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第5話 三十路女にはインターバルが必要である
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鶏白湯で舌鼓を打った二人は、そのまま駅周りの商店街をぷらぷらと歩きながら、この後の予定を話しあっていた。
「とりあえず、この駅周辺に参加店が結構集中してるみたいだから、夕飯としてもう一軒行きたいんだよね」
「ふんふん」
「だけどさすがに今はこんな状況で無理やり詰め込んでも美味しいとか美味しくないどころの話じゃないから、夕方までにまずお腹を空かせようと思うのね」
「ほ~ほ~」
「だからとりあえず歩こう……!」
「わ~~! ハチャメチャにざっくりした計画だな~!」
「仕方ないでしょ! この辺のこと知らないんだから!」
勿論個人差は大いにあるにしろ……と言うのは大前提として、成人男性、あるいはスポーツなどを嗜んでいる女性であればラーメン2杯も問題ない量であるかも知れない。
しかし少なくとも歌織と詩乃は立て続けにラーメン屋のラーメン二杯分を突っ込める胃袋の容量は所持していなかった。
だからラーメンとラーメンの間のインターバルとして、"お腹を空かせる"必要があった。
…とは言え、いくらラーメンスタンプラリーだからってそこまで無理をして一日に2軒以上回るのを目指さなくても良いのでは?と思うかも知れない。
しかし、スタンプラリーは"イベント"なのである。
イベントである以上は開催期間と言う制限時間が存在する。
歌織と詩乃が参加を決めた時には、既にもう開催期間の半分が過ぎていたこと、そして、歌織と詩乃は互いの仕事の休みの都合上、土日しか一緒に行動することが出来ない為、残りの開催期間内でスタンプラリーを完走する為にはわりとタイトなスケジュールで回らなければならなかった。
「……まぁ、かおりんは結構引きこもりだし、たまにはこうやってお外をお散歩するのも良いのかもね」
詩乃は悪びれずに笑うが、歌織は少しばかり決まりが悪そうな顔をする。
「……だって仕事がない日は家でゆっくりしたいじゃない」
「それはそうかも知れないけど、お休みじゃないと出来ないことだってあるじゃん?」
「例えば?」
「ほら、釣りとかバイクとか……。晴れてる日は気持ちいいし……」
「それは笹瀬の趣味でしょ」
「え~? 楽しいよ? ね、かおりんも一緒にやろうよ~。どっちでも良いよ! 釣り竿とかバイク、一緒に買いに行こ♥」
「釣り道具はともかく、バイクはそんな気軽に買いに行くものじゃないでしょ。お金も免許もないし」
「なら免許取ろうよ~? 一緒に行こうよ~」
「行かないって……」
詩乃は満腹過ぎて普段よりもずっと歩くのが遅い歌織よりも、大分軽やかな足取りで跳ねるように歩く。
そして時折歌織を振り返っては、機嫌良さそうに目を細める。
歌織の知る限り、詩乃と言う女は大抵いつもご機嫌で、機嫌が悪い顔なんて見たことがなかった。
貴重なお休みの日の午後を、お腹を空かせるためにひたすらお散歩するぞ!なんて酔狂に付き合わせているというのに、こんなに楽しそうにお喋りしているのだから、やっぱり変わったやつだなぁ…なんて歌織は思っていた。
この街は、歌織の家の最寄り駅からは乗り換え有りの電車で40分程度の場所にある。
詩乃の家の最寄からは乗り換え有りで1時間ほど。
二人にとっては初めて来た場所であるこの街の景色は、何処かノスタルジックな郷愁を感じさせはするが、二人にとっては当然見慣れない、新鮮なものである。
駅前には、歌織評としては"少しばかりレトロな雰囲気"の商店街が立ち並び、そこから外れると道路沿いに少し古めかしい一軒家と新しめの一軒家・賃貸アパートらしい建物が混ざり合う住宅地が広がっていく。
さらに少し歩くと何処か大学の敷地が有るらしく、大学生らしい男の子数人が談笑しながら楽しそうに商店街の方へと向かっていく姿も見られた。
(実家の近所にある商店街はとっくの昔に寂れたシャッター街になっちゃってたのに、ここは賑わってるなぁ…)
数人で横広がりになって歩き、こちらを避けようともしないガタイの良い男の子たちを、ちょっとムっとしつつ避けて歩きながら、歌織は少しばかり遠い故郷の景色を思い出していた。
自分の地元はもっと閑散としていて、ちょっとした悲哀なんてものが滲み出ていた気がする。
同じ商店街だと言うのに、こうも違う物か…なんてなんだか首を傾げてしまう。
(…いや、この街も"ああ"ならないためにこういうイベントを開催してるってことか)
今まさに"それに釣られた自分"が知らない街に来てお金を落としていると言う事実に気が付いて、一瞬前の疑問がストンと腑に落ちた。
「とりあえず、この駅周辺に参加店が結構集中してるみたいだから、夕飯としてもう一軒行きたいんだよね」
「ふんふん」
「だけどさすがに今はこんな状況で無理やり詰め込んでも美味しいとか美味しくないどころの話じゃないから、夕方までにまずお腹を空かせようと思うのね」
「ほ~ほ~」
「だからとりあえず歩こう……!」
「わ~~! ハチャメチャにざっくりした計画だな~!」
「仕方ないでしょ! この辺のこと知らないんだから!」
勿論個人差は大いにあるにしろ……と言うのは大前提として、成人男性、あるいはスポーツなどを嗜んでいる女性であればラーメン2杯も問題ない量であるかも知れない。
しかし少なくとも歌織と詩乃は立て続けにラーメン屋のラーメン二杯分を突っ込める胃袋の容量は所持していなかった。
だからラーメンとラーメンの間のインターバルとして、"お腹を空かせる"必要があった。
…とは言え、いくらラーメンスタンプラリーだからってそこまで無理をして一日に2軒以上回るのを目指さなくても良いのでは?と思うかも知れない。
しかし、スタンプラリーは"イベント"なのである。
イベントである以上は開催期間と言う制限時間が存在する。
歌織と詩乃が参加を決めた時には、既にもう開催期間の半分が過ぎていたこと、そして、歌織と詩乃は互いの仕事の休みの都合上、土日しか一緒に行動することが出来ない為、残りの開催期間内でスタンプラリーを完走する為にはわりとタイトなスケジュールで回らなければならなかった。
「……まぁ、かおりんは結構引きこもりだし、たまにはこうやってお外をお散歩するのも良いのかもね」
詩乃は悪びれずに笑うが、歌織は少しばかり決まりが悪そうな顔をする。
「……だって仕事がない日は家でゆっくりしたいじゃない」
「それはそうかも知れないけど、お休みじゃないと出来ないことだってあるじゃん?」
「例えば?」
「ほら、釣りとかバイクとか……。晴れてる日は気持ちいいし……」
「それは笹瀬の趣味でしょ」
「え~? 楽しいよ? ね、かおりんも一緒にやろうよ~。どっちでも良いよ! 釣り竿とかバイク、一緒に買いに行こ♥」
「釣り道具はともかく、バイクはそんな気軽に買いに行くものじゃないでしょ。お金も免許もないし」
「なら免許取ろうよ~? 一緒に行こうよ~」
「行かないって……」
詩乃は満腹過ぎて普段よりもずっと歩くのが遅い歌織よりも、大分軽やかな足取りで跳ねるように歩く。
そして時折歌織を振り返っては、機嫌良さそうに目を細める。
歌織の知る限り、詩乃と言う女は大抵いつもご機嫌で、機嫌が悪い顔なんて見たことがなかった。
貴重なお休みの日の午後を、お腹を空かせるためにひたすらお散歩するぞ!なんて酔狂に付き合わせているというのに、こんなに楽しそうにお喋りしているのだから、やっぱり変わったやつだなぁ…なんて歌織は思っていた。
この街は、歌織の家の最寄り駅からは乗り換え有りの電車で40分程度の場所にある。
詩乃の家の最寄からは乗り換え有りで1時間ほど。
二人にとっては初めて来た場所であるこの街の景色は、何処かノスタルジックな郷愁を感じさせはするが、二人にとっては当然見慣れない、新鮮なものである。
駅前には、歌織評としては"少しばかりレトロな雰囲気"の商店街が立ち並び、そこから外れると道路沿いに少し古めかしい一軒家と新しめの一軒家・賃貸アパートらしい建物が混ざり合う住宅地が広がっていく。
さらに少し歩くと何処か大学の敷地が有るらしく、大学生らしい男の子数人が談笑しながら楽しそうに商店街の方へと向かっていく姿も見られた。
(実家の近所にある商店街はとっくの昔に寂れたシャッター街になっちゃってたのに、ここは賑わってるなぁ…)
数人で横広がりになって歩き、こちらを避けようともしないガタイの良い男の子たちを、ちょっとムっとしつつ避けて歩きながら、歌織は少しばかり遠い故郷の景色を思い出していた。
自分の地元はもっと閑散としていて、ちょっとした悲哀なんてものが滲み出ていた気がする。
同じ商店街だと言うのに、こうも違う物か…なんてなんだか首を傾げてしまう。
(…いや、この街も"ああ"ならないためにこういうイベントを開催してるってことか)
今まさに"それに釣られた自分"が知らない街に来てお金を落としていると言う事実に気が付いて、一瞬前の疑問がストンと腑に落ちた。
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