クローン兵士の日常 異世界に転生したら危険と美女がいっぱいでした

Kanaekeicyo

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第一章 開幕編

開幕編5話 リターンマッチのゴングは鳴った

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闘技場のゲート前、シジマ博士から訓練用の刀を受け取る。

オレも緊張してるけど、博士はもっと緊張してるな。

そりゃそうか。勝てる算段とかを博士に話してないんだし。

博士は聞きたがったけど、あえて言わなかったんだよね。

目論見通りにいかなかったらカッコ悪いからさ。

とりあえず勝って結果を踏まえて、全て計算通り、とドヤ顔する予定。

「心配しなさんな、博士。完勝するって言っただろ。」

「でもね、前回は一方的にやられちゃってるだろう。あれから1週間しかたってない訳だし。」

「どっちにしたってゲートをくぐれば、もう博士に出来る事はないよ。自分の作品を信じなって。」

「………10号も僕の作品なんだけど。」

そりゃそうだ。



そして1週間ぶりに闘技場のゲートをくぐる。

さて、オレがいくらダメダメの実を食ったダメ人間だとしても、ここだけは勝たないとな。

自分に言い聞かせる、勝つ算段は出来てる。後はやるだけだ。

オレはやれる。
オレはやれる!
オレは殺れる!!

反対側のゲートが開き10号が現れる。ハロー、兄弟。お久しぶりね。

例によって10号は眼球をグリグリ動かして周囲を見回している。

オレは今のうちに左手をかざして障壁を形成する。大きく厚く、イメージ通りに形成出来た。

上出来だ。そして10号は前回と同じく極端な前傾姿勢で距離を詰めて斬りかかってきた。

形成した盾で斬撃を受ける。2合、3合、受け続けても盾は壊れない。

算段の1つ目はこれだ。10号は念真障壁を形成できない。録画で確認したけど他の実験体もそうだった。

そうだよな、おまえらにはイメージって概念が欠落してるもんな。

10号は刀だけ。オレは刀と盾を使う、選択肢の多い分、単純に有利だ。



算段の2つ目いくか!

オレは10号の左足首を狙って刀を払うように見せかける。

10号は軽く跳んで斬撃を躱す、しかしオレの突きが土手っ腹に刺さっていた。

内臓にまで届いたのだろうか。10号は吐血しながら後方に転がった。

やっぱり読み通りだ。知性がないから相手の攻撃の思惑を読み取れない。

相手の動きに即、反射行動をとってしまう。

つまり10号はフェイントにすこぶる弱いのだ。

オレは転がった10号に追撃はしない。内臓まで斬撃が届いていたとしても………

ほら、すぐ立ち上がった。腹部からの出血など意に介してもいない。

だよな、オレもおまえもそういう風に造られてるんだもんな。

慌てる事はない。もう勝ち筋に乗っている。チェスで言えばスティールメイトだ。

チェックメイトまで淡々とすすめよう。



算段の3つ目、オレは障壁で防御しながら、通常の斬撃に時折フェイントを交えて10号を削っていった。

10号は同じ手に何度も引っ掛かった。これがおまえらの致命的欠点。

知性がないから学習能力がない、だ。

身体能力においてオレと10号は完全に互角な訳だから、10号の攻撃は見えるし、動きについて行けない事はない。そして10号にはフェイントもコンビネーションもない。

爺ちゃんと剣道やってた時は、読まれたり崩されたり駆け引きを強いられたけど、10号にはそんな怖さはない。

格闘ゲームのコンピューター戦みたいなもんだな。パターンにハメれば勝つのは簡単。

確かにおまえらは兵器としては失敗作だよ。こんな簡単な攻略法があるんじゃな。



オレはいくつか擦過傷を負ったが、擦過傷如きはオレ達バイオメタル兵にはダメージに入らない。

対峙する10号はかなりのダメージを負っている。出血も多いし、動きもかなり鈍ってきた。

いよいよ、か。後は………オレの覚悟の問題だ。



元の世界の不良の同級生曰く、

喧嘩に勝つのは簡単だ。相手の未来なんて考えなければいい。

元の世界でそんな事をやれば特大のリスクを背負う羽目になるんだろうけど、今はそれをやらない方が特大のリスクだ。

オレにとっての世界は逆転した。ここは相手への思いやりが許されるような優しい世界じゃない。

だから、オレは殺る!

荒い息を吐き満身創痍の10号に、オレは容赦なく斬撃を浴びせる。

クソが!お偉いさんとやら、見てんだろうが!早く止めろよ!

もう勝負はついてんじゃねーか!

