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009 『手の平の温度』
しおりを挟む「家庭教師の体温を感じてどうする?」
確かに!?
家庭教師は体温を感じ合う相手としてベストとは言えない。
「人は温かいものに触れると落ち着くものです。好意を持っている相手であれば理想的ですが、先生と教え子というのもなしではありません」
アリシアは王子の手をしっかりと掴む。
「体温を感じますか?」
「……いや、めちゃくちゃ冷たいな」
「残念ですが冷え性なのです。効果が半減なんですよね……」
アリシアは残念そうに呟く。
「冬は少し辛いですが、夏は重宝すると思いますので、ご容赦下さいね」
教師の手というのは、大きくて温かいのが理想的だ。
その方が頼れる人間だと認識しやすい。
親子間で考えると分かりやすい。
父と母の手が大きくて温かいと子供はホッとする。
アリシアの手は残念ながら、小さく冷たい。
それが心の底から残念だったりする。
チート教師の肉体的弱点ね。
今度からお湯で温めてこようかしら?
効果は低いよりも高い方が良い。
明日は温めて来ようと思う。
「孤独は人を不幸にします。私の生まれた世界ではそういうデータが出ていました。孤独は寿命を三十パーセントも縮ませる。恐ろしい病気なのです」
「……データ?」
「はい。何百人も追跡調査して調べた数字です。結構信憑性がありますよ」
「凄い世界だな」
「ええ。魔法はありませんでしたが、科学力が進んでいました。そんな世界で生まれ、ある日この世界に流されました」
「……帰れないのか?」
「帰れません。とても遠いところです。いつかその世界の話もしたいですね」
そう言って、明るく笑い返したら、王子がそっと手を握り返してきた。
優しいんですね?
励ましてくれるのですか?
アリシアと王子は手を繋ぎながら庭を散歩する。
木の名前や花の名前を確認しながら。
ゆっくりで良い。
陽の光を感じながら。
そっと体を動かせば良いのだ。
体の内部から腐って行きそうな時は、体の外部からメンテナンスをする。
現代の精神医学は色々な派閥があったけれど。
脳科学的なアプローチはこんな雰囲気だった。
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