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第19話 悪役令嬢、如何わしい夢を見る
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アリシアと恋バナめいた話をしたりしたからだろうか?
それとも(自分では認めたくないけれど)欲求不満と言うものなのだろうか?
あれから数日が過ぎたある日のこと、私は人には言えないような夢を見た。
私は大きなベッドの上に居て、そこにはもう一人・顔の見えない男性が居る。
顔の良く見えないその人は、私をベッドに優しく押し倒すと、私の手の甲や髪、耳、額、目元、頬、首筋と、何度も何度も優しい口付けを落として行く。私はされるがままにその唇を受け入れる。
彼の唇が肌に触れる度、その唇から漏れる吐息が肌をくすぐって、私は思わず声を零してしまう。私はそれがとても恥ずかしくって、慌てて自分の口を押さえるけれど、彼の大きな手がそれを邪魔するように私の手首を掴んで、そのままベッドに押しつけてしまう。
大きな手が私の片手を押さえつけたまま、もう片方の手が私の服にかけられ、一つずつボタンを外していく。ボタンが幾つか外された後、そのままするりと布がずりおろされる音と感触がして、自分の肌が空気に晒されたのがわかった。
私はとにかく恥ずかしくて、でも何故か抵抗することも、相手の顔を見ることも出来なくて、ただ、されるがまま―――――。
「…そ、それ以上は行けませんわーーーーーーー!!!!!!?」
飛び起きた私はそう叫んでいて、丁度私を起こしにきていたらしいメイドのマリエッタがびっくりして目を白黒させている。
「お、お嬢様…?」
「…ハッ…………ゆ、夢………?」
私は慌てて自分が服を着ていることを確認し、思わずホッとする。
「…寝ぼけてらっしゃるんです?」
マリエッタがそんな風に恐る恐る声をかけてくるその様子に自分の日常を感じて、先ほどまでの夢が夢であることを再確認した。
「…そ、そうね…。ちょっとおかしな夢を見てしまったのですわ」
「お嬢様でもそんなことがあるんですねぇ。どんな夢を見たんです?」
マリエッタは私の着替えを用意しながら、興味深そうに問いかけてくる。
「…どんなって」
その言葉に、私も先ほど見た夢をつい思い返してしまう。
相手の顔は思い出せないのに、自分に触れた大きな手や唇の、妙に生々しい感触を思い出してしまって、物凄い羞恥心と罪悪感が襲い掛かってくる。
「…な、なんでもありませんわ…」
「えぇ????教えてくれてもいいじゃないですかぁ」
「なんでもないって言ってるでしょう!」
「ひぃっ、ごめんなさいーーー!!!!!」
そんな風についマリエッタを追い払ってしまったので、私は珍しく彼女の手伝いなしで自分の着替えをすることになったのだが、また少しだけ安堵していた。
あんな夢を見てしまった後だから、誰かに衣服を脱がされたりすると何となく夢のことを思い出してしまい、変な気分になってしまう気がしたからだ。
ただの夢であれば段々と忘れてしまうだろうと深く考えないようにしていたのだけれど、その如何わしい夢はいつまでも忘れることが出来なかった。
それどころかそれから3日ほど連続して見てしまった…。
いつも途中で私が我に帰ってギャー!!!と飛び起きることで夢は中断される為、最後の最後まで致してしまうということこそなかったが、あまりにも叫びながら飛び起きてくる為、少なくともマリエッタを初めとする私付きのメイドたちは「お嬢さまがおかしくなった…」みたいに心配し始めているようだ…。
相変わらず相手の顔が良く見えないのも不可解だった。
知り合い相手なら、現実でより気まずくはなるけれど、夢なんだから適当な相手が配役されてても別にいいだろうに…。
と言うより、どうせイチャイチャするならアリシアが―…いや、いかんいかん。そうじゃなくて…。
ともあれ、一日だけならともかく3日間もちょっと(?)えっちな夢を見続けてしまうのはさすがに異常だと判断した私は、これは何か外部的な要因があるに違いないと考えその調査を行うことにした。
…26歳の波佐間悠子はともかくとして、エリスレアの方はそんな欲求不満になるような歳でもないはずだ。
そんな訳で私が相談相手として頼ったのは、城にある医務室だ。
そこには普段から常駐している医師と看護師が居り、その医師の方は「悠チェリ」の攻略対象の一人であり、看護師の方はその補佐役として登場したNPCの女性だ。
当然この二人とも、アリシア登場前からちょっかいは出していたので、それなりに親しくはなっている。
さすがに今回の件は男性には話しにくいので、この看護師キャラの方に相談しに行こう…と思ったのだ。
「御機嫌よう、マーニャ」
「あら…?…エリスレア様御機嫌よう。何処か調子が悪いところでも?」
私が医務室を訪れた時、運よく医務室には女性…看護師のマーニャ一人だけだった。
「…そう言う訳ではないのだけど、今日はちょっと相談したいことがありましたの」
