40 / 58
あの日の陰と少女の歩み
終わらない贖罪
しおりを挟む
「それから、今に至るわけです。争いごと大好きとも言える性格に少しだけ変わられましたが、概ね変わらず今日まで来ましたな」
「そんな過去があったんですね……クラリスには」
傍らで過去の話をされていることなど知らず、すやすやとクラリスは眠っている。
外見年齢相応の、愛らしさすら感じさせる顔だ。
彼女は少しでも多くの命を救うために、無数の悪鬼羅刹を狩り続けていたのだろう。
そして、ルナのような窮地に陥った者を直接蘇生させるのも、初めてではないのだろう。
ムーンライト海運などの設立も、行き場を失った者たちへの救済であり、かつて大量に散らした命への贖罪だったのだ、
「……ルナ様には、ミラ様の面影があるのです。クラリス様は否定されるでしょうが、どうしてもミラ様を思い出してしまうのでしょう。ただし、あなたへ向けられた感じた思いは、かつての誰かなどではなく、間違いなくあなたへ向けられたもの。ミラ様の代用品としてではなく、替えなど利かぬ友人として、あなたを大切に考えておられることは、誤解しないでいただきたい」
ルナはクラリスをじっと見つめる。
ずっと知りたかった彼女の過去の一ページ、それがこれほどまでに重く、苦しいものだとは思っていなかった。
想像を絶する辛さを味わったであろう彼女の思うと、ルナの胸も痛み出し、涙がこぼれる。
「……今日は随分とお喋りね、オーギュスト」
クラリスは悪戯な微笑みを浮かべ、薄目を開ける。
優しくルナの手を握り返すことを、忘れずに。
「確かに、ルナにあの子の面影を見ることはあるわ。でもオーギュストの言う通り、私がルナを大切に思っていることに、あの子は関係ない。……未だに終わらない、贖罪すらもね」
ゆっくりと上体を起こし、優しくルナの頭を撫でる。
「眠っていても分かったわ。あなたが、ずっと付きっきりで傍にいてくれたこと。……ありがとう、ルナ」
そう言葉にすると、クラリスはルナの額にそっと、唇を触れさせた。
ルナは突然の口づけに顔を紅く染める間もなく、クラリスをぎゅっと抱きしめる。
そしてその胸を涙で僅かばかり濡らしたあと、静かに寝息を立て始めた。
「……どうしちゃったの、この子」
「それだけ、愛されているということでございます。邪魔者は消えますので、お二人でゆっくりお休みください」
今度はオーギュストが悪戯な笑みを浮かべ、その場から立ち去った。
その数分後に彼が部屋を覗き込むと、穏やかな寝顔の少女が二人、仲良く同じベッドで眠っていた。
「……どうですか、今のクラリス様は?」
呟くように、彼は問う。
傍らで眠る二人を見守るミラは、嬉しそうに笑っていた。
「そんな過去があったんですね……クラリスには」
傍らで過去の話をされていることなど知らず、すやすやとクラリスは眠っている。
外見年齢相応の、愛らしさすら感じさせる顔だ。
彼女は少しでも多くの命を救うために、無数の悪鬼羅刹を狩り続けていたのだろう。
そして、ルナのような窮地に陥った者を直接蘇生させるのも、初めてではないのだろう。
ムーンライト海運などの設立も、行き場を失った者たちへの救済であり、かつて大量に散らした命への贖罪だったのだ、
「……ルナ様には、ミラ様の面影があるのです。クラリス様は否定されるでしょうが、どうしてもミラ様を思い出してしまうのでしょう。ただし、あなたへ向けられた感じた思いは、かつての誰かなどではなく、間違いなくあなたへ向けられたもの。ミラ様の代用品としてではなく、替えなど利かぬ友人として、あなたを大切に考えておられることは、誤解しないでいただきたい」
ルナはクラリスをじっと見つめる。
ずっと知りたかった彼女の過去の一ページ、それがこれほどまでに重く、苦しいものだとは思っていなかった。
想像を絶する辛さを味わったであろう彼女の思うと、ルナの胸も痛み出し、涙がこぼれる。
「……今日は随分とお喋りね、オーギュスト」
クラリスは悪戯な微笑みを浮かべ、薄目を開ける。
優しくルナの手を握り返すことを、忘れずに。
「確かに、ルナにあの子の面影を見ることはあるわ。でもオーギュストの言う通り、私がルナを大切に思っていることに、あの子は関係ない。……未だに終わらない、贖罪すらもね」
ゆっくりと上体を起こし、優しくルナの頭を撫でる。
「眠っていても分かったわ。あなたが、ずっと付きっきりで傍にいてくれたこと。……ありがとう、ルナ」
そう言葉にすると、クラリスはルナの額にそっと、唇を触れさせた。
ルナは突然の口づけに顔を紅く染める間もなく、クラリスをぎゅっと抱きしめる。
そしてその胸を涙で僅かばかり濡らしたあと、静かに寝息を立て始めた。
「……どうしちゃったの、この子」
「それだけ、愛されているということでございます。邪魔者は消えますので、お二人でゆっくりお休みください」
今度はオーギュストが悪戯な笑みを浮かべ、その場から立ち去った。
その数分後に彼が部屋を覗き込むと、穏やかな寝顔の少女が二人、仲良く同じベッドで眠っていた。
「……どうですか、今のクラリス様は?」
呟くように、彼は問う。
傍らで眠る二人を見守るミラは、嬉しそうに笑っていた。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
機織姫
ワルシャワ
ホラー
栃木県日光市にある鬼怒沼にある伝説にこんな話がありました。そこで、とある美しい姫が現れてカタンコトンと音を鳴らす。声をかけるとその姫は一変し沼の中へ誘うという恐ろしい話。一人の少年もまた誘われそうになり、どうにか命からがら助かったというが。その話はもはや忘れ去られてしまうほど時を超えた現代で起きた怖いお話。はじまりはじまり
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
怪物どもが蠢く島
湖城マコト
ホラー
大学生の綿上黎一は謎の組織に拉致され、絶海の孤島でのデスゲームに参加させられる。
クリア条件は至ってシンプル。この島で二十四時間生き残ることのみ。しかしこの島には、組織が放った大量のゾンビが蠢いていた。
黎一ら十七名の参加者は果たして、このデスゲームをクリアすることが出来るのか?
次第に明らかになっていく参加者達の秘密。この島で蠢く怪物は、決してゾンビだけではない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる