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富も名声も力も持たざる者の大航海
エル式説得術
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膝を抱え、甲板の隅で小さくなっている優馬。
いじけていても、大海将蛇は消えてはくれない。
「海の大怪物はね、大体の場合はその身に海を、常にまとっているの。正確には、厚さ数cmほどの魔力入りの海水ね。だから、彼らはそれを利用して攻撃を防いだり、そのまま攻撃に使ってきたりするわ」
落ち込んだ優馬の肩を優しく叩きながら、船長のクラリスは語りかける。
彼女の部下達は、今も戦闘中だ。
「部下達の非礼を詫びるわ。あなたは、彼らが思うほど役立たずではなかった」
大蛇は鎌首をもたげて船から距離をとると、その口元に魔力を集め始める。
「まずい……海流砲が来る!なんとしてでも発射を阻止しろ!」
「魔力防壁があってもなくても、あれを食らったら一撃で藻屑だ!」
彼らは必死で大砲を向け、大蛇を狙って撃ち続ける。
それをヒラリヒラリと回避する大蛇は、少しずつ力を貯めていた。
「く、来るぞ!もう間に合わない!」
「まだだ!回頭して、反対側の魔力砲をぶつけるんだ!」
誰が叫んだか、その声に反応して船が動き出す。
その間も、大蛇は船を睨み続けている。
「あなたがあの一撃を当てて、海水の鎧を一気に消し飛ばしてくれなかったら、もうあのヘビはこの船を沈めている頃ね。……もっとも、それならそれで私が前線に立って、そうならないようにしていただけのことだけど」
クスクスと笑いながら、彼女は大蛇を冷ややかな流し目で一瞥する。
「ほんと、なんか、すんません。こんな、やむことしかできない無能で、ほんと、もうマジ、なんか、すんま――」
その時だった。
甲板の隅で、ガンッッッという重たい音が響いたのは。
その場にいた誰もが、大蛇でさえもが、その音の発生源に目を向けていた。
そこには、目の前で起きたことを半笑いで見ているクラリス、頭を押さえて転げ回る優馬、そして鈍器を手にしたガチギレエルがいた。
「いつまでもしゃがみこんでるんじゃねぇですよユーマくん。お前、いつまでも甘ったれてる気なんです?根性足りてなさすぎません?なぁ、おい、なんか言えよ」
優馬の胸ぐらを片手で掴みあげ、いつもの鈍器を振り上げる彼女に、百戦錬磨の船員達がビビっていた。
大蛇もビビっていた。
「あんな爬虫類相手にイモ引いて、情けないと思いません?野郎がヘビの一つも退治できないでどうするんです?あんなのアオダイショウとさほど変わんないですよね?……おい、口利けないのか?なんとか言えよ」
「さ、サイズ全然違います……」
「はぁ?サイズと住みと、水まとってるかとかレーザー撃ってくるかとか、それくらいの差じゃないですか。誤差の範囲ですよ、誤差」
「誤差で片付けて良い範囲じゃないッ!!」
「口答えか?チキン野郎」
「すんません」
船員達は怖くて泣きそうになっていた。
大蛇は失禁しそうになっていた。
「いつまでもゴネてねぇで、さっさとクビ取ってきてくださいよ。ワカリマシタ?」
「いやでも、俺の攻撃効かなくて――」
「ワカリマシタ???」
「はい」
力任せな説得で全肯定させたエルは、腰の引けている優馬のケツを蹴り上げる。
彼女なりの、気合いの注入なのだろうか。
「口元に集めた海水、いつの間にか無くなってるわね。その代わり、また海を纏っている……。防御に回さなきゃならないほど恐ろしいことでもあったのかしら?……でも、もう負けないわよね?」
優馬は、ケツをさすりながら立ち上がる。
「負けたら、今度はマジでケツの骨まで持ってかれるからな。クビを取る他に道はねぇんですよ、俺には」
優馬の目に、闘志が宿る。
恫喝の末のものではあっても、もう彼に後退はない。
「献立は変更だクソヘビ野郎。テメェはルイベにしてやらァッ!!」
