5 / 33
第5話 悪役令嬢の打算と占いの館
しおりを挟む
恋愛ゲームと言うのは一人ひとりをじっくり攻略していくのならドキドキしながら恋愛を楽しむ感じが楽しいが、ハーレムルートとか複数同時攻略なんてプレイをしてしまうと、もう情緒もクソもあったものじゃない。
大事なのはパラメーターと好感度の微調整とフラグ管理となり、初見プレイではテンションを爆上げしてくれた攻略対象の頬染めグラフィックも、好感度によって変化する甘い挨拶の台詞も、現在の好感度数値を確認する為の目印に成り下がり、それはもう恋愛ではなくただの作業と化す。
別に今の私はハーレムを目指しているわけでも、王子とジェイドの同時攻略を目指しているわけでもないが、ある程度の段階まで彼らと親しくなっておかなくては…という意味では攻略をしているのと変わらない。
しかし、ゲームと違うのは考えなしに好感度を上げればいいという訳ではなくて、"ほどよい具合に"上げなくてはいけないと言う点で、むしろ難易度は上がっている気すらしている。
上げ過ぎてしまっても、足りなくても問題がある。
だからこそ、繊細な微調整を必要とするわけだが、現実ではゲームとは違って好感度を占い師に確認するわけにもいかないし…とそこまで考えてふと思い出す。
――――いや、いるのか?…占い師…。
いるのかもしれない。だって少なくともゲームにはいた。
そして、こうやって王子と従者と悪役令嬢はそろっているのだから、城下町の市場の隅に立てられた怪しいテントのその中に、銀貨一枚で攻略対象とヒロインの現在の好感度を教えてくれる占い師がいてもおかしくない。
もし占い師がいてくれるのなら、私のこれからの計画も少しは楽になるはずだ。
王子とジェイドとの好感度調整に日々気を揉んでいた私は、このアイデアに少なからず期待を抱いてワクワクしていた。
数値が分る分らないではそのくらい大きな違いがある。
しかし、このとき私は忘れていたのだ。
あの占い師のキャラクターは、個人的にヒロインであるアリシアを気に入って、だからこそ彼女に特別な占いやおまじないをしてくれることになったのだ…ということを。
そんな訳で私は、占い師を探しに、城下町に繰り出すことを決めたのだけれど、さすがに普段の華美なドレスを身につけたまま街へ行ってしまうと悪目立ちしてしまう。
だから私はメイドのマリエッタを捕まえて、彼女の私服を無理やり徴収…もとい、ちょっとだけ借りることにした。
身長も体系もそんなに変わらないし、上着を羽織ってしまえば違和感も目立つ事はないだろう。
「お、お嬢様ぁ…。私の服なんてどうしようっていうんですか!!?」
マリエッタは目をぐるぐるさせて困惑していたが、なんとか適当な嘘と笑顔で誤魔化した。
「雑巾が必要なのでしたら、ちゃんとしたのを御持ちしますからぁ…!!」とか言い出したのにはさすがに驚いてしまった。
こいつ実はちゃんと私の性格が悪いことをわかってるな?????
