2 / 9
一人目、慈悲深き国王
しおりを挟む
その王は、愛する家族を守らんと立ちはだかる。
鎧も兜も身に付けず、それでも震えながら剣を向けている。
兵は滅んだ。
民も燃えた。
それでもこの王は、恐らく死の瞬間までこうなんだろう。
「随分お優しいんですね、マカルフ三世。さすが、家無き子、親無き子を何百人も救っただけのことはありますね。……まぁ、全員生きたまま燃やしてしまったんですけど」
漆黒の聖女は笑みを浮かべ、剣の切っ先を向けていた。
「な、なぜこのような……!以前は君も同じだったではないか!弱き者を慈しみ、どう救おうかと共に……共に私と――」
「黙れッ!!所詮、アンタのは偽善でしかないのよ。生きたまま燃やされていたワタシ達は、あなたから見て弱き者ではなかったの?抵抗も出来ず、弁明も出来ず、祈ることしか許されないままに燃やされた、あの時の私達は……きっと、あの子達よりもずっと弱かったはずよ?」
怒りに歪み、大地が揺れんばかりの怒声を吐き出す。
そしてまた、歪んだ笑みを彼女は浮かべた。
「……同じ苦しみで済むだなんて、思わないでくださいね?この偽善大王!!」
そう吠えた瞬間、王の後ろに居た王の家族達の体が宙に浮く。
そして半壊した城の瓦礫が次々に集まり、まるで十字架のような形状となり、それに家族達が叩き付けられた。
そして――
「あ゛あ゛ああっ!!」
「あぐぅぅっ……!」
上は二十歳、下は九歳の三男二女の兄弟、そして王妃。
王を除いた六人の男女が、いびつな十字架にはりつけにされていく。
鋭いガラスや瓦礫で、その四肢を貫かれて。
「や、やめてくれ!なぜ私ではないんだ!?なぜ無関係な家族を巻き込むんだ!?なぜ国民を……なぜ、なぜなんだ!?」
「それはこちらが聞くことです、マカルフ三世。ワタシ達を燃やしたのはなぜですか?慈悲深いはずのあなたが、なんの反論もせずに見ていただけだったのは……ワタシとしてはショックでしたが」
痛い、痛い、そう泣き叫びながら深紅の雫を垂れ流す子供達。
その悲鳴は、王の心をかき乱していった。
「私だって……そうはしたくなかった……!だ、だが……君達の存在が驚異になり得る……いや、驚異になったと聞かされたとき、どうしても私は……私は……!」
彼なりに苦悩したのだろう。
愛すべき家族、国民、それらと志を共にした乙女を含む、救世主達を天秤にかけねばならなかったのだ。
もちろん、これを拒めば各国からの反感、および制裁は免れなかったであろう。
そして彼は、国交と国民、家族をとったのだ。
「許してくれなどとは言わない。言わないが……あんまりではないか!?君も共に遊んだではないか!この子達と共に……本当に楽しそうに……」
「だからなんですか?そんな古い話をされたところで、あなたに焼き殺された私には、もうなにも関係ない!」
彼女が杖を一振すると、末弟の体が業火に包まれ、子供とは思えないほど激しい絶叫が響きわたった。
「あ、あぁぁぁ……っ!やめろ!やめてくれ!」
「やめて欲しくば、止めてごらんなさい!その未熟な、他人任せが精一杯の剣術で!魔法で!ワタシの憎悪を止めて見せろ!一度は燃やせたのでしょう?なら、もう一度燃やしてごらんなさい!」
涙を流しながら、怒声と共に王は剣を振り上げ、突進する。
そんな王の、そんな父の下腹部を、剣が振り下ろされるよりも先に彼女は刺し貫く。
「急所は外しました。勇者一行の思いの追体験、心行くまでお楽しみください、国王サマ」
恐ろしい笑みを向けると、杖をもう一振する。
すると、全身の焼け焦げた筋組織がむき出しになった末弟の業火が消え、長女が燃え盛りはじめた。
「お望みどおり、火は消しました。まぁ、もう死んじゃってますけどね?……くっくく、あっはははははっ!」
怒りのままに、憎悪のままに、彼女は思い描いた通りの復讐を繰り返す。
そして、家族全員が生焼けの遺体に変貌させられたとき、王は既に正気を保てなくなっていた。
「あなたは殺しませんよ、あえて。そのまま、惨めに生き続けて……一番迷惑がられるタイミングで死ねばいいんじゃないですか?」
苦々しげに彼女が見つめていた王は、もう人としての思考を残していなかった。
眼は見開き、ヨダレはだらだらと垂れ流し、大小便すら無秩序に溢れ出している。
刺し貫いた傷はあえて回復させた、少しでも長く苦しめられるようにと。
もはや人でなくなった肉に用は無しと言わんばかりの彼女は、その場を去っていく。
「家族?国民?何を守るためであろうと、ワタシには関係無い。……無いのよ、もう」
この日、もっとも弱者に優しかった国が滅びた。
彼女の復活から一週間、彼女の国内への侵入からたった五時間、そんな短い期間での出来事だった。
鎧も兜も身に付けず、それでも震えながら剣を向けている。
兵は滅んだ。
民も燃えた。
それでもこの王は、恐らく死の瞬間までこうなんだろう。
「随分お優しいんですね、マカルフ三世。さすが、家無き子、親無き子を何百人も救っただけのことはありますね。……まぁ、全員生きたまま燃やしてしまったんですけど」
漆黒の聖女は笑みを浮かべ、剣の切っ先を向けていた。
「な、なぜこのような……!以前は君も同じだったではないか!弱き者を慈しみ、どう救おうかと共に……共に私と――」
「黙れッ!!所詮、アンタのは偽善でしかないのよ。生きたまま燃やされていたワタシ達は、あなたから見て弱き者ではなかったの?抵抗も出来ず、弁明も出来ず、祈ることしか許されないままに燃やされた、あの時の私達は……きっと、あの子達よりもずっと弱かったはずよ?」
怒りに歪み、大地が揺れんばかりの怒声を吐き出す。
そしてまた、歪んだ笑みを彼女は浮かべた。
「……同じ苦しみで済むだなんて、思わないでくださいね?この偽善大王!!」
そう吠えた瞬間、王の後ろに居た王の家族達の体が宙に浮く。
そして半壊した城の瓦礫が次々に集まり、まるで十字架のような形状となり、それに家族達が叩き付けられた。
そして――
「あ゛あ゛ああっ!!」
「あぐぅぅっ……!」
上は二十歳、下は九歳の三男二女の兄弟、そして王妃。
王を除いた六人の男女が、いびつな十字架にはりつけにされていく。
鋭いガラスや瓦礫で、その四肢を貫かれて。
「や、やめてくれ!なぜ私ではないんだ!?なぜ無関係な家族を巻き込むんだ!?なぜ国民を……なぜ、なぜなんだ!?」
「それはこちらが聞くことです、マカルフ三世。ワタシ達を燃やしたのはなぜですか?慈悲深いはずのあなたが、なんの反論もせずに見ていただけだったのは……ワタシとしてはショックでしたが」
痛い、痛い、そう泣き叫びながら深紅の雫を垂れ流す子供達。
その悲鳴は、王の心をかき乱していった。
「私だって……そうはしたくなかった……!だ、だが……君達の存在が驚異になり得る……いや、驚異になったと聞かされたとき、どうしても私は……私は……!」
彼なりに苦悩したのだろう。
愛すべき家族、国民、それらと志を共にした乙女を含む、救世主達を天秤にかけねばならなかったのだ。
もちろん、これを拒めば各国からの反感、および制裁は免れなかったであろう。
そして彼は、国交と国民、家族をとったのだ。
「許してくれなどとは言わない。言わないが……あんまりではないか!?君も共に遊んだではないか!この子達と共に……本当に楽しそうに……」
「だからなんですか?そんな古い話をされたところで、あなたに焼き殺された私には、もうなにも関係ない!」
彼女が杖を一振すると、末弟の体が業火に包まれ、子供とは思えないほど激しい絶叫が響きわたった。
「あ、あぁぁぁ……っ!やめろ!やめてくれ!」
「やめて欲しくば、止めてごらんなさい!その未熟な、他人任せが精一杯の剣術で!魔法で!ワタシの憎悪を止めて見せろ!一度は燃やせたのでしょう?なら、もう一度燃やしてごらんなさい!」
涙を流しながら、怒声と共に王は剣を振り上げ、突進する。
そんな王の、そんな父の下腹部を、剣が振り下ろされるよりも先に彼女は刺し貫く。
「急所は外しました。勇者一行の思いの追体験、心行くまでお楽しみください、国王サマ」
恐ろしい笑みを向けると、杖をもう一振する。
すると、全身の焼け焦げた筋組織がむき出しになった末弟の業火が消え、長女が燃え盛りはじめた。
「お望みどおり、火は消しました。まぁ、もう死んじゃってますけどね?……くっくく、あっはははははっ!」
怒りのままに、憎悪のままに、彼女は思い描いた通りの復讐を繰り返す。
そして、家族全員が生焼けの遺体に変貌させられたとき、王は既に正気を保てなくなっていた。
「あなたは殺しませんよ、あえて。そのまま、惨めに生き続けて……一番迷惑がられるタイミングで死ねばいいんじゃないですか?」
苦々しげに彼女が見つめていた王は、もう人としての思考を残していなかった。
眼は見開き、ヨダレはだらだらと垂れ流し、大小便すら無秩序に溢れ出している。
刺し貫いた傷はあえて回復させた、少しでも長く苦しめられるようにと。
もはや人でなくなった肉に用は無しと言わんばかりの彼女は、その場を去っていく。
「家族?国民?何を守るためであろうと、ワタシには関係無い。……無いのよ、もう」
この日、もっとも弱者に優しかった国が滅びた。
彼女の復活から一週間、彼女の国内への侵入からたった五時間、そんな短い期間での出来事だった。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>
ラララキヲ
ファンタジー
フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。
それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。
彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。
そしてフライアルド聖国の歴史は動く。
『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……
神「プンスコ(`3´)」
!!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!!
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇ちょっと【恋愛】もあるよ!
◇なろうにも上げてます。
【完結】慈愛の聖女様は、告げました。
BBやっこ
ファンタジー
1.契約を自分勝手に曲げた王子の誓いは、どうなるのでしょう?
2.非道を働いた者たちへ告げる聖女の言葉は?
3.私は誓い、祈りましょう。
ずっと修行を教えを受けたままに、慈愛を持って。
しかし。、誰のためのものなのでしょう?戸惑いも悲しみも成長の糧に。
後に、慈愛の聖女と言われる少女の羽化の時。
【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました
土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。
神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。
追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。
居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。
小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。
【完結】どうやら魔森に捨てられていた忌子は聖女だったようです
山葵
ファンタジー
昔、双子は不吉と言われ後に産まれた者は捨てられたり、殺されたり、こっそりと里子に出されていた。
今は、その考えも消えつつある。
けれど貴族の中には昔の迷信に捕らわれ、未だに双子は家系を滅ぼす忌子と信じる者もいる。
今年、ダーウィン侯爵家に双子が産まれた。
ダーウィン侯爵家は迷信を信じ、後から産まれたばかりの子を馭者に指示し魔森へと捨てた。
最強幼女のお助け道中〜聖女ですが、自己強化の秘法の副作用で幼女化してしまいました。神器破城槌を振り回しながら、もふもふと一緒に旅を続けます〜
黄舞
ファンタジー
勇者パーティの支援職だった私は、自己を超々強化する秘法と言われた魔法を使い、幼女になってしまった。
そんな私の姿を見て、パーティメンバーが決めたのは……
「アリシアちゃん。いい子だからお留守番しててね」
見た目は幼女でも、最強の肉体を手に入れた私は、付いてくるなと言われた手前、こっそりひっそりと陰から元仲間を支援することに決めた。
戦神の愛用していたという神器破城槌を振り回し、神の乗り物だと言うもふもふ神獣と旅を続ける珍道中!
主人公は元は立派な大人ですが、心も体も知能も子供です
基本的にコメディ色が強いです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる