上 下
56 / 173
第四章 昇進編

昇進編24話 君臨する女帝

しおりを挟む


戦闘ヘリ達はカーチスさんが撃退し、機甲部隊はアビー姉さんが半ばスクラップにした。

戦力が半減した機甲部隊を救うべく、レブロン師団分隊は陸戦兵部隊を投入してきた。

そうなるとオレ達の出番である。

マリカさんの突撃命令と共に、オレ達は最前線に躍り出るべく動き出す。

オレは唯一にして最高の友であるシュリと併走して、陸戦兵部隊との戦いの場へと駆けてゆく。

「たかだか倍の兵力差じゃ僕の芸を使うまでもなさそうだね。」

「レブロン師団分隊1400名を皆殺しってワケにもいかない。相当な窮地にでもならない限り、使うべきじゃねえよ。」

「出来るヤツはカナタに任せるよ。カナタの勇戦ぶりを見学させてもらうとしよう。」

「シュリ、戦車の砲塔がコッチ向いてるぜ!」

「おっと、回避しそこねたら流石にマズいね。」

敵は劣勢を挽回するべく、少々の同士討ちが起ころうとも戦車部隊は砲撃を躊躇わない方針に転じたらしい。

オレとシュリは散開して躱したが、無用なカロリーの消費だった。

戦車の砲撃はリリスの展開した桁外れの念真障壁によって阻まれていたのだ。

砲撃を止めて見せた銀髪ちびっ子の指先から少量だが血が滴(したた)っている。

砲撃でダメージを負ったのではない。念真障壁の展開負荷にリリスの華奢な体が耐えきれず、毛細血管が損傷したのだ。

「ふぅん、意外と止まるもんね、戦車の砲撃って。」

「リリス、あんまり無茶すんな!自分の念真能力に殺されるぞ!」

「もうやんないわよ。私はこれが初の実戦だから、どの程度出来るか試しておかないとね。」

オレがリリスに警告している横を赤い疾風が駆け抜けていく。

その圧倒的なスピード、100mを4秒フラットで走破する足を持つ女、マリカさんだ。

コブラでも5秒フラットだぞ。どういう足してんだよ。時速80キロ以上出てる計算になる。

マリカさんは走りながらハンドクラッカーのピンを抜き、戦車の砲口に放り込んですぐに離れる。

戦車から慌てて戦車兵達が飛び出してきた直後に戦車は爆発、戦車兵が宙に舞う。

ずいぶん高く飛んだねえ、頭から地面に着地した兵士達はもう動かない。

ああいう戦車の殺し方もあんのか。マリカさんほど華麗に出来なくても、似たような戦法はオレでもやれそうだ。

戦車が戦争の主役から滑り落ちるのも道理だな。

戦車よりよっぽど安価だもんな、バイオメタルアンプル剤の方が。

そんなコトを考えていたオレの周りを敵兵5人が包囲する。

いけね、戦場でボケっとしてたら当然こうなるよな。

まあ、あまり問題じゃないが。

オレはダッシュで距離を詰め、前方の兵士を始末にかかる。

後方から攻撃しようとした兵士はリムセの脳波誘導ブーメランが刺さってその命を奪う。

そのまま走り込んできたリムセはオレと背中合わせに構え、新たな敵を警戒してくれる。

背面に憂いがなくなったオレは、前面の兵士をなんなく仕留めた。

「軍曹、めっなのです!油断鯛焼きって諺があるのです!」

「それ、なんか旨そうだな、油断鯛焼き。」

「あ、あれ?」

「リムセ、それを言うなら油断大敵だ。だから僕が普段から言ってるだろう? 文武両道こそ軍人のあるべき姿で………」