「…? 珍しいですね。…でもごめんなさいね。先生、今席を外していて…」
「それは構いませんわ。どちらかと言うとマーニャだけの方が都合が良いですし」
素直にそう言ってしまえるくらいには、私は彼女を信頼しているし、彼女もそれに答えてくれていると思う。
「…? 私で良ければ勿論構わないけれど」
マーニャは大人の女性といった落ち着いた雰囲気を崩さないまま、椅子を引いて「どうぞ?」と私に座るように促す。
私はそれに素直に従って腰かけながら、対面の椅子に腰を下ろすマーニャの姿を眺めていた。
彼女の名前は"マーニャ・トルテア"。城の医務室で働く医師アスファレスの補佐役の看護師をしている女性だ。
"悠久のチェリーブロッサム"は乙女ゲーム故、攻略対象となるのは男性キャラのみだったので、彼女はさほど目立たないモブキャラの一人だったが、クールで頼りになる姉御肌の彼女は、PLにも密かに人気があった。
「…ちょっと話しにくいことなのですけれど、最近夢見が悪くって…」
「夢見、ですか?」
「ええ、それで良く眠れない…と言うか、寝てはいるはずなのですが、あまり眠れている気がしないと言いますか…」
「なるほど。…それで、どんな夢を見たのかは覚えていますか?」
「…え、ええ。…まぁ…」
「話しにくいことでしたら、話せる部分だけでも構いませんよ」
所詮夢だと一蹴したりせず、親身になってくれる姿勢がありがたい。
「…その、男性とわたくしが、こう…触れ合っている夢と言いますか」
「触れ合う、ですか」
「ベタベタするといいますか、えぇと…」
「……つまり、男性と性交渉をする夢と言う事でしょうか?」
「…うっ……ま、まぁ…そ、そういう感じですわね」
「なるほど…」
彼女の表情は変わらない。内容が内容だけにやはりこちらも気まずいので、馬鹿にされたりからかわれたりしないで済むのは有難い。
年頃だからそういうことにも興味がありますよね~なんて鼻で笑われたら、死にたくなってしまうかも知れない。
この世界にインターネットが存在するのなら、黙って検索して調べるのだけど、残念ながらこの世界にそういったものはないので、本で調べるか、知っていそうな人を頼るしかないのである。
「…そうですね。もしかしたら」
マーニャはそこで一度言葉を区切り、自分の口元に手を当てて考えるような間を置いた。
単なる欲求不満ですよ!とか言われるのも嫌だが、妙な病気だったりしても嫌だ。
マーニャの様子が至極真剣なことが、私の不安を強く煽った。
しかし、神妙な顔で話し出した彼女の言葉の続きを、祈るような気持ちで待っていた私に告げられたのは、私が全く想像していないものだった。
「夢魔に取り憑かれて居るのかも知れません」
それとも(自分では認めたくないけれど)欲求不満と言うものなのだろうか?
あれから数日が過ぎたある日のこと、私は人には言えないような夢を見た。
私は大きなベッドの上に居て、そこにはもう一人・顔の見えない男性が居る。
顔の良く見えないその人は、私をベッドに優しく押し倒すと、私の手の甲や髪、耳、額、目元、頬、首筋と、何度も何度も優しい口付けを落として行く。私はされるがままにその唇を受け入れる。
彼の唇が肌に触れる度、その唇から漏れる吐息が肌をくすぐって、私は思わず声を零してしまう。私はそれがとても恥ずかしくって、慌てて自分の口を押さえるけれど、彼の大きな手がそれを邪魔するように私の手首を掴んで、そのままベッドに押しつけてしまう。
大きな手が私の片手を押さえつけたまま、もう片方の手が私の服にかけられ、一つずつボタンを外していく。ボタンが幾つか外された後、そのままするりと布がずりおろされる音と感触がして、自分の肌が空気に晒されたのがわかった。
私はとにかく恥ずかしくて、でも何故か抵抗することも、相手の顔を見ることも出来なくて、ただ、されるがまま―――――。
「…そ、それ以上は行けませんわーーーーーーー!!!!!!?」
飛び起きた私はそう叫んでいて、丁度私を起こしにきていたらしいメイドのマリエッタがびっくりして目を白黒させている。
「お、お嬢様…?」
「…ハッ…………ゆ、夢………?」
私は慌てて自分が服を着ていることを確認し、思わずホッとする。
「…寝ぼけてらっしゃるんです?」
マリエッタがそんな風に恐る恐る声をかけてくるその様子に自分の日常を感じて、先ほどまでの夢が夢であることを再確認した。
「…そ、そうね…。ちょっとおかしな夢を見てしまったのですわ」
「お嬢様でもそんなことがあるんですねぇ。どんな夢を見たんです?」
マリエッタは私の着替えを用意しながら、興味深そうに問いかけてくる。
「…どんなって」
その言葉に、私も先ほど見た夢をつい思い返してしまう。
相手の顔は思い出せないのに、自分に触れた大きな手や唇の、妙に生々しい感触を思い出してしまって、物凄い羞恥心と罪悪感が襲い掛かってくる。
「…な、なんでもありませんわ…」
「えぇ????教えてくれてもいいじゃないですかぁ」
「なんでもないって言ってるでしょう!」
「ひぃっ、ごめんなさいーーー!!!!!」
