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揺らいだ世界のその先へ
リフレッシュ休暇にて
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少しずつ寒さが落ち着いてきたこの季節、三人は快気祝いということで旅行を楽しんでいた。
普段よりも遠く離れたとある街、そこは日本人の観光客も多く訪れる名所となっている。
その他にも多くの国籍、人種の人々が詰めかけており、どこも祭りのような賑わいだ。
「迷子にはならないよう、気を付けてね」
「分かってるよそれくらい!……でも、初めてだね。こっちの国の、大きな街に来るなんて」
三人で楽しむことは何度もあったが、先日まで過ごしていた日本の都市とそれほど変わらない規模の北欧の街は初めての体験だ。
それまでの街ほど伝統を重んじている訳ではないが、それでも新鮮さの溢れる街を彼女は楽しんでいる。
日が沈んでも変わらず喧騒に包まれたこの街は、クラリスが北欧で初めて暮らした街でもある。
持ち主の居ない屋敷を勝手に利用していたらしいが、今では正当な手続きを進めた人間が住んでいるようだ。
「……やっぱり、懐かしいとか感じるの?」
窓から見える子供の姿を眺めながら、ルナは問う。
「そうねぇ……。百年近く前の話だから、多少は感じるわ。でも来ようと思えばいつでも来られるから、時間の割には薄いかも」
外に出てきた屋敷の使用人が、鋭い目付きで三人を睨む。
揉め事の気配を感じ、三人は逃げるように立ち去った。
「ねぇ、クラリス……。私、まだ食事とかは……無理かな?」
クラリスのように、人間と変わらない生活を送れるようになるのが彼女の目標だ。
身を守れる程度には力を付けたいと言うのもあるが、一番彼女が憧れているのはやはり前者だろう。
「……まだ無理よ。ほぼ間違いなく」
しかし、クラリスの返答はその可能性を否定する。
それもそうであろう、まだ一人から少量頂いただけなのだから。
「まだまだ全然足らないわ。強くなっていたとして精々、口にする前より5%増しってとこね」
がっくりとした様子のルナ様子の背を、クラリスはポンポンと叩き、気にするなと慰める。
「……あれ、ご覧なさい。面白いパフォーマンスをしているわ」
指し示された先に居たのは、ピエロの格好をした人物だ。
玉に乗りながら器用にジャグリングをこなしたり、片手で逆立ちしてみたり、玉から飛び上がって落下しながらジャグリングをするなど、多様な技術を見せてくれる。
この人物はよほど鍛練にその身を費やしたのだろう。
一つ一つの技を成功させる度に受ける拍手は、ピエロ化粧の向こう側の表情を緩めていく。
「すっごーい……。ねぇねぇねぇ!クラリスも出来たりするの!?」
「え?……確かに、私は長生きしてる方だけど……流石にあんな芸当は無理よ。学んでないもの」
あれほどの技量を持つまでにどれ程の訓練を重ねたのだろう。
その努力が如何程のものなのかを考えていた時、ルナの目にもう一人、注視すべき者の姿が映った。
「っ……」
「……ルナ様?どうかされましたか?」
突然押し黙り、ピエロではない別の一点を見つめ始めた彼女は、わなわなと震えながら小さく、呟いた。
尋常ではないその様子に、二人は明らかに警戒し始める。
「お母さんが……あそこに、居ます」
二人が驚き、ピエロの周囲にその姿を探す。
確かにピエロのすぐ近くに、中年のアジア人女性が立っており、ピエロのショーをどこか寂しげな笑顔で見つめていた。
他にアジア人の姿はなく、ルナの見付けた母親らしき人物は間違いなくその女性だろう
「見間違い……ではないのね?」
ルナは大きく首を振る。
「間違う筈が無いよ……。だって自分の、お母さんだよ?ずっと……ずっと、会いたかったんだよ……?」
それは残酷な再会であった。
