Dark Night Princess

べるんご

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闇夜の世界

死は明日か、今日か

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  あの男の襲撃の後、二人は速やかに城へと帰還し、ルナの寝室でしばらく黙ったままであった。


「……あの人、なんだったんですか?」


  俯いたまま、ルナが問う。
よほど恐ろしかったのか、その体は小刻みに震えている。


「悪霊に取り憑かれた結果、連続殺人犯になった男……ってとこね」


  クラリスは簡潔にまとめて答える。
あの男とは顔見知りでもなんでもなく、クラリスにとっても予想外の遭遇ではあったが、彼女にとっては驚異と呼ぶには些か弱すぎたらしく、殺してしまったことに対してすらどうとも思っていないようだ。


「……よく、来るんですか?……あんな人が」


「何ヵ月かに一回は……」


「平気、なんですか……?」


「五百年も生きていれば、大体のことは平気なものよ」


  単純な質問と回答がしばらく続いた後、また二人は言葉を交わさなくなり、時間が過ぎる。
せっかくの外出が台無しにされてしまったためか、ルナの精神的な苦痛はクラリスが思うよりも大きかった。


「……私達みたいなのはね、必ずしもそうではないけれど、お互いを殺し合い、食い合うことも珍しくないのよ」


  クラリスは淡々と、言葉を続けていく。


「人間を捨て、怪異になった以上、あなたにも必ず訪れることよ。今は私が守ってあげられる。でも、いつまでもそうではいられない。……自分の身は守れる程度にならないと、そう長くは生きられないことを覚悟していてね」


  ルナは黙って、彼女の言葉を聞いている。


「本当は、もっと吸血鬼としての生き方に慣れてからするつもりだった話だけれど……まぁ、起きてしまったことは仕方がない」


  クラリスはルナの頭を優しく撫でる。
一度死んだ者とは思えないほどその手は暖かかった。


「また、外出したくなったら言ってちょうだい。いつでも付き合うから」


    そう声をかけた彼女は、部屋をあとにする。
そしてため息を一つつくと、うんざりしたように吐き捨てた。


「……よりにもよって今、興味本意で私の城に近付くなってのよ、底辺怪異が」


  怪異は強い、人間よりも。
だがその力のせいで己を見る目が曇り、力量を測れぬままに、そもそも相手が人か怪異かの判別もできず、彼女に返り討ちにされた怪異は何人に昇るというのだろうか。
しかしそんなことは、人間達には皆目知られぬ怪異の世界では日常茶飯事、そんな中にルナを連れてきてしまったことを、彼女は思い悩みながら闇へと消えた。
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