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010 『親と子の残虐性』

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 子供にとって一番強く影響を受ける人間と言えば。

 文句なく、親だろうと思う。





 けれども現実にある、歴然としている事実は。

 一番大切なものでありながら。

 くじ引きで決まるという残虐性。







 賢明な親に当たるのも。

 残忍な親に当たるのも。

 普通の親に当たるのも。

 それは宝くじのようなものなのだ。



 これ即ち、運でしかない。





 しかしながら。

 外れたと言って嘆くにしては、あまりにも大事過ぎるではないか。

 二十年という長い月日を、生殺与奪の権利を握られてしまうのだ。





 もちろん生殺与奪といのは命の事ではない。

 心の生殺与奪だ。







 心が希望で溢れるのも。

 心が絶望で溢れるのも。

 希望と絶望が混在するのも。





 その権利は親に握られている。

 自分の心の権利を他人が握っている事実は、恐ろしい事だと思う。





 ガムの当たりくじではないのだから。

 外れてしまったらどうなるのだ。





 心が絶望で溢れてしまったら?

 心が苦しくなってしまったら?







 前世では年間二万人の人間が自ら命を絶っていた。

 二万人。

 この数字をもっと認識しやすい数字にするならば。





 一億二千万人の人口中。六千分の一。

 六千人に一人の割合で、人は死を切望し実行に移す。





 一日辺り、五十四人も亡くなっているのだ。

 死因のトップは、十二歳までは不慮の事故。

 十三歳から四十歳に至るまでは自殺。





 大きい数字。

 哀しい数字。

 恐ろしい数だと思う。







 王子様の心は腐りそうなのだそうです。



 つまり彼は、心が絶望しているのだ。



 死にとても近い所にいる人。







 聖女の光は、体を治すことは出来るけれど。

 心の闇に光は届かない。





 心は深淵の闇に囚われて行く。

 ゆっくりとゆっくりと沈んで行く。





 アリシアは王子に生きていて欲しいと思っていた。

 生きていて欲しい。

 死んで欲しくない。





 昨日会ったばかりだけれど。

 毒殺されかけて、左肘から朽ちて行こうとする王子様。





 絶望の中で死んで欲しくない。





 死なないで。





 手の平の温度を通して、アリシアはそう願っていた。





 死なないで。

 死なないで。





 この人は、優しい人なのだと思う。

 昨日会ったばかりだけれど。





 アリシアはそう直感していた。





 父親は王で。

 母親は王妃。

 この国の最高権力者。





 王様と王妃様の御子様は、心が腐りかけている。





 そしてその子供の側に、お二人はいらっしゃらない。

 王と王妃には子供より優先すべき事柄が多い。





 親としては落第点だ。

 子供の心を救う力が無いのだから。





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