上 下
19 / 49
迷子の迷子のDK譚

植物天国俺地獄

しおりを挟む
必死で走っているうちにドラゴンはいつの間にか居なくなっていた。
ついでにエルも。


「ふっ……俺としたことが……」


やーれやれ、エルにも困ったもんだ。
ドラゴンに驚いて逃げ出したかと思えば、慌てすぎて迷子になるとは。
いくら強くても、結局16歳の女子ということか。
仕方がない、俺は一個上としての余裕をもって……もって……。


「誰か助けてくれエエエッ!!」


もてねぇよ馬鹿野郎。
もてるわけねぇだろ馬鹿野郎。
こちとら、現在地把握のためのアイテムはほぼほぼ持ってねぇんだよ。


「はぁぁぁ地図もねぇ!コンパスねぇ!道も看板もなんにもねぇ!飯もねぇ!水もねぇ!おんなじ場所をループする!俺、こんな森嫌だアアアッ!!!アアアアアッ!!」


大絶叫をかましてみても、エルの反応は何一つとして感じ取れない。
シカトかよ、病んだ。

仕方がないのでその場に座っていると、にわかに辺りがざわつき始めた。
肌がピリつくような感覚……これが殺気を感じている、と言うことか?
まぁ、ぼっちでこんな森に放り出されたら誰だってそうもなるか。


「なんなんだよクソがっ!アァッ!?やるんならやってやんぞゴルァッ!」


虚勢をはってイキり倒していると、前から森男らしきものが三体ほど現れる。
そして俺の後ろからはハエトリくんと、それよりもいくらか大きく、深紅の4枚に割れた花弁に無数の牙を生やしたモンスター、マンイーターが現れた。
それも、複数体だ。


「よーしよし、うん、よく分かった。アレだろ?俺のことが美味しそうに見えたんだろ?……んー、分かる分かる。育ち盛りの男の子だもんな、うん。美味しいかもしれん」


これ以上近寄ってこないでくれ、と願いながら手をかざして制止させようとするが、植物ごときにそれが伝わるわけもなく、少しずつ距離を詰めてくる。


「気持ちは分かるけど、俺はまだ死にたくねぇんだよ!テメェらが死ね!」


剣を抜いて、構えて、一番近づいて来ていた森男一体をおもいっきり蹴飛ばす。
そしてひっくり返っている間にもう一体を蹴飛ばし、残ったヤツを火竜斬によって切り伏せる。
俺の能力では、一振分を維持するのが精一杯なので、森男は後回しにしてハエトリくん達を狙う。


「もうちょっとかわいい花でも咲かしてみろよ!ラフレシアよりも要らねぇよ、テメェらの花束なんか!『ウィンドスラッシュ』!」


そう唱えて手をかざすと、そこから風の刃が飛び出し、最前の位置にいたマンイーターの花弁を一枚切り飛ばす。
そして直撃の衝撃で少々仰け反った隙に、残った花弁の中程を剣の斬り上げによってまとめて落としてみる。
これで殺せないまでも、脅威度は一気に下がったハズだ。


「チィェエエストォォォッ!」


更に追撃していこう。
ちんたらした動きで近づいて来ていたハエトリくんの頭を二つほど切断し、討伐する。
そして側方から接近していたマンイーターに今度は火の玉をぶつけ、怯んだところでその首を斬り落とす。

自分でも信じられないくらい魔法を使い、動き回り、善戦している気もするが……正直クッッッソしんどい。
両手両足はもうプルっプルだし、スタミナ切れて倒れそうだし、もうやだ、逃げたい。
そんな状況でもモンスターのおかわりを連れてくる辺り、神様とやらはぜってー友達いねぇ陰キャだし、エルと同じくらい性格悪そうだ。
魔王とエルを倒したら次は神様、テメェの番だ。


「元の世界では無神論者の俺だったけど、今回ばっかりは神様の存在を疑わねぇし、疑いたくねぇ……!テメェは制裁棒でケツが砕け散るまでぶっ叩いてやるッ……!」


俺は死にたくない気持ちと神様への怒りを原動力に、襲いかかってくるモンスターを次から次へと狩り続けていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

あなたを、守りたかった

かぜかおる
ファンタジー
アンジェリカは公爵家の娘、隣国の第二王子ローランドと結婚して、この国の王妃になる予定である。 今、公爵家では結婚直前の披露パーティーが行われていた。 しかし、婚約者のローランドが迎えにこない! ひとまずパーティー会場に一人で向かうもののそこにいたのは・・・ スカッとザマァではない 4話目の最後らへんで微グロ注意。

「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう

天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。 侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。 その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。 ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。

転生少女は欲深い

白波ハクア
ファンタジー
 南條鏡は死んだ。母親には捨てられ、父親からは虐待を受け、誰の助けも受けられずに呆気なく死んだ。  ──欲しかった。幸せな家庭、元気な体、お金、食料、力、何もかもが欲しかった。  鏡は死ぬ直前にそれを望み、脳内に謎の声が響いた。 【異界渡りを開始します】  何の因果か二度目の人生を手に入れた鏡は、意外とすぐに順応してしまう。  次こそは己の幸せを掴むため、己のスキルを駆使して剣と魔法の異世界を放浪する。そんな少女の物語。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

【完結】実家に捨てられた私は侯爵邸に拾われ、使用人としてのんびりとスローライフを満喫しています〜なお、実家はどんどん崩壊しているようです〜

よどら文鳥
恋愛
 フィアラの父は、再婚してから新たな妻と子供だけの生活を望んでいたため、フィアラは邪魔者だった。  フィアラは毎日毎日、家事だけではなく父の仕事までも強制的にやらされる毎日である。  だがフィアラが十四歳になったとある日、長く奴隷生活を続けていたデジョレーン子爵邸から抹消される運命になる。  侯爵がフィアラを除名したうえで専属使用人として雇いたいという申し出があったからだ。  金銭面で余裕のないデジョレーン子爵にとってはこのうえない案件であったため、フィアラはゴミのように捨てられた。  父の発言では『侯爵一家は非常に悪名高く、さらに過酷な日々になるだろう』と宣言していたため、フィアラは不安なまま侯爵邸へ向かう。  だが侯爵邸で待っていたのは過酷な毎日ではなくむしろ……。  いっぽう、フィアラのいなくなった子爵邸では大金が入ってきて全員が大喜び。  さっそくこの大金を手にして新たな使用人を雇う。  お金にも困らずのびのびとした生活ができるかと思っていたのだが、現実は……。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

私ですか?

庭にハニワ
ファンタジー
うわ。 本当にやらかしたよ、あのボンクラ公子。 長年積み上げた婚約者の絆、なんてモノはひとっかけらもなかったようだ。 良く知らんけど。 この婚約、破棄するってコトは……貴族階級は騒ぎになるな。 それによって迷惑被るのは私なんだが。 あ、申し遅れました。 私、今婚約破棄された令嬢の影武者です。

処理中です...