楽して生きたい薬師ライフ…のはずが、トラブル続きで大忙し!? 怠け者転生者アリスはのんびりしたい。

頭フェアリータイプ

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毎日営業、平均ちょい上の販売数、平凡な効能。
薬師の中では目立たず、平民の中では尊敬される。
いなくなると困る。

——そんな、ちょうどいいポジション。

だから、よほどの馬鹿でない限り、私のやり方に文句をつける者はいない。

……のだが、世の中には 例外 というものが存在する。

「アリス殿はおられるか?」

野太い声が、壁を突き抜けて響いた。

「げぇ……。」

顔には出さない。社会性、社会性。

受付嬢が、哀れむような目をこちらに向けてくる。

オーベルジュ隊長——この街の衛兵を束ねるリーダーであり、ただの飾り貴族ではなく、実力派の戦士でもある。
この街で 一、二を争う有力者 だ。

——彼が来るときは、大抵ろくな話ではない。
彼の依頼は、「労力がかかるのに、報酬が大したことない」 ことで有名なのだ。

「依頼は、一度保留にさせてください。」
「そうですね。」

受付嬢が、こくりと頷く。

頭を抱えつつ、私は “前任者を引退に追い込んだ頭ダチョウ” の相手をするべく、重い足を引きずった。

悪い人じゃない。
実際、「悪い人」は他の街に比べて断然少ない。
ただ——怠けている の基準が厳しすぎるだけで。

……厳しく当たられる身としては、溜まったものではない。

☆☆☆

ギルド入り口のホールに出ると、そこには肩をいからせた男が待ち構えていた。

オーベルジュ隊長。
軍服の詰襟をピシッと締めた姿は、前世で言うならドイツ軍のような雰囲気。
ただし、戦闘力は申し分ないのに、細かい気遣いが致命的に欠けている という 残念な男 である。

「何故、店にいなかった!」

「誠に申し訳なく……。」

とりあえず頭を下げる。
ギルドの冒険者たちが、そそくさと逃げていくのが見えた。

——わかる。誰だって、この人に目をつけられるのは嫌だ。
私だって逃げたい。

「使用人でも雇えばいいものを!」

「……(雇えるわけないでしょ)」

ぐっと言葉を飲み込む。
この世界で、平民が使用人を雇うなんて、よほどの富豪でなければ無理だ。

「まあいい。依頼だ。納品は明日だ。頼んだぞ。」

——おい、こっちの 拒否権は?

「……」

文句を言う暇もなく、彼はさっさと去ってしまった。

「はぁ……。」

思わず深いため息が漏れる。

この男の依頼は、毎回 「労力>>>報酬」 で割に合わない。
だが、放置すれば確実に牢屋行き。

「もう、やるしかないか……。」

気が重いが、無理やり自分を奮い立たせる。
とりあえず、材料の確保のため、ギルドと交渉しに向かうことにした。

☆☆☆

「えっ、材料費の方が依頼料を上回ってるんだけど。」

計算した瞬間、頭を抱えた。

まさかの 赤字案件。

……やっぱり、この街を出たほうがいいんじゃないか?
こんな男がいるせいで、せっかくの “気楽な薬師ライフ” が台無しだ。

「はぁ……。」

頭を抱えつつ、それでも仕方なく材料を仕入れる。
とりあえず、調合に取りかかるしかない。

☆☆☆

ポーションの材料は、主に 薬草・魔石・塩・砂糖・酒。
• 塩を入れると、効能が強化される薬草がある。
• 酒は、薬効を引き出す効果を持つ。
• 砂糖を加えると、苦味が抑えられて飲みやすくなる。

私は 塩を使うのが得意 だ。
そして—— 砂糖は、オーベルジュ隊長の依頼の際に優先的に使う。

……え? 嫌がらせ?

何を言う。これは 善意 だ。

彼の最近の口癖は 「どうも最近、喉が渇くんだよな……」。

——ふふっ。

まあ、砂糖の取りすぎが原因 だなんて、気づかれないだろう。
なあに、毒を盛っているわけではないし、バレないバレない。

(※ そもそも彼なら治癒魔法使いにかかるのも簡単だし、大した問題はない……筈だ。)


☆☆☆

• 材料を測る
• 酒に浸す
• 塩漬けにする
• 切り刻む
• すり潰す
• 火にかける

ガリガリと 魔力 と 精神力 が削られていく。

(……これは、絶対に割に合わない)

そう思いながら、ひたすら作業を続ける。

夜明けと共に

ゆっくり、ゆっくり、窓から差し込む光が強まっていく
魔道具のライトを消し、仕上がったポーションを並べる。

現在時刻、午前七時半。

衛兵の事務所が開くのは九時。
まだ時間には余裕があるが、早めに納品してしまおう。

私は、商業ギルドから借りた 台車 に荷物を積み込んだ。

「アリスちゃん、痩せこけて可哀想に」

そんな声とともに現れたのは ローズ。

この街で一番の 暴を持つオカマなお姉様 だ。

見た目は屈強な大男。
けれど、振る舞いはどこまでも 優雅で女性らしい。

「こんなに働いて大丈夫なの? ほら、台車ごと運んであげるわよ!」

そう言って、私ごと台車を引いてくれる。

「……ありがとう、ローズ。」

「いいのよ~。私は “可愛い妹” を助けるのが趣味なの!」

ローズがいなかったら、たぶん私はとっくに潰れていたと思う。

……やっぱり、この街を出るのはもう少し考えた方がいいのかもしれない。

城門のそばにある、石造りの無骨な建物。
その中に、衛兵たちの事務所がある。

扉を開けると、受付に立つ青年がこちらを見た。

「納品にまいりました。」

「あん? 今忙しいんだ、後にしてくれ。」

「……は?」

どの口がそれを言う?
緊急依頼で無茶を言ってきたのはそっちなのに、後回しにされる筋合いはない。

私が口を開こうとした、その瞬間——。

「無茶苦茶な緊急依頼しておいて、何のつもり?」

低く響く声が、背後から降ってくる。

ローズだ。

青年がヒッと怯えた顔を見せる。

(……あれ? 見かけない顔だな)

制服のシワひとつない様子を見るに、最近どこかから赴任してきたばかりかもしれない。

険悪な空気になりかけたところで——。

「おい、どうし……って、またアレですか。」

奥から姿を現したのは、オース卿。

恰幅の良い体型に、特注の制服。
この街では “オーク卿” なんて呼ばれているが、中身は意外と狸だったりする。

「ええ、そうよ。酷いと思わない?」

ローズが肩をすくめる。

「いや、本当に申し訳ない……。」

オース卿が深いため息をついた。

(……あ、これはもう任せて大丈夫な流れ)

私はコトンとその場に座り込み、意識を手放した。

——しばらくは平和かな?
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