武器を手に、優馬は大蛇に襲いかかった。
いじけていても、大海将蛇は消えてはくれない。
「海の大怪物はね、大体の場合はその身に海を、常にまとっているの。正確には、厚さ数cmほどの魔力入りの海水ね。だから、彼らはそれを利用して攻撃を防いだり、そのまま攻撃に使ってきたりするわ」
落ち込んだ優馬の肩を優しく叩きながら、船長のクラリスは語りかける。
彼女の部下達は、今も戦闘中だ。
「部下達の非礼を詫びるわ。あなたは、彼らが思うほど役立たずではなかった」
大蛇は鎌首をもたげて船から距離をとると、その口元に魔力を集め始める。
「まずい……海流砲が来る!なんとしてでも発射を阻止しろ!」
「魔力防壁があってもなくても、あれを食らったら一撃で藻屑だ!」
彼らは必死で大砲を向け、大蛇を狙って撃ち続ける。
それをヒラリヒラリと回避する大蛇は、少しずつ力を貯めていた。
「く、来るぞ!もう間に合わない!」
「まだだ!回頭して、反対側の魔力砲をぶつけるんだ!」
誰が叫んだか、その声に反応して船が動き出す。
その間も、大蛇は船を睨み続けている。
「あなたがあの一撃を当てて、海水の鎧を一気に消し飛ばしてくれなかったら、もうあのヘビはこの船を沈めている頃ね。……もっとも、それならそれで私が前線に立って、そうならないようにしていただけのことだけど」
クスクスと笑いながら、彼女は大蛇を冷ややかな流し目で一瞥する。
「ほんと、なんか、すんません。こんな、やむことしかできない無能で、ほんと、もうマジ、なんか、すんま――」
その時だった。
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その場にいた誰もが、大蛇でさえもが、その音の発生源に目を向けていた。
そこには、目の前で起きたことを半笑いで見ているクラリス、頭を押さえて転げ回る優馬、そして鈍器を手にしたガチギレエルがいた。
「いつまでもしゃがみこんでるんじゃねぇですよユーマくん。お前、いつまでも甘ったれてる気なんです?根性足りてなさすぎません?なぁ、おい、なんか言えよ」
優馬の胸ぐらを片手で掴みあげ、いつもの鈍器を振り上げる彼女に、百戦錬磨の船員達がビビっていた。
大蛇もビビっていた。
「あんな爬虫類相手にイモ引いて、情けないと思いません?野郎がヘビの一つも退治できないでどうするんです?あんなのアオダイショウとさほど変わんないですよね?……おい、口利けないのか?なんとか言えよ」
「さ、サイズ全然違います……」
「はぁ?サイズと住みと、水まとってるかとかレーザー撃ってくるかとか、それくらいの差じゃないですか。誤差の範囲ですよ、誤差」
「誤差で片付けて良い範囲じゃないッ!!」
「口答えか?チキン野郎」
「すんません」
船員達は怖くて泣きそうになっていた。
大蛇は失禁しそうになっていた。
「いつまでもゴネてねぇで、さっさとクビ取ってきてくださいよ。ワカリマシタ?」
「いやでも、俺の攻撃効かなくて――」
「ワカリマシタ???」
「はい」
力任せな説得で全肯定させたエルは、腰の引けている優馬のケツを蹴り上げる。
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「口元に集めた海水、いつの間にか無くなってるわね。その代わり、また海を纏っている……。防御に回さなきゃならないほど恐ろしいことでもあったのかしら?……でも、もう負けないわよね?」
優馬は、ケツをさすりながら立ち上がる。
「負けたら、今度はマジでケツの骨まで持ってかれるからな。クビを取る他に道はねぇんですよ、俺には」
優馬の目に、闘志が宿る。
恫喝の末のものではあっても、もう彼に後退はない。
「献立は変更だクソヘビ野郎。テメェはルイベにしてやらァッ!!」
武器を手に、優馬は大蛇に襲いかかった。
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