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第31話 悪役令嬢、問い詰められる

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「…………」

「…………」

 今、私の目の前には愛しのアリシアがいる。
 愛らしいその顔に、珍しく厳しい表情を浮かべて、じっと私を見つめている。
 これがどう言うことかと言うと、私は今彼女からお説教を受けている真っ最中だったりする。
 そして、どうして私がアリシアに叱られているのか――――――と言うと…。

「どうして、わざと周りの人に嫌われようとするみたいなこと言ったの?」

 どうやら私がここ最近、アリシアの評判を落とそうとしたり、陥れようとするような連中を、陰に表に叩いたり処分したりしていたことがアリシアにバレた…と言うか、感づかれてしまったらしい…。
 確かに、私自身嫌われ者になろうが厭わないと考えてはいたが、別に嫌われようと思って行動していたわけではないのだが…。
 恐らくアリシアを擁立した派閥の連中が、敵対する私…エリスレア派の人間たちが愚かにも仲違いをしている…とでも触れ回っている…あるいはアリシア自身に余計なことを吹き込んだのだろう。
 どう言った経路でアリシアがそれを聞いてしまったのか、聞かされたのか…はたまた彼女が自分で思い至ったのかはわからないが、とにかく彼女はこの日、もの凄い剣幕で私のところにやって来て、開口一番にお説教?を始めてしまったと言うわけだ。
 そして私はこの状況にとてもとても困っていて──────────――――、 否、それはそれとして滅茶苦茶…!とてもとても嬉しくなってしまった……!!!
 …だって!!そうでしょう?アリシアが!あの心優しいが!!!私の為に…私だけの為に!!こんなに怒ってくれているなんて…!!
 勿論、心苦しさはある。優しい心を傷つけてしまったという罪悪感もある。
…けれど…!けれども!!!
 それを補ってあまりある嬉しい気持ちが沸き上がってきてしまって、怒られていると言うのに、顔が緩みそうになってしまう。

「エリスがお城の人に意地悪をしたり、自分が気に入らないからって仕事を止めさせたりしているなんて陰口を聞いたの…」

 エリスがそんなこと絶対にする訳ないのに…と、アリシアは悔しそうな顔をする。
 確かに、別に意味のない意地悪をして回ったわけではないのだけど、彼らからしたら理不尽な待遇を受けてひどい目に遭った…と言うのは事実だろうから、アリシアが全面的に自分に非がないと信じてくれていることには、なんだか嘘をついているようで胸がチクリと痛んだ。
 それに、全部アリシアの為にやったことだ…と彼女が知ってしまうのはさすがに避けたい。
 そこに彼女が気が付いていないのはまだ幸いだと思った。
 自分のためだ、なんて思ったら余計気に病んでしまうかも知れないから…。

「アリシア、落ち着いて下さいな」

 …とは言え、怒り心頭でプリプリし続けているアリシアをいつまでもこのままにしておくわけにもいかない。
 彼女が自分の為に怒ってくれるのが嬉しい^^なんて呑気なことをいつまでも言っている訳にはいかないことは自分が一番わかっているのだ。

「落ち着いてなんて居られないよ!友達が悪く言われてるんだもの!」

「まぁまぁ―…ちなみに一体誰がそんなことをおっしゃっていましたの?」

「それは―…」

 つい問いかけてしまったが、特に名前を聞き出したいわけではなかったので、アリシアがその問いに答えるより先に、自分自身で次の言葉を続けてしまう。

「―――――いえ、そんなことは良いのですけれど、それでどうして、アリシアは、わたくしが、"わざと周りの人間に嫌われるようなことを言った"と思ったんですの?」

「え?」

「だって、今の話だと、わたくしが城の人間に酷いことをしたとか言ったという噂を聞いただけなのですわよね?」

「う、うん… そうだけど…」

「それに対して、わたくしはそんなことしないって信じてくれているのに、どうしてそんな風な結論になったのかしら?って思ったのですわ」

 私の問いに、アリシアは一瞬何を言われたのかわからないような顔できょとんとして、それから「あ」って少しびっくりしたような顔を浮かべた。

「あ…。ううん。ごめんなさい。確かに私、滅茶苦茶だったね…。」

 恥ずかしそうに両頬を手で押さえてもじもじする姿はとても愛らしい。

「えっと、エリスがそんなことする訳ないって思ったんだけど、きっとそういう噂が出たなら、何かエリスに逆恨みをしている人がいるんじゃないかって思ったの。
 …でも、エリスは頭が良いし、誰にでも配慮が出来る人だもの。そんな風に思われてしまうのなら…きっと、エリスは何か目的があって"わざと"そんな風にしたんじゃないかなって…」

 そんな風に躊躇いがちに言葉を紡ぐアリシア。
 誰よりも優しくて正義感が強い―…だけじゃない。
 やっぱりアリシアは勘が鋭い子なのだと思う。(もしくは私に対して理解が有り過ぎるのかもしれない………)
 私は思わずギクリとしてしまう。
 本音は気が付かれていない、と思っていたけれど、本当は何もかも見透かされているのかも…なんて気までしてくる。

「……だから、理由はきっとあるんだろうけど、エリスが…わざと誰かに嫌われるようなことをしたなら、そんなことしないで欲しいって私、思っちゃって」

「………心配をかけてしまいましたのね」

「…だって、エリスが困ってることがあるなら、私だって力になりたいよ?」

「…ええ、頼りにしてますわよ」

「…ほんとかな?」

「本当ですわよ」

「……じゃあ、どうして周りの人に嫌われるようなことしたのか、教えてくれる?」

「…………」

「……………なんで黙るの?」

「わたくし、わざと他人に嫌われるようなことなんてしてませんもの」

「え、えええ!!?」

 この流れで断られる?誤魔化される?とは思わなかったのだろう。
アリシアは驚いた様子で非難の声を上げる。

「エーリースーーーぅぅぅぅ!!」

 私を信じてくれていること
 私の為に怒ってくれること
 私の為に悩んでくれること

 本当に本当に嬉しくて、
 私だって、貴女の為なら何でも出来るのよって伝えたくなってしまうのだけど…
 さすがにこれを教えてあげる訳にはいかないから、

 今は意地悪な笑顔だけを彼女に向けて、彼女が普段はあまり見せない…私だけに見せてくれる可愛らしい膨れっ面を、目いっぱい堪能することにするのだった。
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