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サヨナラ現世、オハヨウ異世界

詳しい説明は省くが、とりあえず逃げろ

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「ごめんなさいってぇ。少し言いすぎましたから、病まないでください。一家を率いる長男がそんな体たらくで情けなくないんですか?」


「次男です。家督とか要りません。お兄ちゃんにあげます。あ、遺産は分けてね」


「元気そうで何よりです」


いきなり言葉の刃でフルボッコにされた俺は、しばらく体操座りをしていた。
ああ、空はこんなに青いのに……どうして俺はこんな目に……。


「落ち着いて説明もしたいので、とりあえず街まで行きましょう!ここから左にまっすぐ進めば、そのうち街につきますから!さぁ、走って走って!」


なんにも分かってない俺でも一つ分かるのは、案内人のこの……なんだ、女神?天使?……もう付き人でいいか。
この付き人の性格が大変よろしくなく、謎のテンションに振り回される未来しかないと言うことだ。


「起きたばっかで走りたくねぇよ、裸足だし」


「ええー?でものんびり歩いてると、死んじゃいますよ?」


「走っても死ぬだろ。足の裏切って、破傷風になって」


「発症するまで体が持てばいいですけどねー。とりあえず希望的観測は、後ろを見てから口にしてもらえますか?」


内心クソうざいと思いながら振り返ると、そこには黒くて大きな塊がいた。
俺のよく知るそれよりもずっと大きいそれは、じっと俺を見つめていた。
せめて見つめるならエルにしろ。


「……うん、なるほど。俺は間近で見たことがあるぞ。登別かどっかでたくさん飼われていてな。アレは可愛かった。ところで知ってるか?死んだフリって自殺みたいなもんなんだってよ!」


「そうですか。トリビア込みの思い出話を今して死ぬか、今度にして生き延びるか、選んでもらえます?」


「先伸ばし一択☆」


「わぁ、ウインクへったくそ」


俺は一目散に逃げ出した。
後ろから聞こえてくる恐ろしい獣の声は、死が近くにあることを自覚させる。


「おいエルッ!あのクマ、追い払えるような魔法とか能力とかないのか!?」


「クマくらい私にかかれば余裕です。でもやはりここは、ユーマくんの力で何とかしてもらわないと!」


足を傷だらけにしながら走る俺のとなりを、エルはスイーッ……と宙に浮いた状態で並走している。
その能力で俺も運べや。


「アレは魔熊グリズエビル、ワンパンで高さ10mの巨木をへし折ります。でもユーマくんなら平気ですよね?」


「ふざけんなっ!?一般的な高校生は普通のツキノワグマのパンチでも死ねるわ!あんな3mはあるようなクマに殴られて即死しないわけねぇだろ!」


「でもユーマくんの体育の成績ならなんとか……」


「3だ、3!大して良くも悪くもねぇよ!」


「3とか……ウケる」


「もうほんと死ねよこの女」


幸運にも、グリズエビルとかいうヒグマカスタムみたいなクマはそれほど足が早くない。
ヒグマからは絶対に逃げ切れないとは良く言うが、こいつはそうとも限らないらしい。


「あの子、縄張りから追い出したかっただけみたいですね。そろそろ追いかけてこなくなりますよ!」


「なんでっ……分かるっ……!?」


「あなたよりは知能指数が高いので!ユーマくん、知能指数まで3とか言わないですよね?」


「100くらいならあるわァッ!」


この女に大声で言い返しながらよく走り続けられると自分でも驚きだが、そのおかげでなんとかクマの追跡を振りきれたようだ。
もう二度とクマなんか見たくない。
登別とか絶対行かない。


「よく頑張りましたね、ユーマくん!さぁ、あそこに見えるのが記念すべき最初の街ですよ!」


きっとエルは、今だけは本心で誉めたのだろう、そんな気がした。
そして彼女の指差した先には、街と言うほど栄えてはいない、だが落ち着いた生活が送れそうな村があった。
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