そんな風についマリエッタを追い払ってしまったので、私は珍しく彼女の手伝いなしで自分の着替えをすることになったのだが、また少しだけ安堵していた。
あんな夢を見てしまった後だから、誰かに衣服を脱がされたりすると何となく夢のことを思い出してしまい、変な気分になってしまう気がしたからだ。
ただの夢であれば段々と忘れてしまうだろうと深く考えないようにしていたのだけれど、その如何わしい夢はいつまでも忘れることが出来なかった。
それどころかそれから3日ほど連続して見てしまった…。
いつも途中で私が我に帰ってギャー!!!と飛び起きることで夢は中断される為、最後の最後まで致してしまうということこそなかったが、あまりにも叫びながら飛び起きてくる為、少なくともマリエッタを初めとする私付きのメイドたちは「お嬢さまがおかしくなった…」みたいに心配し始めているようだ…。
相変わらず相手の顔が良く見えないのも不可解だった。
知り合い相手なら、現実でより気まずくはなるけれど、夢なんだから適当な相手が配役されてても別にいいだろうに…。
と言うより、どうせイチャイチャするならアリシアが―…いや、いかんいかん。そうじゃなくて…。
ともあれ、一日だけならともかく3日間もちょっと(?)えっちな夢を見続けてしまうのはさすがに異常だと判断した私は、これは何か外部的な要因があるに違いないと考えその調査を行うことにした。
…26歳の波佐間悠子はともかくとして、エリスレアの方はそんな欲求不満になるような歳でもないはずだ。
そんな訳で私が相談相手として頼ったのは、城にある医務室だ。
そこには普段から常駐している医師と看護師が居り、その医師の方は「悠チェリ」の攻略対象の一人であり、看護師の方はその補佐役として登場したNPCの女性だ。
当然この二人とも、アリシア登場前からちょっかいは出していたので、それなりに親しくはなっている。
さすがに今回の件は男性には話しにくいので、この看護師キャラの方に相談しに行こう…と思ったのだ。
「御機嫌よう、マーニャ」
「あら…?…エリスレア様御機嫌よう。何処か調子が悪いところでも?」
私が医務室を訪れた時、運よく医務室には女性…看護師のマーニャ一人だけだった。
「…そう言う訳ではないのだけど、今日はちょっと相談したいことがありましたの」
「…? 珍しいですね。…でもごめんなさいね。先生、今席を外していて…」
「それは構いませんわ。どちらかと言うとマーニャだけの方が都合が良いですし」
素直にそう言ってしまえるくらいには、私は彼女を信頼しているし、彼女もそれに答えてくれていると思う。
「…? 私で良ければ勿論構わないけれど」
マーニャは大人の女性といった落ち着いた雰囲気を崩さないまま、椅子を引いて「どうぞ?」と私に座るように促す。
私はそれに素直に従って腰かけながら、対面の椅子に腰を下ろすマーニャの姿を眺めていた。
彼女の名前は"マーニャ・トルテア"。城の医務室で働く医師アスファレスの補佐役の看護師をしている女性だ。
"悠久のチェリーブロッサム"は乙女ゲーム故、攻略対象となるのは男性キャラのみだったので、彼女はさほど目立たないモブキャラの一人だったが、クールで頼りになる姉御肌の彼女は、PLにも密かに人気があった。
「…ちょっと話しにくいことなのですけれど、最近夢見が悪くって…」
「夢見、ですか?」
「ええ、それで良く眠れない…と言うか、寝てはいるはずなのですが、あまり眠れている気がしないと言いますか…」
「なるほど。…それで、どんな夢を見たのかは覚えていますか?」
「…え、ええ。…まぁ…」
「話しにくいことでしたら、話せる部分だけでも構いませんよ」
所詮夢だと一蹴したりせず、親身になってくれる姿勢がありがたい。
「…その、男性とわたくしが、こう…触れ合っている夢と言いますか」
「触れ合う、ですか」
「ベタベタするといいますか、えぇと…」
「……つまり、男性と性交渉をする夢と言う事でしょうか?」
「…うっ……ま、まぁ…そ、そういう感じですわね」
「なるほど…」
彼女の表情は変わらない。内容が内容だけにやはりこちらも気まずいので、馬鹿にされたりからかわれたりしないで済むのは有難い。
年頃だからそういうことにも興味がありますよね~なんて鼻で笑われたら、死にたくなってしまうかも知れない。
この世界にインターネットが存在するのなら、黙って検索して調べるのだけど、残念ながらこの世界にそういったものはないので、本で調べるか、知っていそうな人を頼るしかないのである。
「…そうですね。もしかしたら」
マーニャはそこで一度言葉を区切り、自分の口元に手を当てて考えるような間を置いた。
単なる欲求不満ですよ!とか言われるのも嫌だが、妙な病気だったりしても嫌だ。
マーニャの様子が至極真剣なことが、私の不安を強く煽った。
しかし、神妙な顔で話し出した彼女の言葉の続きを、祈るような気持ちで待っていた私に告げられたのは、私が全く想像していないものだった。
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