Dark Night Princess

べるんご

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異形の街

揺られる旅路

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 ルナは今、ゴトリゴトリと揺れる中型トラックのコンテナで、どうして自分がこうなっているのかについて考えていた。
恐らく、外は夕暮れ時だろうか。
密閉されたコンテナの中は、彼女の目の前で固定された小さなランプの明かりだけが灯っていた。

 最初に思い出されるのは、どこか楽しげなクラリスとオーギュストの顔だ。
目覚めたばかりの彼女に、クラリスは開口一番にこう言った。


「小旅行の時間よ、ルナ。さぁ、早く準備なさい」


 その言葉に、自分がなんと返答したのかはまるで覚えていない。
きっと、随分と間の抜けた声で返答していたのだろう。
寝ぼけてふわふわの頭をどうにかこうにか動かして着替え、髪の毛を整え、軽く化粧もしたのだが、寝ぼけ眼で覗いた鏡の中にいた自分は、果たしてまともな格好だったのかすら今一つ思い出せない。
その時の時刻は、おぼろげではあるが日の出前であっただろうか。
まだ眠っているであろう時間に叩き起こされ、言われるがままに乗り込んだコンテナの中で、彼女は何度か眠りそうになったが、その度に大きく揺れ、中途半端な覚醒状態に引き戻された。

 目覚めて数時間後の車内、流石の彼女もすっかり覚醒し、朝食として渡された輸血パックを一つ、消費した。
クラリスとオーギュストの姿は見えないが、渡された無線機を通じて会話をすることは十分に可能で、寂しさは無い。


「クラリスさーん。私は一体、どこに拉致られてるんですかー?」


 ルナの質問に、クラリスは小さく笑った後に答える。


「北欧のとある町よ。私も名前は忘れたけど、街並みが綺麗だったことは覚えているわ。今のあなたにはちょうどいい旅行じゃないかしら」


「旅行……というよりも、軽く拉致監禁なんですけど……」


「つべこべ言わないの!特別な観光地ってわけでもないけど、初めて見る風景でしょうし、拉致られたことにきっとあなたは感謝するはずよ!」


 いつにもまして、クラリスの声は明るく、愉しそうだ。
口では拉致だ監禁だと言っているルナも、本心ではとても楽しみにしている。
海外に飛び出したことのないルナの胸の中は、まだ見ぬ街への期待が募っていた。


「あと二十分ほどで到着します。その後は夜になるのを待ち、頃合いを見て釈放と行きましょう」


「私は護送中の囚人さんなんですかー?」


「ええ、その様なものでございます」


 トラックを運転するオーギュストは、きっと悪戯な微笑みを浮かべているのだろう。
そして、その隣のクラリスはそのやり取りを笑って聞いているのだろう。
知り合って間もないが、二人がルナに対してずっと接しているためか、旧知の仲のようになっていた。


「そういえば、クラリスは日に当たっても大丈夫なの?助手席って、モロに日光が当たるんじゃ……」


 暇を持て余しているルナは、思いついた疑問を口にする。
吸血鬼なのはクラリスも同じ、吸血鬼ではないオーギュストならばともかく、本来であればクラリスも瞬時に発火し、灰燼に帰すのが道理であろう。


「すでになんとなく分かってると思うけど、私たちは長く生き……多く奪うことで、強くなる。そしてその強さは、日の光を浴びても死なない程度にもなりうるってところよ」


「私は……そうなれる?」


 ルナの二つ目の問いに、クラリスはどう答えようかと思案する。
彼女がどのような吸血鬼になるかはまだクラリスにも分からないが、その穏やかで争いを好まず、とても他者を傷つけられないであろう性情は知っている。
そんな彼女に、自身と同じ能力を得させようとするのは酷なことであると、クラリスは知っている。


「……そう簡単にはなれないわ。とても厳しい道には違いないし。あなたの場合はまず、血液を美味しいと言えるようになるところから始めましょう?」


「えぇ……?美味しくはないでしょ、あれ……」


「お子様舌では、まだまだ分からないかしら」


「お子様じゃなくても美味しくないもん……」


 しばしの歓談の後、トラックは目的地に到着、酷かった振動が静かになる。
それから更に約三十分後、ついにルナは外へと足を踏み出した。
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