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第6話 お洒落ラーメン屋で頂く濃厚煮干しつけ麺
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先ほど食べたラーメンのことや、一緒に遊んでるゾンビゲームのこと、気になる映画のこと等話す時間はたっぷりあって、歌織と詩乃は互いに他愛のないことを話しながら、たっぷり午後のお散歩を楽しんだ。
スマホで調べてみると近場に市の博物館があると知り、二人でそこに足を運んでみたりもした。
残念ながら歌織の好きな恐竜の骨格標本なんかがあるタイプの博物館ではなかったが、昭和の集合住宅の一室を原寸で復元したと言う展示がされていて、その中を実際に入って眺められると言うのはなかなかに新鮮で素直に楽しめた。
今では『昭和レトロ』なんて言われている独特の雰囲気がぎゅっと詰まった、時代を感じさせる家具や食器の並ぶその狭い一室は、その時代の人々の生活感を感じることが出来たし、土曜だと言うのに人がそこまで多くなかったのも、快適に見て回れるので歌織にとっては嬉しいポイントだった。
そんな風に二人でのんびり昭和レトロな雰囲気をたっぷり堪能してから、そろそろ腹の具合もこなれて来たし…と言うことで、二人は改めてラーメンスタンプラリーを再開させることにした。
「んで、次のお店は笹瀬の気になるところに行こうと思うんだけど、どこが良い?」
「えーとねぇ」
博物館の手前にあるフェンスに寄りかかって缶コーヒーを飲みながら、スマホを覗く詩乃を眺める。
詩乃は相変わらず楽しそうにスマホ画面を指でスクロールさせている。
「…あ、あった! ここ!」
目当ての場所を見つけたのだろう。
詩乃がスマホの画面を歌織へと向けた。
昼とは違うタイプのラーメンを食べようと言う詩乃の提案により二人が向かったのは、昼の鶏白湯の店のあった商店街からは少し離れた、大通り沿いにある一軒家型の店舗だった。
大きな窓からは木製のテーブルがいくつか置かれていることや、貝殻をあしらった天井飾りのようなものが見える。
ラーメン屋と言うとあまり装飾品が飾られているようなイメージはなかったので、歌織は少し新鮮さを感じた。
確かにスマホの店紹介の文章に「女性やカップル客も多いです」みたいに書かれていたが、なるほどちょっと雰囲気が洒落ているじゃないか、なんて考えたりもして。
歌織がそんな風に眺めている間に詩乃はさっさとお店の方へと進んでしまっていたので、それを慌てて追いかけて、二人並んで券売機を眺める。
「かおりんはどれにする?」
「お店で一番推してるやつ」
「じゃあ、この濃厚煮干しつけ麺だね」
詩乃は券売機の左上、大きめのボタンを押す。
続く歌織も千円札を入れてから、同じボタンを押した。
「いらっしゃいませ~! そちらのテーブル席どうぞ~」
食券を買い終えると、人の良さそうな中年の女性が、丁寧に席を案内してくれたので、歌織は少しソワソワとした気持ちで椅子に腰を下ろした。
店内を軽く見回せば、テーブル席には品の良さそうな中年のご夫婦や、自分たちのような二人連れの女性が、カウンター席には学生さんくらいに見える男性がぽつりぽつりと座っている。
それぞれの人たちのあまり大声にならない様にと気を使った談笑の声が少しくすぐったい。
店内には貝殻をあしらった天井飾りの他に、星の砂やシーグラスの入った小瓶だったり、木製の大きな舵輪が飾られていて、海や船なんかをイメージしているようだ。
「昼の店は器とか盛り付けがカフェみたいだったけど、こっちはお店がお洒落な感じだねぇ」
「うん。女性客とかカップルが多いお店って書いてあったし、こういう雰囲気も受けてるのかな」
「えへへぇ。かおりんもこゆとこ好きでしょ?」
「? まぁ嫌いじゃないけど」
したり顔の詩乃をさらりと流して、歌織は席からも見えるカウンター席の向こう側のキッチンへと視線を向ける。
夫婦経営なのだろうか、ひとりだけの調理人らしいおじさんが忙しそうに動き回っている。
その間、席の案内をしてくれた中年の女性は、てきぱきと各テーブルの客にお水を提供してくれていた。
「お待たせしました。ごゆっくりどうぞ~」
そしてテーブルにやって来た待望の一杯は、濃厚煮干しつけ麺だ。
麺の入った器と、つけ汁の入った椀が、歌織と詩乃の前に用意されていく。
涼し気な青と白の青海波と言う柄の入った器に、存在感のある平打ち麺とほうれん草、味玉にチャーシューと海苔が二枚ずつ乗せられている。
大量の煮干しと鶏ガラをドロドロになるまで炊いたという説明のあったつけ汁からはほんのり白い湯気が立っており、細かく刻んだネギが浮かんだつけ汁は、その香りも相まってひどく食欲をそそられた。
「それじゃ、食べよっか。頂きます!」
「頂きまーす!」
二人で同時に箸を持つ手を合わせ、いざ実食!