「シュリのお小言はもう聞き飽きたのです!耳にタコ焼きが出来るのです!」

鯛焼きの次はタコ焼きかよ、そういやリムセは食いしんぼだったな。

口喧嘩は轟音で遮られる。戦場中央まで司令の旗艦、白蓮が進軍してきたのだ。

出撃ハッチが開き、純白の戦装束を纏った司令の勇姿が見えた。クランド中佐と0番隊を率いて、千両役者のご登場である。

司令の肩に止まっていた白い鷹が、殺戮の舞台となった平原の空に悠然と飛び立つ。

「あれは………」

「司令の目、修羅丸だよ。雪風と同じようにバイオメタル化された鷹さ。」

「なるほど、視界をリンクさせて上空から戦場を俯瞰ふかん出来るってワケか。」

「そうだよ。でも久しぶりだな。「女帝」の異名を持つ司令の戦いぶりを見れるのは。」



司令は0番隊の先頭に立って、レブロン師団分隊の正面に斬り込んでいく。

司令を数で潰そうとレブロン師団は戦力を正面に集中させるが、司令は構うことなく前進していく。

無謀にも司令の前に立ちはだかった敵は、ことごとく斬り捨てられていく。

強え、司令は完全適合者、強いのは分かっていたけど、アスラ部隊総司令の名に恥じぬ強者ぶりだ。

速さならマリカさん、技の切れならトゼンさんが上だろう。

だけど司令はトータルファイターだ。速くて強くて巧い。

全てが高水準、隙のなさで言えば3人の完全適合者の中でも、司令が抜けているように思う。

そして草でも刈るみたいに敵兵の命を刈り取るクランド中佐も、アスラ部隊の隊長達に匹敵する腕前のようだ。

いや、その老練で完成された動きは、隊長達すら凌いでいるかもしれない。

「神兵(シンペイ)」と称されるだけのコトはある。発音は同じシンペイでも新兵のオレとは大違いだよ。

おっと、見とれてる場合じゃないな。また敵に包囲されたらシュリのお小言地獄が待っている。

司令が戦場に出てから5分と経たない間に、力の均衡に綻びが見え始めた。

それを見逃す司令ではない。全部隊の無線に指示が飛ぶ。

「正面は私が引き受ける!シグレは右翼、アビーは左翼の敵を受け持て!マリカは右翼後方に回り込んで突き崩せ!トゼンは左翼!カーチスはマリカ、トッドはトゼンの援護を担当しろ!」

「しゃらくせえ!俺に援護なんているかよ!」

「だとよ、司令。俺もトゼンの援護なんざしたかねえな。」

「戦果報奨金がいらんなら好きにしろ。」

「チッ!しょうがねえな!」  「チッ!やりたかねえが仕方ねえ!」

トゼンさんとトッドさんは仲良く同時に舌打ちして、司令の指揮に従った。

あのお二人よりは人間が出来てるオレ達1番隊は、持ち前のスピードを活かして戦場を迂回、後背に回り込むコトにする。

「横撃されたら面倒ですよ、マリカさん。」

「心配すんな、足のないのはシグレの援護だ!残りは全員アタイについてきな!最大戦速で後方に迂回するよ!」

オレ達は必死でマリカさんの後について戦場を疾走する。

敵もそうはさせじと横撃を加えるべく、陣形を立て直そうとする。

しかしそこにカーチスさんの6番隊が重機関砲の一斉射撃をお見舞いした。

バタバタ薙ぎ倒されていく敵兵達の血が平原を赤く染める。

「迂回しようとするアタイらを横撃しようとすれば、正面にいるカーチス達に腹を見せるコトになる。オフェンスディフェンスの役割分担が大して巧くない連中だ。それを見越してのイスカの指示さ。」