記憶があるのは自分だけ、何故母親がここに居るのかは分からないが、彼女に自分の母親であるという記憶は無いのだから。
普段よりも遠く離れたとある街、そこは日本人の観光客も多く訪れる名所となっている。
その他にも多くの国籍、人種の人々が詰めかけており、どこも祭りのような賑わいだ。
「迷子にはならないよう、気を付けてね」
「分かってるよそれくらい!……でも、初めてだね。こっちの国の、大きな街に来るなんて」
三人で楽しむことは何度もあったが、先日まで過ごしていた日本の都市とそれほど変わらない規模の北欧の街は初めての体験だ。
それまでの街ほど伝統を重んじている訳ではないが、それでも新鮮さの溢れる街を彼女は楽しんでいる。
日が沈んでも変わらず喧騒に包まれたこの街は、クラリスが北欧で初めて暮らした街でもある。
持ち主の居ない屋敷を勝手に利用していたらしいが、今では正当な手続きを進めた人間が住んでいるようだ。
「……やっぱり、懐かしいとか感じるの?」
窓から見える子供の姿を眺めながら、ルナは問う。
「そうねぇ……。百年近く前の話だから、多少は感じるわ。でも来ようと思えばいつでも来られるから、時間の割には薄いかも」
外に出てきた屋敷の使用人が、鋭い目付きで三人を睨む。
揉め事の気配を感じ、三人は逃げるように立ち去った。
「ねぇ、クラリス……。私、まだ食事とかは……無理かな?」
クラリスのように、人間と変わらない生活を送れるようになるのが彼女の目標だ。
身を守れる程度には力を付けたいと言うのもあるが、一番彼女が憧れているのはやはり前者だろう。
「……まだ無理よ。ほぼ間違いなく」
しかし、クラリスの返答はその可能性を否定する。
それもそうであろう、まだ一人から少量頂いただけなのだから。
「まだまだ全然足らないわ。強くなっていたとして精々、口にする前より5%増しってとこね」
がっくりとした様子のルナ様子の背を、クラリスはポンポンと叩き、気にするなと慰める。
「……あれ、ご覧なさい。面白いパフォーマンスをしているわ」
指し示された先に居たのは、ピエロの格好をした人物だ。
玉に乗りながら器用にジャグリングをこなしたり、片手で逆立ちしてみたり、玉から飛び上がって落下しながらジャグリングをするなど、多様な技術を見せてくれる。
この人物はよほど鍛練にその身を費やしたのだろう。
一つ一つの技を成功させる度に受ける拍手は、ピエロ化粧の向こう側の表情を緩めていく。
「すっごーい……。ねぇねぇねぇ!クラリスも出来たりするの!?」
「え?……確かに、私は長生きしてる方だけど……流石にあんな芸当は無理よ。学んでないもの」
あれほどの技量を持つまでにどれ程の訓練を重ねたのだろう。
その努力が如何程のものなのかを考えていた時、ルナの目にもう一人、注視すべき者の姿が映った。
「っ……」
「……ルナ様?どうかされましたか?」
突然押し黙り、ピエロではない別の一点を見つめ始めた彼女は、わなわなと震えながら小さく、呟いた。
尋常ではないその様子に、二人は明らかに警戒し始める。
「お母さんが……あそこに、居ます」
二人が驚き、ピエロの周囲にその姿を探す。
確かにピエロのすぐ近くに、中年のアジア人女性が立っており、ピエロのショーをどこか寂しげな笑顔で見つめていた。
他にアジア人の姿はなく、ルナの見付けた母親らしき人物は間違いなくその女性だろう
「見間違い……ではないのね?」
ルナは大きく首を振る。
「間違う筈が無いよ……。だって自分の、お母さんだよ?ずっと……ずっと、会いたかったんだよ……?」
それは残酷な再会であった。
記憶があるのは自分だけ、何故母親がここに居るのかは分からないが、彼女に自分の母親であるという記憶は無いのだから。
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