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嵐の前の静けさ

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バルコニーから見える
空の高さに、大地の広さに言葉もない
まだ見えぬ陽の光が、夜の帳を焦がすその様を心ゆくまで眺めたいものだ。

しかし、そうは行かない。

ここに来たばかりの頃は、すぐ疲れてしまってこれでもかと眠り続けて旦那様に大笑いされたっけ。

「まだ成長する気か?」

子供じゃないんだから。

ここで初めて過ごす冬が開ければ、私はこの地で2度目の春を迎えることになる。

少し寒くて二の腕をさする。らここら一帯でにわかに流行り始めた絢爛羽織の手触りは約3ヶ月に及ぶ職人の努力によって素晴らしいものへと変わった。

何度か作り直したそれらのほとんどは下げ渡したためもう手元にはないが、どれも素晴らしい出来だった。初めて作った一枚は、今も手元に残してある。

暗幕はほとんど溶け消えて、もうまもなく日は登るだろう。

立体的な刺繍の縫い方も。使い勝手の良い巾着の作り方も。花の模様のマフラーの編み方も。

私は外のことを知らないけれど、この城の誰よりも、針と糸の手仕事をよく知っている。

そろそろ部屋に戻らなくてはならない。
今一度と見上げた空は深く、深くそこにあった。

コンコン、侍女の、私に快く使えてくれる可愛らしいクレアの鈴を転がすような声がする。もうしばらくすれば、彼女もこの城の誰か良い人と一緒になるのかな?

そんなことを尋ねれば、顔を真っ赤にして恥ずかしがった。どうやら恋人がいる模様。これは根掘り葉掘り聞かねばなるまい。王都にいた頃の私では想像もつかない程に開放的になっていた。











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雪の降りしきる冬にこそ、大地が眠るそのときに咲く花がある。

誰が呼んだか雪桜。触れれば溶けるその花は日本の懐かしきそれよりもさらに儚く儚く儚く。

そのような木の下に人影が一つ。くるり、くるりと円を描くように踊る彼女の服はすっかり桃色だ。

思わず見上げてしまうような彼女の存在感に、自分の見る目の無さを痛感する騎士が一人。

左遷先と隠居先が被ってしまった薄幸の青年である。

つくづく己の未熟さを噛み締めながら彼はこの時間を耐え忍んでいた。









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なんやかんやで辺境にやって来たアレクシアの中の二人、アンシアとグラシアはそれぞれ、針仕事と舞踊をそれはそれは楽しんでいた。

心が2つあるから、かわりばんこに表に出てその結果眠ることが無くなったけど、みんなには内緒の話である。

今ではすっかり仲良くなった2人だけれど一つだけお互いにまだ解決していない問題があった。





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「こんなの私じゃない」

そう、誰かが呟いた声を聞くものは居ない。






今は、まだ、、、
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