なるほど。レブロン師団分隊は横撃を加える役と、正面の敵からの横撃を防ぐ役とに、素早くキッチリ役割分担って芸当は出来ないと見抜いての戦術だったワケだ。

「数だけは向こうが多いけど個々の能力は私達が圧倒してんだから、そもそも勝負になりゃしないわよ。」

ラセンさんに肩車されてるリリスが退屈そうに論評した。

1番隊と4番隊が後方に回り込み、半包囲が完成した時点で雌雄は決した。

そこからの戦闘は、あっけないぐらいに殲滅戦に移行する。

後方に陣取っていたレブロン師団の陸上戦艦は、味方の救出を断念して撤退していく。

生真面目シュリが憤慨する。

「なんてヤツらだ、まだ戦っている仲間がいるのに逃げ出すなんて!」

ラセンさんがしれっとモードに移行したみたいで、表情を全く崩さずに応じる。

「そもそも仲間と思っていたのかどうかが怪しいものだぞ、シュリ。」

ラセンさんの肩の上で、形状変異型戦闘細胞の髪を耳かき状に変化させたリリスが耳掃除をしながら、

「助けたくても、惨敗濃厚な状況で向こうの陸上戦艦は3隻、こっちは8隻、どだい喧嘩にならないって判断も致し方ないんじゃない?」

オレも同意見だ。でも能力が違いすぎて喧嘩にならないってのは、カーチスさん達に戦闘ヘリを撃墜された時点で分かりそうなもんなのに。

「無能な指揮官に率いられる弱卒ほど哀れな存在ってないな。司令が有能で良かったぜ。」

その有能な司令様は戦場中央に優雅に君臨し、敗残兵達に恫喝口調で投降を呼びかけていた。

「さて、もうノミより小さな脳味噌しか持たない諸君と言えど、彼我の力量差は理解できたと思う。武器を捨て、さして価値のない命を全うする道を選ぶもよし、この平原のサボテンの養分になる道を選ぶもよしだ。私はどっちでも構わん。だが決断は今すぐしてもらおう…………選べ!!!」

虫ケラに例えるあたり、リリスの毒舌が司令にも伝染してやがんなぁ。



無論、サボテンの養分になる道を選んだ敗残兵はいなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界で買った奴隷がやっぱ強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
「異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!」の続編です! 前編を引き継ぐストーリーとなっておりますので、初めての方は、前編から読む事を推奨します。

VRMMOでスナイパーやってます

nanaさん
SF
ーーーーーーーーーーーーーーーー 私の名は キリュー Brave Soul online というVRMMOにてスナイパーをやっている スナイパーという事で勿論ぼっちだ だが私は別にそれを気にしてはいない! 何故なら私は一人で好きな事を好きにやるのが趣味だからだ! その趣味というのがこれ 狙撃である スキルで隠れ敵を察知し技術で当てる 狙うは頭か核のどちらか 私はこのゲームを始めてから数ヶ月でこのプレイスタイルになった 狙撃中はターゲットが来るまで暇なので本とかを読んでは居るが最近は配信とやらも始めた だがやはりこんな狙撃待ちの配信を見る人は居ないだろう そう思っていたが... これは周りのレベルと自分のレベルの差を理解してない主人公と配信に出現する奇妙な視聴者達 掲示板の民 現実での繋がり等がこのゲームの世界に混沌をもたらす話であり 現実世界で過去と向き合い新たな人生(堕落した生活)を過ごしていく物語である 尚 偶に明らかにスナイパーがするような行為でない事を頻繁にしているが彼女は本当にスナイパーなのだろうか...

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし〜

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ ★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位! ★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント) 「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」 『醜い豚』  『最低のゴミクズ』 『無能の恥晒し』  18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。  優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。  魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。    ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。  プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。  そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。  ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。 「主人公は俺なのに……」 「うん。キミが主人公だ」 「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」 「理不尽すぎません?」  原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!

言霊付与術師は、VRMMOでほのぼのライフを送りたい

工藤 流優空
SF
社畜?社会人4年目に突入する紗蘭は、合計10連勤達成中のある日、VRMMOの世界にダイブする。 ゲームの世界でくらいは、ほのぼのライフをエンジョイしたいと願った彼女。 女神様の前でステータス決定している最中に 「言霊の力が活かせるジョブがいい」 とお願いした。すると彼女には「言霊エンチャンター」という謎のジョブが!? 彼女の行く末は、夢見たほのぼのライフか、それとも……。 これは、現代とVRMMOの世界を行き来するとある社畜?の物語。 (当分、毎日21時10分更新予定。基本ほのぼの日常しかありません。ダラダラ日常が過ぎていく、そんな感じの小説がお好きな方にぜひ。戦闘その他血沸き肉躍るファンタジーお求めの方にはおそらく合わないかも)

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

処理中です...