8 / 58
異形の街
揺られる旅路
しおりを挟む
ルナは今、ゴトリゴトリと揺れる中型トラックのコンテナで、どうして自分がこうなっているのかについて考えていた。
恐らく、外は夕暮れ時だろうか。
密閉されたコンテナの中は、彼女の目の前で固定された小さなランプの明かりだけが灯っていた。
最初に思い出されるのは、どこか楽しげなクラリスとオーギュストの顔だ。
目覚めたばかりの彼女に、クラリスは開口一番にこう言った。
「小旅行の時間よ、ルナ。さぁ、早く準備なさい」
その言葉に、自分がなんと返答したのかはまるで覚えていない。
きっと、随分と間の抜けた声で返答していたのだろう。
寝ぼけてふわふわの頭をどうにかこうにか動かして着替え、髪の毛を整え、軽く化粧もしたのだが、寝ぼけ眼で覗いた鏡の中にいた自分は、果たしてまともな格好だったのかすら今一つ思い出せない。
その時の時刻は、おぼろげではあるが日の出前であっただろうか。
まだ眠っているであろう時間に叩き起こされ、言われるがままに乗り込んだコンテナの中で、彼女は何度か眠りそうになったが、その度に大きく揺れ、中途半端な覚醒状態に引き戻された。
目覚めて数時間後の車内、流石の彼女もすっかり覚醒し、朝食として渡された輸血パックを一つ、消費した。
クラリスとオーギュストの姿は見えないが、渡された無線機を通じて会話をすることは十分に可能で、寂しさは無い。
「クラリスさーん。私は一体、どこに拉致られてるんですかー?」
ルナの質問に、クラリスは小さく笑った後に答える。
「北欧のとある町よ。私も名前は忘れたけど、街並みが綺麗だったことは覚えているわ。今のあなたにはちょうどいい旅行じゃないかしら」
「旅行……というよりも、軽く拉致監禁なんですけど……」
「つべこべ言わないの!特別な観光地ってわけでもないけど、初めて見る風景でしょうし、拉致られたことにきっとあなたは感謝するはずよ!」
いつにもまして、クラリスの声は明るく、愉しそうだ。
口では拉致だ監禁だと言っているルナも、本心ではとても楽しみにしている。
海外に飛び出したことのないルナの胸の中は、まだ見ぬ街への期待が募っていた。
「あと二十分ほどで到着します。その後は夜になるのを待ち、頃合いを見て釈放と行きましょう」
「私は護送中の囚人さんなんですかー?」
「ええ、その様なものでございます」
トラックを運転するオーギュストは、きっと悪戯な微笑みを浮かべているのだろう。
そして、その隣のクラリスはそのやり取りを笑って聞いているのだろう。
知り合って間もないが、二人がルナに対してずっと接しているためか、旧知の仲のようになっていた。
「そういえば、クラリスは日に当たっても大丈夫なの?助手席って、モロに日光が当たるんじゃ……」
暇を持て余しているルナは、思いついた疑問を口にする。
吸血鬼なのはクラリスも同じ、吸血鬼ではないオーギュストならばともかく、本来であればクラリスも瞬時に発火し、灰燼に帰すのが道理であろう。
「すでになんとなく分かってると思うけど、私たちは長く生き……多く奪うことで、強くなる。そしてその強さは、日の光を浴びても死なない程度にもなりうるってところよ」
「私は……そうなれる?」
ルナの二つ目の問いに、クラリスはどう答えようかと思案する。
彼女がどのような吸血鬼になるかはまだクラリスにも分からないが、その穏やかで争いを好まず、とても他者を傷つけられないであろう性情は知っている。
そんな彼女に、自身と同じ能力を得させようとするのは酷なことであると、クラリスは知っている。
「……そう簡単にはなれないわ。とても厳しい道には違いないし。あなたの場合はまず、血液を美味しいと言えるようになるところから始めましょう?」
「えぇ……?美味しくはないでしょ、あれ……」
「お子様舌では、まだまだ分からないかしら」
「お子様じゃなくても美味しくないもん……」
しばしの歓談の後、トラックは目的地に到着、酷かった振動が静かになる。
それから更に約三十分後、ついにルナは外へと足を踏み出した。
恐らく、外は夕暮れ時だろうか。
密閉されたコンテナの中は、彼女の目の前で固定された小さなランプの明かりだけが灯っていた。
最初に思い出されるのは、どこか楽しげなクラリスとオーギュストの顔だ。
目覚めたばかりの彼女に、クラリスは開口一番にこう言った。
「小旅行の時間よ、ルナ。さぁ、早く準備なさい」
その言葉に、自分がなんと返答したのかはまるで覚えていない。
きっと、随分と間の抜けた声で返答していたのだろう。