さすがにそんなことはしないわよ!とド突きたくなる気持ちをぐっと押さえ、苦笑を浮かべるだけにした。お嬢様ですからね。オホホホ。
「嫌だわ、マリエッタ。わたくし、普段貴女がどんな服を着て過ごしているのか興味があるだけですのよ。変なことを言うのはお止めになって…」
「え、えぇ…」
「わたくし達、貴族やお城のことだけ知っていれば良いと言うものではないでしょう?庶民や街の人達がどんな暮らしをしているのか知る事だって大事なことだと思いませんこと?」
「は、はぁ…」
私がどれだけもっともらしいことを言ってみても、マリエッタは分っているのかいないのか、ある意味で全然分らない間抜け面を浮かべるばかりだ。
私にそんな趣味はないと思っていたのだけど、エリスレアが若干彼女にキツく当たってしまっているのは、彼女の"こういう部分"のせいだと思う。
現代日本人的感覚を持っている波佐間悠子に言わせると、いじめられるのは苛められるほうにも原因があるなんていじめっ子の理論は止めろ!ということになるのだが、エリスレアとしての感情に素直になるのなら、要するに彼女は何処か「苛めたくなるタイプ」というわけである。
しかし、ここで彼女に意地悪をすることが私の目的ではない。
私の目的はこれから出会うアリシアのために、万全の状況を整えておくことだ。
さっさとマリエッタの服を回収して町へ向かわなければならない。
そう思った私は取り繕うのを放棄して、我儘で傍若無人に言い放った。
「ごちゃごちゃ言わずに貴女の服を持って来て頂戴」
「ひっ、わ、わかりましたよぅ…!?」
マリエッタはぴゅーっと子ネズミのように駆け出して行って、しばらくしてから自分の普段着を持ってきた。
さすがに貴族である私・エリスレアが着ている服とは全然違う、布も質素で色も地味な服だったが、私の中の波佐間悠子は、こういう服の方が安心する…みたいな感情を密かに抱いたのだった。
マリエッタが持って来た服の中で、私が着られそうなものをチョイスして、あとはまだオロオロソワソワしているマリエッタを部屋からさっさと追い出して準備を始めることにする。
街へ行くなんて簡単に言ってはみたけれど、貴族の令嬢であるエリスレアが一人で城下町に行くなんて、本当なら許されることではない。
だから、私はこっそりこっそりお忍びで向かうことになる。
変なトラブルに巻き込まれることなく目的を無事達成出来ることを祈りつつ、私はマリエッタの普段着に袖を通すのだった。
大事なのはパラメーターと好感度の微調整とフラグ管理となり、初見プレイではテンションを爆上げしてくれた攻略対象の頬染めグラフィックも、好感度によって変化する甘い挨拶の台詞も、現在の好感度数値を確認する為の目印に成り下がり、それはもう恋愛ではなくただの作業と化す。
別に今の私はハーレムを目指しているわけでも、王子とジェイドの同時攻略を目指しているわけでもないが、ある程度の段階まで彼らと親しくなっておかなくては…という意味では攻略をしているのと変わらない。
しかし、ゲームと違うのは考えなしに好感度を上げればいいという訳ではなくて、"ほどよい具合に"上げなくてはいけないと言う点で、むしろ難易度は上がっている気すらしている。
上げ過ぎてしまっても、足りなくても問題がある。
だからこそ、繊細な微調整を必要とするわけだが、現実ではゲームとは違って好感度を占い師に確認するわけにもいかないし…とそこまで考えてふと思い出す。
――――いや、いるのか?…占い師…。
いるのかもしれない。だって少なくともゲームにはいた。
そして、こうやって王子と従者と悪役令嬢はそろっているのだから、城下町の市場の隅に立てられた怪しいテントのその中に、銀貨一枚で攻略対象とヒロインの現在の好感度を教えてくれる占い師がいてもおかしくない。
もし占い師がいてくれるのなら、私のこれからの計画も少しは楽になるはずだ。
王子とジェイドとの好感度調整に日々気を揉んでいた私は、このアイデアに少なからず期待を抱いてワクワクしていた。
数値が分る分らないではそのくらい大きな違いがある。
しかし、このとき私は忘れていたのだ。
あの占い師のキャラクターは、個人的にヒロインであるアリシアを気に入って、だからこそ彼女に特別な占いやおまじないをしてくれることになったのだ…ということを。
そんな訳で私は、占い師を探しに、城下町に繰り出すことを決めたのだけれど、さすがに普段の華美なドレスを身につけたまま街へ行ってしまうと悪目立ちしてしまう。
だから私はメイドのマリエッタを捕まえて、彼女の私服を無理やり徴収…もとい、ちょっとだけ借りることにした。
身長も体系もそんなに変わらないし、上着を羽織ってしまえば違和感も目立つ事はないだろう。
「お、お嬢様ぁ…。私の服なんてどうしようっていうんですか!!?」
マリエッタは目をぐるぐるさせて困惑していたが、なんとか適当な嘘と笑顔で誤魔化した。
「雑巾が必要なのでしたら、ちゃんとしたのを御持ちしますからぁ…!!」とか言い出したのにはさすがに驚いてしまった。
こいつ実はちゃんと私の性格が悪いことをわかってるな?????
さすがにそんなことはしないわよ!とド突きたくなる気持ちをぐっと押さえ、苦笑を浮かべるだけにした。お嬢様ですからね。オホホホ。
「嫌だわ、マリエッタ。わたくし、普段貴女がどんな服を着て過ごしているのか興味があるだけですのよ。変なことを言うのはお止めになって…」
「え、えぇ…」
「わたくし達、貴族やお城のことだけ知っていれば良いと言うものではないでしょう?庶民や街の人達がどんな暮らしをしているのか知る事だって大事なことだと思いませんこと?」
「は、はぁ…」
私がどれだけもっともらしいことを言ってみても、マリエッタは分っているのかいないのか、ある意味で全然分らない間抜け面を浮かべるばかりだ。
私にそんな趣味はないと思っていたのだけど、エリスレアが若干彼女にキツく当たってしまっているのは、彼女の"こういう部分"のせいだと思う。
現代日本人的感覚を持っている波佐間悠子に言わせると、いじめられるのは苛められるほうにも原因があるなんていじめっ子の理論は止めろ!ということになるのだが、エリスレアとしての感情に素直になるのなら、要するに彼女は何処か「苛めたくなるタイプ」というわけである。
しかし、ここで彼女に意地悪をすることが私の目的ではない。
私の目的はこれから出会うアリシアのために、万全の状況を整えておくことだ。
さっさとマリエッタの服を回収して町へ向かわなければならない。
そう思った私は取り繕うのを放棄して、我儘で傍若無人に言い放った。
「ごちゃごちゃ言わずに貴女の服を持って来て頂戴」
「ひっ、わ、わかりましたよぅ…!?」
マリエッタはぴゅーっと子ネズミのように駆け出して行って、しばらくしてから自分の普段着を持ってきた。
さすがに貴族である私・エリスレアが着ている服とは全然違う、布も質素で色も地味な服だったが、私の中の波佐間悠子は、こういう服の方が安心する…みたいな感情を密かに抱いたのだった。
マリエッタが持って来た服の中で、私が着られそうなものをチョイスして、あとはまだオロオロソワソワしているマリエッタを部屋からさっさと追い出して準備を始めることにする。
街へ行くなんて簡単に言ってはみたけれど、貴族の令嬢であるエリスレアが一人で城下町に行くなんて、本当なら許されることではない。
だから、私はこっそりこっそりお忍びで向かうことになる。
変なトラブルに巻き込まれることなく目的を無事達成出来ることを祈りつつ、私はマリエッタの普段着に袖を通すのだった。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
そして乙女ゲームは始まらなかった
お好み焼き
恋愛
気付いたら9歳の悪役令嬢に転生してました。前世でプレイした乙女ゲームの悪役キャラです。悪役令嬢なのでなにか悪さをしないといけないのでしょうか?しかし私には誰かをいじめる趣味も性癖もありません。むしろ苦しんでいる人を見ると胸が重くなります。
一体私は何をしたらいいのでしょうか?
【R18】殿下!そこは舐めてイイところじゃありません! 〜悪役令嬢に転生したけど元潔癖症の王子に溺愛されてます〜
茅野ガク
恋愛
予想外に起きたイベントでなんとか王太子を救おうとしたら、彼に執着されることになった悪役令嬢の話。
☆他サイトにも投稿しています
乙女ゲームの悪役令嬢は生れかわる
レラン
恋愛
前世でプレーした。乙女ゲーム内に召喚転生させられた主人公。
すでに危機的状況の悪役令嬢に転生してしまい、ゲームに関わらないようにしていると、まさかのチート発覚!?
私は平穏な暮らしを求めただけだっだのに‥‥ふふふ‥‥‥チートがあるなら最大限活用してやる!!
そう意気込みのやりたい放題の、元悪役令嬢の日常。
⚠︎語彙力崩壊してます⚠︎
⚠︎誤字多発です⚠︎
⚠︎話の内容が薄っぺらです⚠︎
⚠︎ざまぁは、結構後になってしまいます⚠︎
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる