それを見逃す司令ではない。全部隊の無線に指示が飛ぶ。
「正面は私が引き受ける!シグレは右翼、アビーは左翼の敵を受け持て!マリカは右翼後方に回り込んで突き崩せ!トゼンは左翼!カーチスはマリカ、トッドはトゼンの援護を担当しろ!」
「しゃらくせえ!俺に援護なんているかよ!」
「だとよ、司令。俺もトゼンの援護なんざしたかねえな。」
「戦果報奨金がいらんなら好きにしろ。」
「チッ!しょうがねえな!」 「チッ!やりたかねえが仕方ねえ!」
トゼンさんとトッドさんは仲良く同時に舌打ちして、司令の指揮に従った。
あのお二人よりは人間が出来てるオレ達1番隊は、持ち前のスピードを活かして戦場を迂回、後背に回り込むコトにする。
「横撃されたら面倒ですよ、マリカさん。」
「心配すんな、足のないのはシグレの援護だ!残りは全員アタイについてきな!最大戦速で後方に迂回するよ!」
オレ達は必死でマリカさんの後について戦場を疾走する。
敵もそうはさせじと横撃を加えるべく、陣形を立て直そうとする。
しかしそこにカーチスさんの6番隊が重機関砲の一斉射撃をお見舞いした。
バタバタ薙ぎ倒されていく敵兵達の血が平原を赤く染める。
「迂回しようとするアタイらを横撃しようとすれば、正面にいるカーチス達に腹を見せるコトになる。オフェンスディフェンスの役割分担が大して巧くない連中だ。それを見越してのイスカの指示さ。」
なるほど。レブロン師団分隊は横撃を加える役と、正面の敵からの横撃を防ぐ役とに、素早くキッチリ役割分担って芸当は出来ないと見抜いての戦術だったワケだ。
「数だけは向こうが多いけど個々の能力は私達が圧倒してんだから、そもそも勝負になりゃしないわよ。」
ラセンさんに肩車されてるリリスが退屈そうに論評した。
1番隊と4番隊が後方に回り込み、半包囲が完成した時点で雌雄は決した。
そこからの戦闘は、あっけないぐらいに殲滅戦に移行する。
後方に陣取っていたレブロン師団の陸上戦艦は、味方の救出を断念して撤退していく。
生真面目シュリが憤慨する。
「なんてヤツらだ、まだ戦っている仲間がいるのに逃げ出すなんて!」
ラセンさんがしれっとモードに移行したみたいで、表情を全く崩さずに応じる。
「そもそも仲間と思っていたのかどうかが怪しいものだぞ、シュリ。」
ラセンさんの肩の上で、形状変異型戦闘細胞の髪を耳かき状に変化させたリリスが耳掃除をしながら、
「助けたくても、惨敗濃厚な状況で向こうの陸上戦艦は3隻、こっちは8隻、どだい喧嘩にならないって判断も致し方ないんじゃない?」
オレも同意見だ。でも能力が違いすぎて喧嘩にならないってのは、カーチスさん達に戦闘ヘリを撃墜された時点で分かりそうなもんなのに。
「無能な指揮官に率いられる弱卒ほど哀れな存在ってないな。司令が有能で良かったぜ。」
その有能な司令様は戦場中央に優雅に君臨し、敗残兵達に恫喝口調で投降を呼びかけていた。
「さて、もうノミより小さな脳味噌しか持たない諸君と言えど、彼我の力量差は理解できたと思う。武器を捨て、さして価値のない命を全うする道を選ぶもよし、この平原のサボテンの養分になる道を選ぶもよしだ。私はどっちでも構わん。だが決断は今すぐしてもらおう…………選べ!!!」
虫ケラに例えるあたり、リリスの毒舌が司令にも伝染してやがんなぁ。
無論、サボテンの養分になる道を選んだ敗残兵はいなかった。
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