寝起きで転生 ~鍋から始める魔王討伐~

べるんご

文字の大きさ
26 / 49
迷子の迷子のDK譚

踊る優馬

しおりを挟む
    その怪物の動きを見続けて二日、ようやく彼は追い付くことができるようになった。
高速で襲い来る触手に何度首が飛ばされかけても、恐ろしくて逃げ帰りたくなっても、彼はそれを繰り返した。


「どうです?慣れました?」


    休むときは安全圏まで下がっているとは言え、本当に死にそうになったら助けてくれる者が居るとは言え、消えない負担は大きい。
それでも彼は立ち向かう。


「なんだか今日、いけそうな気がする」


「同じことを言って虚しく散っていくナンパ師のように散らないでくださいね」


    ムカデの剣を構え、腐敗の始まった屍の真ん中に立つ、絶大な暴力を備えた巨大植物を睨む。


「ちょっと、頑張ってくるわ」


「行ってらっしゃい、ユーマくん!」


    彼は一気に駆け出し、根が飛び出し始める領域に足を踏み入れる。
二歩、三歩と進んだとき、最初に踏みつけた地点から槍が飛び出した。


「槍は遅い!動き続ければ、驚異じゃない!」


    驚異と呼べるのは、触手の乱舞。
数歩の後にその領域に踏み入れた彼を、鎧すら両断しうる一撃が出迎える。


「ダアアッ!!」


    その出迎えを、斬り上げ一つで彼は不要なものと斬り捨てる。
まるで歴戦の武人がごとく一撃で、触手は容易く一本失われた。
緑色の体液を噴出しながら暴れ狂い、それは根本にまで戻っていった。

    残る三本が一度に襲いかかる。
身体能力だけで見れば、確実に直撃するであろう攻撃。
立ち止まれば槍に刺される極限状態。
それでも彼には、当たらない。


「やってて良かった、エル式スパルタ攻略訓練ンンンッ!!」


    三本の触手の攻撃を回避しつつ、本体の周りをぐるぐると回るようにして、少しずつ近付いていく。
回避の秘訣は、単調極まりない動きだと理解すること。
横から薙ぎ払うか、縦から叩きつけるか、精々斜めに斬り伏せるか。
この怪物は所詮は植物、攻撃は所詮はシステム、技巧を重ねた複雑かつ精密な攻撃もなければ、高度な動きの読み合いもない。

    彼は決して、動きの全てを追えてはいない。
本当だったら、とっくの昔に切り刻まれている。
だがそうなっていないのは、追うまでもない程動きが単純すぎるからだ。


「俺はやる、お前を斬る!そして……さっさと前に進んで魔王を斬って、元の世界に帰るんだッ!」


    この怪物の最大の弱点、それは動きが読みやすいことだ。
通用しない攻撃であっても、それが通用していないと


「ウルアアッ!!」


    そしてまた一つ、また一つと触手が斬り落とされ、とうとう全てが斬り落とされた。
舞踊がごとき流麗な動き、そして残酷なまでに鋭い斬撃。
真っ向からそれを繰り返した優馬も、剣と触手の衝突による衝撃で痛みを背負うが、それでも傷を負わずに生きている。


「足元も、留守にはしない!」


    彼は一瞬だけ足を止め、すぐに飛び退く。
そして飛び出した根の槍を一閃、敵の驚異を削ぎ落とす。
そしてそれを五度、六度と繰り返すと、怪物は一切の抵抗をやめてしまった。


「ユーマくん、トドメをさしてください!」


    巨大な花弁に手をかけ、鼻が引きちぎられそうな悪臭を放つ花柱に辿り着く。
切断されたことで、一度後退していた触手達が襲いかかる。
だがしかし、優馬の足場が悪くなった状況であっても、単調な動きは変わらず、少々フラつきながらもそれを攻略。

    そもそも、あの破壊力は遠心力の恩恵も多分に受けている。
つまり、花弁の上にしか届かない程度では、あの威力にはなり得ない。
つまり、この怪物は既に――


「詰んでんだよ、テメェはよオオオッ!!」


    燃え盛る刃で薙ぎ払い、花柱を根本より叩き斬る。
そしてそのまま剣を突き刺し、その状態で更に火力を上げた。


「燃えろ、燃えろ、燃えろオオオッ!!」


    自らの体が包み込まれるほどの、魔力の業火。
怪物を完全に焼き殺さんという意思の力が、彼の魔力を増大させた。


「ダメです、ユーマくん!」


    だが少女は、その業火を危険視した。
故にその飛翔能力をもってして少年に体当たりし、その体を怪物から突き落とした。


「ぐびんっ!?」


    無様な鳴き声と共に、彼は顔から地面に衝突。
その彼を、少女は抱き起こした。


「無茶しすぎです!魔力が暴走してましたよ!」


「はぁ……?暴走?そんな魔力、俺にはねぇだろ。凡人だし」


「凡人だろうが賢者だろうが変な使い方をすれば暴走します!焼け死ぬ気だったんですか!?あのよく分かんないキモいのと!」


「は?いや、そんなつもりないけど……」


「でも実際そうなりそうだったんです!キモいのと無理心中して終わるとか、そんな人生でいいんですか!?」


「いやおま、さっきから何言ってんの……?」


    何を言っているのか分からない様子の優馬。
その身全てを業火に包まれた怪物を見て、一番驚いたのは彼だった。


「えぇっ!?なんであんな燃えてんの!?」


「燃やしたのユーマくんでしょ!?」


「いやこんな燃えると思わんて!!中身ちょっと燃やすくらいだったんだがぁッ!?大体ほら、生木ってすぐ燃えないじゃん!!」


「それが燃えちゃうほどの魔法を使ったんでしょうが!」


    勝利の余韻よりも、燃え盛る怪物の最期、そしてそれを成したのが自分だという事実に驚いている優馬。
そして、手ぶらになっていたことに気付き、エルに問う。


「……なぁ。俺のムカデソードは?」


「……見えません?」


    指差した先に突き立てられている、彼の得物。
燃え盛る業火のど真ん中に、その勇姿はあった。


「ああああああああああっっっ!!」


「うるっっっさっ!?」


    悲痛な叫びの後、彼はふっと糸が切れたかのように気を失った。

    幾人の命を奪った怪物は、ここに消滅した。
この功績がどのような結果を招くか、まだ二人は知らない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

最初から最強ぼっちの俺は英雄になります

総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?

スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。 女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!? ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか! これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。

処理中です...