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第1話 見知った教室
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そのざわざわと言う近くて遠い喧騒は、何処か懐かしさを感じる。
そんな風にぼんやりとした思考は、まるで糸を手繰り寄せるかのようにゆっくりと、次第にはっきりしていった。
重たい瞼を開ければ、目の前に映るのは大きな黒板と教壇。制服姿の男女の後姿。
そう、それは教室と言われる部屋だ。そして私はどうやら、生徒の一人らしい。
教室の真ん中辺りの席に座って居る私の耳には、周囲の生徒たちの雑談が聞こえてくる。
それは、もうすぐ卒業だね。とか、就職先はどことかそんな話。
その会話の内容から、私を含むこの教室にいる生徒たちが皆、高校3年生で卒業も間近であると言うことを理解する。
壁にかかったカレンダーを見れば3月。
実際に私が高校3年生だった頃は、確か2月くらいからは自由登校になって、こんな風に卒業間近になって制服で教室に集まるなんてことなかったような気がするけれど…、これが夢ならその辺りの現実との違いも「まぁこんなもんか」とも思う。
(…制服も私の行ってた学校と違うな…。見覚えはあるけど…こんな洒落たデザインの服、何処だっただろ…。私立かな…)
騒がしい教室で頬杖を付きながらお喋りをしている周りの同級生たちを眺めていると、制服に見覚えがあるだとか…、この教室の景色や、周りの人々も何となく見覚えがあるとか…確かに知っているものだと思うのに、でもこれは私の通っていた教室でも同級生でもなかったはずだ…なんて要領を得ないような、頭に靄がかかったような不確かな感覚。
「萌黄は就職だったっけ。水嶋くんと離れ離れになっちゃうの寂しくない?」
「…え?」
近くの席でお喋りしていた女生徒に唐突に話を振られ、私は素っ頓狂な声を上げてしまった。
「…?…だって萌黄、水嶋くんと付き合ってるんだよね?修学旅行でも一緒だったし、学祭だって―――――………」
彼女の言葉に、私の霧がかったようだった頭がスーッと晴れて行く感覚を覚えた。
"萌黄"と、付き合っているらしい彼氏の"水嶋くん"。それからこの会話を、私は知っている。
(………嘘でしょ……)
そして、私は気が付いてしまう。
私が通っていた訳でもない学校。着ていた訳ではない制服。実際の同級生ではないのに同級生と言うことになっている生徒たち。…これは―………。
(………昔遊んだ乙女ゲームだ、これ!)
そりゃあ何かと見覚えがあるはずだった。
当時夢中になって遊んで、全キャラ攻略までしたゲームだ。
主人公のデフォルトネームが確か萌黄だったし、水嶋と言うのは攻略キャラクターの一人だ。
卒業間近の教室でのこの会話イベントも、うろ覚えだけれど覚えている。
好きだった乙女ゲームの夢を見るなんてちょっとラッキー…ではあるんだけど…。
(卒業間近に水嶋くんと付き合ってるってクラス公認みたいになってるって会話があるのは、水嶋雪人ルート……なんだよね)
私は適当に女生徒と話を合わせながら、当時遊んだゲームの記憶を手繰り寄せる。
(…でも、水嶋くん…私の推しキャラではなかったんだよね…)
水嶋くん…。水嶋雪人は、基本的に本音を見せないミステリアスなタイプで、彼のルートは、基本的にちょっと小悪魔的に振舞う彼に主人公が翻弄されながら二人の距離が近づいて行って…と言う感じのものだった。
それ自体は別に悪くないのだが、彼のシナリオは全体を通して、思ったよりもイチャイチャするような糖度の高いイベントが少なかったりで、個人的には不完全燃焼と言うか、ちょっとモヤモヤを感じてしまったキャラだったのを覚えている。
(…とは言え、どうせ夢を見るなら推しキャラとの夢を見られたら良かったのになぁ…)
私は、そんな風に少しばかり残念に思いながらも、折角の懐かしいゲームの夢だし、どうせなら楽しんじゃおうと思ったのだった。
そんな風にぼんやりとした思考は、まるで糸を手繰り寄せるかのようにゆっくりと、次第にはっきりしていった。
重たい瞼を開ければ、目の前に映るのは大きな黒板と教壇。制服姿の男女の後姿。
そう、それは教室と言われる部屋だ。そして私はどうやら、生徒の一人らしい。
教室の真ん中辺りの席に座って居る私の耳には、周囲の生徒たちの雑談が聞こえてくる。
それは、もうすぐ卒業だね。とか、就職先はどことかそんな話。
その会話の内容から、私を含むこの教室にいる生徒たちが皆、高校3年生で卒業も間近であると言うことを理解する。
壁にかかったカレンダーを見れば3月。
実際に私が高校3年生だった頃は、確か2月くらいからは自由登校になって、こんな風に卒業間近になって制服で教室に集まるなんてことなかったような気がするけれど…、これが夢ならその辺りの現実との違いも「まぁこんなもんか」とも思う。
(…制服も私の行ってた学校と違うな…。見覚えはあるけど…こんな洒落たデザインの服、何処だっただろ…。私立かな…)
騒がしい教室で頬杖を付きながらお喋りをしている周りの同級生たちを眺めていると、制服に見覚えがあるだとか…、この教室の景色や、周りの人々も何となく見覚えがあるとか…確かに知っているものだと思うのに、でもこれは私の通っていた教室でも同級生でもなかったはずだ…なんて要領を得ないような、頭に靄がかかったような不確かな感覚。
「萌黄は就職だったっけ。水嶋くんと離れ離れになっちゃうの寂しくない?」
「…え?」
近くの席でお喋りしていた女生徒に唐突に話を振られ、私は素っ頓狂な声を上げてしまった。
「…?…だって萌黄、水嶋くんと付き合ってるんだよね?修学旅行でも一緒だったし、学祭だって―――――………」
彼女の言葉に、私の霧がかったようだった頭がスーッと晴れて行く感覚を覚えた。
"萌黄"と、付き合っているらしい彼氏の"水嶋くん"。それからこの会話を、私は知っている。
(………嘘でしょ……)
そして、私は気が付いてしまう。
私が通っていた訳でもない学校。着ていた訳ではない制服。実際の同級生ではないのに同級生と言うことになっている生徒たち。…これは―………。
(………昔遊んだ乙女ゲームだ、これ!)
そりゃあ何かと見覚えがあるはずだった。
当時夢中になって遊んで、全キャラ攻略までしたゲームだ。
主人公のデフォルトネームが確か萌黄だったし、水嶋と言うのは攻略キャラクターの一人だ。
卒業間近の教室でのこの会話イベントも、うろ覚えだけれど覚えている。
好きだった乙女ゲームの夢を見るなんてちょっとラッキー…ではあるんだけど…。
(卒業間近に水嶋くんと付き合ってるってクラス公認みたいになってるって会話があるのは、水嶋雪人ルート……なんだよね)
私は適当に女生徒と話を合わせながら、当時遊んだゲームの記憶を手繰り寄せる。
(…でも、水嶋くん…私の推しキャラではなかったんだよね…)
水嶋くん…。水嶋雪人は、基本的に本音を見せないミステリアスなタイプで、彼のルートは、基本的にちょっと小悪魔的に振舞う彼に主人公が翻弄されながら二人の距離が近づいて行って…と言う感じのものだった。
それ自体は別に悪くないのだが、彼のシナリオは全体を通して、思ったよりもイチャイチャするような糖度の高いイベントが少なかったりで、個人的には不完全燃焼と言うか、ちょっとモヤモヤを感じてしまったキャラだったのを覚えている。
(…とは言え、どうせ夢を見るなら推しキャラとの夢を見られたら良かったのになぁ…)
私は、そんな風に少しばかり残念に思いながらも、折角の懐かしいゲームの夢だし、どうせなら楽しんじゃおうと思ったのだった。
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