通ぶる訳ではないけれど、まずは一本麺をそのまま口へと放り、そのままの麺を味わう。
(……おお、もちっとしてる……!)
弾力性のある食感には新鮮さを感じるし、小麦の旨み…とでも言うのか、ほんのり甘さを感じるのもなかなかに良いぞ……と歌織は誰に言うでもなく心のときめきを感じていた。
そして、その後はお待ちかねの本番である。
もちもちの平打ち麺を、箸で掴むと濃厚つけ汁にINしてからずるっと勢い良く啜る。
「……!」
まず口の中に広がるのは煮干しの香ばしさ。
えぐみのない出汁の良い香りだ……!
続いて感じるのは濃厚な味わい。
煮干しの濃厚さはしっかりあるのだけど、苦みが殆ど感じられず非常に爽やかでまろやかだ。
(……うわっ……、美味しっ……食べやすっ……)
煮干しの尖った部分が鶏ガラと一緒にドロドロになるまで炊かれることで中和され、とろっとろのまろやかクリーミーにされたということなのだろうか?
平打ち麺にも良く絡んで、するすると口に入ってしまう。
ほろほろのチャーシューも、しっかり味の染みた味玉もすべてが丁度良い具合で、箸が止まらない。
(煮干し……確かに煮干し……煮干しの存在を感じる……。でも、主役一人が突出し過ぎることなく、上手く周りと引き立て合って、全体を満足感の高い良い舞台にしてくれるみたいなそういう……)
歌織の頭の中で、素材たちが舞台に立って演劇を始めるみたいなイメージが踊り始めてしまっていた。
(誰か一人だけが悪立ちしても駄目なんだ……互いが互いを引き立て合っている……)
「いや、ほんとにね……ワンフォーオールなんだわ……これは一本取られたね……」
「かおりん、感想を語り合うなら、私にもわかるように説明してよぉ!?」
完全に自分の世界に入って、美味しい美味しい……と真顔でぶつぶつ言いながらつけ麺を平らげていく歌織を眺めながら、詩乃も自分の器の中身をぺろりと空にしていたのは言うまでもない。
スマホで調べてみると近場に市の博物館があると知り、二人でそこに足を運んでみたりもした。
残念ながら歌織の好きな恐竜の骨格標本なんかがあるタイプの博物館ではなかったが、昭和の集合住宅の一室を原寸で復元したと言う展示がされていて、その中を実際に入って眺められると言うのはなかなかに新鮮で素直に楽しめた。
今では『昭和レトロ』なんて言われている独特の雰囲気がぎゅっと詰まった、時代を感じさせる家具や食器の並ぶその狭い一室は、その時代の人々の生活感を感じることが出来たし、土曜だと言うのに人がそこまで多くなかったのも、快適に見て回れるので歌織にとっては嬉しいポイントだった。
そんな風に二人でのんびり昭和レトロな雰囲気をたっぷり堪能してから、そろそろ腹の具合もこなれて来たし…と言うことで、二人は改めてラーメンスタンプラリーを再開させることにした。
「んで、次のお店は笹瀬の気になるところに行こうと思うんだけど、どこが良い?」
「えーとねぇ」
博物館の手前にあるフェンスに寄りかかって缶コーヒーを飲みながら、スマホを覗く詩乃を眺める。
詩乃は相変わらず楽しそうにスマホ画面を指でスクロールさせている。
「…あ、あった! ここ!」
目当ての場所を見つけたのだろう。
詩乃がスマホの画面を歌織へと向けた。
昼とは違うタイプのラーメンを食べようと言う詩乃の提案により二人が向かったのは、昼の鶏白湯の店のあった商店街からは少し離れた、大通り沿いにある一軒家型の店舗だった。
大きな窓からは木製のテーブルがいくつか置かれていることや、貝殻をあしらった天井飾りのようなものが見える。
ラーメン屋と言うとあまり装飾品が飾られているようなイメージはなかったので、歌織は少し新鮮さを感じた。
確かにスマホの店紹介の文章に「女性やカップル客も多いです」みたいに書かれていたが、なるほどちょっと雰囲気が洒落ているじゃないか、なんて考えたりもして。
歌織がそんな風に眺めている間に詩乃はさっさとお店の方へと進んでしまっていたので、それを慌てて追いかけて、二人並んで券売機を眺める。
「かおりんはどれにする?」
「お店で一番推してるやつ」
「じゃあ、この濃厚煮干しつけ麺だね」
詩乃は券売機の左上、大きめのボタンを押す。