10号は血走った目でオレを睨み、それでも反撃してきた。

障壁の盾で受けたがパリンと音立てて割れた。威力の削がれた刀を左手で掴む。

10号と目が合った。

「あばよ、兄弟。………ごめんな。」

オレは渾身の力を込めて10号の頭に刀を振るった。骨を砕く感覚だけが手に残った。

倒れた10号の瞳から光がゆっくり消えていく。



…………オレは人殺しになった。



「いやー、凄かった凄かった!まさにワンサイドゲーム!僕も鼻が高いよ!よくやってくれた、12号!」

人がナーバスな気分だってのにテンションたけえよ、頼むから黙っててくれ。

「言った通りだったろ。だけど途中で不毛な展開になってたのは分かってたハズだ。どうして止めなかった?」

「お偉いさん方が、殺せるかどうか見てみたい、って言うからね。僕としては10号は、まだ壊したくなかったんだけど仕方ない。」

「………ああ、そうかよ。」

博士とこの手の会話をする事が一番不毛だな。断言出来るがオレは生涯、博士とは理解しあえない。したくもねえよ!

まだ興奮冷めやらぬ博士を置いてオレは自室に帰った。泣きたい気分だった。




翌朝、朝食の時間なので食堂にいく。

昨日のご褒美として、今朝から食堂の使用許可が出たからだ。

従順な実験体を演じてきた甲斐があったというものだ。こうやっていける場所を増やしていこう。

食堂は白衣やら軍服とかで賑わっていた。チラチラとオレの方を見るヤツもいるけど気にはならない。

おかげさんで見世物になるのには慣れたんでね。

トースト3枚とフルーツ各種、大盛りサラダにベーコンエッグ、ゆで卵3個にオレンジジュース。バイキング方式の食堂で遠慮なくトレイに食料を積んでいく。

いつ最後の食事になるやら分かんないからな、食える時は目いっぱい食う。

オレより随分控えめな朝食を載せたトレイを持った博士が目の前に座る。

博士、アンタひょっとして友達いないの?ま、いないか。

…………考えてみればオレもだった。世界が変わってもオレのボッチ体質は不変の法則らしい。

多分、万有引力の法則より凶悪な強制力があるな、波平ボッチの法則。

昨日のテンションを引き継いだまんまの博士が、口からトーストの破片を飛ばしながら話しかけてくる。

「12号、キミのおかげで無事にプロジェクトの続行が決定したよ!予算の増額も認められちゃうかもよ?」

はいはい、それはそれは、おめでとうさん。せいぜい国民の血税をドブに捨てて下さいな。

「それでね、いよいよキミの後継モデルの13号の製作に取り掛かる事になったよ。」

「18号を造る時は、是非クール系の美少女で頼む。」

「??? 気が早くないか? だいたいオリジナルが男性な訳だから、わざわざ性別を転換させる合理的理由が………」

「ジョークだよ、ジョーク。しかし10号を始めとする自我欠損の連中の、兵器としての有用性の低さは問題にならなかったのか?」

「なったよ。だけどね、浸透率50%の実験体でも、並の兵士が相手なら身体能力の高さで圧倒可能という結論に至ったんだ。12号は並の兵士と戦ったことがないから分からないだろうけどね。どんなに戦略を工夫しようと幼稚園児は大人に勝てない、と言えば分かるかな?」

「なるほどね。」

「それより問題なのはキミ以外には自我がない、つまり知性もない。この事の方がやはり問題でね。」

「敵基地を攻撃し捕虜を奪還せよ、とかいうオーダーは不可能って話な。」

「そうそう、理解が早くて助かる。見敵必殺(サーチアンドデストロイ)って任務以外には使いようがない。」

「それで偉いさんの出した結論は?」

「第2、第3のキミをなんとしても造りだせ、可能な限り早く量産ベースに載せろ、だよ。」

だろうな。最初のハードルを越えたと思ったら、またすぐ次のハードルかよ。

薄い可能性だがオレを造った時の再現実験をやれば、元の世界から誰かの人格がクローン体に宿るという事はなくはない。

ただオレはそれはないと思っている。

多分、オレも博士も予想もしてないイレギュラーな事態によってオレがここにいるという考えは変わらない。

その前提なら博士の実験は、実は一度も成功しておらず、今後も失敗続きのハズだ。

最初は再現実験を繰り返すだろう、そして新しい実験を始める。

一度は成功させている実績があるから、お偉いさん方も暫くは様子を見るだろう。

ただ、どのぐらい猶予を与えるだろうか。

また、時間との勝負だな。10号みたいなのでもいいから製造しろとプロジェクト続行の判断が下ればいいが、いくらオレが楽天家でもそこまでお気楽にはなれない。

………それにオレの目的は従順なモルモットとして、ここで生きながらえるコトじゃない。

「じゃあ、僕は食べ終わったからもういくよ。13号の完成を楽しみにしててね。」

「ああ、ホントに楽しみだよ。」

実験に失敗して、何故上手くいかないのかって嘆くアンタの顔を見るのがね。

オレの黒い心のつぶやきには全く気付かず、博士は口笛を吹きながら食堂から出て行った。




オレも自室に戻って考えよう、次の目的はここを出ることだ。



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