Dark Night Princess

べるんご

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揺らいだ世界のその先へ

私はいつの間に経産婦となったのか

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 私はつい最近まで、自分が経産婦であることを知らなかった。
私の家庭には、夫が居るだけの筈だったのだ。

 違和感があったのは、部屋の掃除をしていた時のこと。
入ってはいけない、そんな気がして何ヵ月も入っていなかった部屋に、足を踏み入れたときのことだ。
そこは、明らかに子供、それも娘が居たかのような装飾が施され、手にした覚えの無い学習用具やアルバムまでそこにはあった。

 私は、アルバムを覗いてみた。
それは一見、なんの変哲もない卒業アルバムだったが、よく見ると違和感だらけだ。
不自然に空いた空間に、肩を組むように手を伸ばしている女の子。
不自然に空間を開けて撮影されている集合写真。
一人一人の顔写真がある筈なのに、なぜか名前もなければ顔もない、真っ青な背景だけの写真。
私は、不気味さを感じてそれを閉じた。


「あぁっ……!?」


 その時、私の頭の中で、何かが思い出されようとした。
しかし、それを拒むかのように激痛が私を襲う。

 私は病院で精密検査を受けた。
そこで私は知ったのだ、

 私は自分が産んだ筈の子供を探したが、どこにもそれを示す情報が残っていない。
見付けたのは、全てが白紙になっている母子手帳くらいのものか。
夫は何も知らなかった、産んだ筈の私が知らないのだから当然だろう。


「あなたは誰なの?あなたは……どこにいるの?」


 私は悩みに悩んで、ついに精神に異常を来してしまうようになった。
夫は献身的に私を支えてくれたが、子供に関しての私の苦悩が終わることはなかった。

 その内、私は幻聴や幻覚が見えるようになった。
初めて聞く筈なのに、何故か聞き覚えのある声が。
初めて見る筈なのに、何故か見覚えのある姿が。


「お母さん。私、お母さんに会いたいよ」


 知らないのに知っている不思議な少女は、遂には私を異国にまで導いた。
声はまだ聴こえてくる、姿が脳裏をちらついている。
人でごった返している観光地で、私はなんの希望も持たずにその少女を探し始めた。
私の娘であろう、その少女を。
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