続く歌織も千円札を入れてから、同じボタンを押した。
「いらっしゃいませ~! そちらのテーブル席どうぞ~」
食券を買い終えると、人の良さそうな中年の女性が、丁寧に席を案内してくれたので、歌織は少しソワソワとした気持ちで椅子に腰を下ろした。
店内を軽く見回せば、テーブル席には品の良さそうな中年のご夫婦や、自分たちのような二人連れの女性が、カウンター席には学生さんくらいに見える男性がぽつりぽつりと座っている。
それぞれの人たちのあまり大声にならない様にと気を使った談笑の声が少しくすぐったい。
店内には貝殻をあしらった天井飾りの他に、星の砂やシーグラスの入った小瓶だったり、木製の大きな舵輪が飾られていて、海や船なんかをイメージしているようだ。
「昼の店は器とか盛り付けがカフェみたいだったけど、こっちはお店がお洒落な感じだねぇ」
「うん。女性客とかカップルが多いお店って書いてあったし、こういう雰囲気も受けてるのかな」
「えへへぇ。かおりんもこゆとこ好きでしょ?」
「? まぁ嫌いじゃないけど」
したり顔の詩乃をさらりと流して、歌織は席からも見えるカウンター席の向こう側のキッチンへと視線を向ける。
夫婦経営なのだろうか、ひとりだけの調理人らしいおじさんが忙しそうに動き回っている。
その間、席の案内をしてくれた中年の女性は、てきぱきと各テーブルの客にお水を提供してくれていた。
「お待たせしました。ごゆっくりどうぞ~」
そしてテーブルにやって来た待望の一杯は、濃厚煮干しつけ麺だ。
麺の入った器と、つけ汁の入った椀が、歌織と詩乃の前に用意されていく。
涼し気な青と白の青海波と言う柄の入った器に、存在感のある平打ち麺とほうれん草、味玉にチャーシューと海苔が二枚ずつ乗せられている。
大量の煮干しと鶏ガラをドロドロになるまで炊いたという説明のあったつけ汁からはほんのり白い湯気が立っており、細かく刻んだネギが浮かんだつけ汁は、その香りも相まってひどく食欲をそそられた。
「それじゃ、食べよっか。頂きます!」
「頂きまーす!」
二人で同時に箸を持つ手を合わせ、いざ実食!
通ぶる訳ではないけれど、まずは一本麺をそのまま口へと放り、そのままの麺を味わう。
(……おお、もちっとしてる……!)
弾力性のある食感には新鮮さを感じるし、小麦の旨み…とでも言うのか、ほんのり甘さを感じるのもなかなかに良いぞ……と歌織は誰に言うでもなく心のときめきを感じていた。
そして、その後はお待ちかねの本番である。
もちもちの平打ち麺を、箸で掴むと濃厚つけ汁にINしてからずるっと勢い良く啜る。
「……!」
まず口の中に広がるのは煮干しの香ばしさ。
えぐみのない出汁の良い香りだ……!
続いて感じるのは濃厚な味わい。
煮干しの濃厚さはしっかりあるのだけど、苦みが殆ど感じられず非常に爽やかでまろやかだ。
(……うわっ……、美味しっ……食べやすっ……)
煮干しの尖った部分が鶏ガラと一緒にドロドロになるまで炊かれることで中和され、とろっとろのまろやかクリーミーにされたということなのだろうか?
平打ち麺にも良く絡んで、するすると口に入ってしまう。
ほろほろのチャーシューも、しっかり味の染みた味玉もすべてが丁度良い具合で、箸が止まらない。
(煮干し……確かに煮干し……煮干しの存在を感じる……。でも、主役一人が突出し過ぎることなく、上手く周りと引き立て合って、全体を満足感の高い良い舞台にしてくれるみたいなそういう……)
歌織の頭の中で、素材たちが舞台に立って演劇を始めるみたいなイメージが踊り始めてしまっていた。
(誰か一人だけが悪立ちしても駄目なんだ……互いが互いを引き立て合っている……)
「いや、ほんとにね……ワンフォーオールなんだわ……これは一本取られたね……」
「かおりん、感想を語り合うなら、私にもわかるように説明してよぉ!?」
完全に自分の世界に入って、美味しい美味しい……と真顔でぶつぶつ言いながらつけ麺を平らげていく歌織を眺めながら、詩乃も自分の器の中身をぺろりと空にしていたのは言うまでもない。
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