寝ぼけてふわふわの頭をどうにかこうにか動かして着替え、髪の毛を整え、軽く化粧もしたのだが、寝ぼけ眼で覗いた鏡の中にいた自分は、果たしてまともな格好だったのかすら今一つ思い出せない。
その時の時刻は、おぼろげではあるが日の出前であっただろうか。
まだ眠っているであろう時間に叩き起こされ、言われるがままに乗り込んだコンテナの中で、彼女は何度か眠りそうになったが、その度に大きく揺れ、中途半端な覚醒状態に引き戻された。
目覚めて数時間後の車内、流石の彼女もすっかり覚醒し、朝食として渡された輸血パックを一つ、消費した。
クラリスとオーギュストの姿は見えないが、渡された無線機を通じて会話をすることは十分に可能で、寂しさは無い。
「クラリスさーん。私は一体、どこに拉致られてるんですかー?」
ルナの質問に、クラリスは小さく笑った後に答える。
「北欧のとある町よ。私も名前は忘れたけど、街並みが綺麗だったことは覚えているわ。今のあなたにはちょうどいい旅行じゃないかしら」
「旅行……というよりも、軽く拉致監禁なんですけど……」
「つべこべ言わないの!特別な観光地ってわけでもないけど、初めて見る風景でしょうし、拉致られたことにきっとあなたは感謝するはずよ!」
いつにもまして、クラリスの声は明るく、愉しそうだ。
口では拉致だ監禁だと言っているルナも、本心ではとても楽しみにしている。
海外に飛び出したことのないルナの胸の中は、まだ見ぬ街への期待が募っていた。
「あと二十分ほどで到着します。その後は夜になるのを待ち、頃合いを見て釈放と行きましょう」
「私は護送中の囚人さんなんですかー?」
「ええ、その様なものでございます」
トラックを運転するオーギュストは、きっと悪戯な微笑みを浮かべているのだろう。
そして、その隣のクラリスはそのやり取りを笑って聞いているのだろう。
知り合って間もないが、二人がルナに対してずっと接しているためか、旧知の仲のようになっていた。
「そういえば、クラリスは日に当たっても大丈夫なの?助手席って、モロに日光が当たるんじゃ……」
暇を持て余しているルナは、思いついた疑問を口にする。
吸血鬼なのはクラリスも同じ、吸血鬼ではないオーギュストならばともかく、本来であればクラリスも瞬時に発火し、灰燼に帰すのが道理であろう。
「すでになんとなく分かってると思うけど、私たちは長く生き……多く奪うことで、強くなる。そしてその強さは、日の光を浴びても死なない程度にもなりうるってところよ」
「私は……そうなれる?」
ルナの二つ目の問いに、クラリスはどう答えようかと思案する。
彼女がどのような吸血鬼になるかはまだクラリスにも分からないが、その穏やかで争いを好まず、とても他者を傷つけられないであろう性情は知っている。
そんな彼女に、自身と同じ能力を得させようとするのは酷なことであると、クラリスは知っている。
「……そう簡単にはなれないわ。とても厳しい道には違いないし。あなたの場合はまず、血液を美味しいと言えるようになるところから始めましょう?」
「えぇ……?美味しくはないでしょ、あれ……」
「お子様舌では、まだまだ分からないかしら」
「お子様じゃなくても美味しくないもん……」
しばしの歓談の後、トラックは目的地に到着、酷かった振動が静かになる。
それから更に約三十分後、ついにルナは外へと足を踏み出した。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
機織姫
ワルシャワ
ホラー
栃木県日光市にある鬼怒沼にある伝説にこんな話がありました。そこで、とある美しい姫が現れてカタンコトンと音を鳴らす。声をかけるとその姫は一変し沼の中へ誘うという恐ろしい話。一人の少年もまた誘われそうになり、どうにか命からがら助かったというが。その話はもはや忘れ去られてしまうほど時を超えた現代で起きた怖いお話。はじまりはじまり
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
怪物どもが蠢く島
湖城マコト
ホラー
大学生の綿上黎一は謎の組織に拉致され、絶海の孤島でのデスゲームに参加させられる。
クリア条件は至ってシンプル。この島で二十四時間生き残ることのみ。しかしこの島には、組織が放った大量のゾンビが蠢いていた。
黎一ら十七名の参加者は果たして、このデスゲームをクリアすることが出来るのか?
次第に明らかになっていく参加者達の秘密。この島で蠢く怪物は、決してゾンビだけではない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる