やる気ゼロの聖女は、やる気ゼロの王子に溺愛される。

日向雪

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014 『3時限目 食事2』

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 王子は、ゆっくりと水の入ったグラスを傾ける。

 水は飲むのね。





「お食事は口に合いませんか?」



「食欲が無いだけだ」



「ではーーアーンして下さい」



「?」





 王子は首を傾ける。

 困惑しているようだ。





「私が食べさせて差し上げます」



「結構だ」



「遠慮せず、どうぞ」



「遠慮じゃない」



「では、どうして?」



「先程も言ったが、食欲がないからだ」



「そう言わずに」





 アリシアはスプーンを王子の口元に持って行く。





「冷えたジャガイモのスープです」



「その一言で更に食欲が下がった」



「あら?」



「あらじゃない」



「お食事を取った方が良いですよ?」



「なぜ強要する」



「生きる為に。食べなければいけません」



「死んだところで、構わない」



「私が構います」



「仕事が中途で終わるからか?」



「それもありますが、ルーイ様に死んで欲しくないのです」





 アリシアはスプーンを置くと、王子の前にぐいと顔を寄せる。





「ルーイ様に、死んで欲しくないのです」



「二度目だぞ」



「ちゃんと聞こえているか確認の為に二度言いました」





 大切なことは何度でも言いたい所だが、百回言うとただの空気になってしまう。

 匙加減が難しいよね。





「毒殺され掛けたのですよね?」



「さらっと言ったな」



「ええ。言ってみました」



「皆、気を使ってその話題は出さないぞ」



「私は意味のある気遣いしかしない主義ですので」



「ならば最悪の記憶を蘇らせて何がしたい」



「犯人がいますよね」



「もちろん」



「捕まえたのですか?」



「実行犯は地下牢に入って三日で服毒自殺した」



「口を封じられましたか」



「恐らく」



「私、嫌いなんですよ」



「?」



「真相犯が」



「知り合いみたいに言うな?」



「もちろん知りません。ですが、自分の政治的欲望の為に、人間を一人殺そうとするその短絡的な思考回路が嫌いなんです」



「ほう」



「その悪性の高い人間が今何を望んでいるか知っていますか?」



「それはーー」



「クリスティアン王国の第一王子が亡くなることです」



「………」



「ルーイ様は、悪辣非道で無神経な心の持ち主の一番望む事をしたいのですか?」





 アリシアはそっと唇を舐める。





「悪意ある人間の思い通りになって欲しいですか」





 アリシアはそっとパンの欠片を口に咥える。

 そのまま王子の口元に寄せた。





「食べて下さい。人間は食べられなくなると二週間で意識が朦朧として来ます。三週間目で意識を失い、そこからは寝たきりになります」





 アリシアの分厚い眼鏡が王子の頬に触れる。





「きっと真犯人は手を打って喜ぶでしょうね? そういう現実がお好みですか」





 アリシアと王子の視線が交錯する。

 とは言っても、分厚い眼鏡を掛けている為、王子の方からは視点が合っているかは確認出来ないと思うが。





「私が元いた国では、『やられたら百倍返し』という言葉が流行っていましたよ」



「……凄い国だな」



「ルーイ様を殺そうとした人間は、今頃きっと豪勢な食事を取っている事でしょう。加害者が幸せなんて、つまらない現実ですね」





 王子は身じろぎもしなかった。





「聖女の唾液に感染症は含まれていませんよ? ご安心下さいな」



「その分厚い眼鏡を取れ」





 その言葉にアリシアは小さく笑った。




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