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【百四十七話】メデューサが見つめるものは。

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 天井裏って………。

 隙間はないのかしらね?





 私が慎重に匍匐前進していると、扉が開かれる音がする。

 姉は早々に着いていたので、もちろん待ち人が入って来たのだろう。





 キター。

 キタキタキタ。



 真打ち登場?

 それとも悪の大伯爵?





 もとの身分より落ちてるって。





 私はじっと耳を傾ける。





 …………。





 でも。

 何にも話してない。





 どうゆうこと?





 二人分の気配はするし。

 お茶を飲んでいる感じがするのだが。





 話し声一つしない。





 ………。





 人払いも済んでいるから、何を話しても大丈夫なのに?





 ………。





 それなりの時間は過ぎたと思う。





 何なのかしら?

 不自然ね?





 天井裏といっても昼下がりで、空気がそれなりに暖かくて。

 要はあんまり黙っていられると眠くなるって話だ。





 十五分くらい経った?

 いや三十分くらい?





 ちょっと時間の感覚が分からないけれど……。





 ずっとうつ伏せもつらいから、私は仰向けになり息を吐く。

 まあ、うつ伏せだろうと、仰向けだろうと音は聞こえる。





 ただ耳の形状上うつ伏せの方が音が入りやすい。

 耳の外耳は後ろに向かって覆うように出来てるしね。





 私はボンヤリとしながら目を瞑る。

 睡魔がヤバイ。





 普通に眠い。

 天井裏って屋根に近いから、太陽の熱に結構近いんじゃないかしら?





 しかし王宮のような作りの建物に天井裏か………。

 日本家屋には必ずあるし、日本の城にも武家屋敷にもあるものだ。





 石造りの場合はどうなのだろう……。

 そんな事を考えている時、ふと下からオリヴィアお姉様の声がした。





「静かね……」





 静かだから静かだと言ったまでなんだろうけど。





「……そうかな?」





 と言い返される。





「ペットがさ……」





 ペット?





「鳴いてる」





 ティーカップを置く音がカチャリと聞こえる。





「ずっと鳴き続けてる」





 淡々とした抑揚のない声で言う。

 オリヴィアお姉様も相づちを打つように答える。





「どんなペット?」



「君に懐いているネズミ」





 私はギクリといて唾を飲み込む。

 別に私は鳴いてはいない。





 でもネズミって……。

 どこか天井裏を走るものの代名詞のように使われる部分あって。





 だいたい次には天井裏に長刀が刺さったりしない?

 時代劇の見過ぎ?





「オリヴィア」



「何?」



「飼い始めたの?」



「…ううん。お友達になったのよ?」



「僕の嫌いなネズミでも?」



「あなたにも好きになって欲しいから……」



「……そう」



「このお茶おいしいわね?」



「……味に興味はないよ」



「このお菓子も美味しいわ」



「……良かったね……」



「ねえ」



「何?」



「私、結婚することにしたのよ」



「…………」





 天井裏からでも、部屋の空気が変わったのが分かった。





「……カールトン公爵家は不祥事によって取り潰す話が出てるよ?」



「そうなの?」





 オリヴィアお姉様はケロリとした口調で答える。





「三女が第三王子を刺した訳だからね?」



「そう? 困ったわね? 身分が無ければ結婚が出来ないかも知れないわ」



「誰とするの?」



「誰だと思う?」



「……候補は沢山いるけど、君が頷くとは思えないな」



「身分が高い人よ?」



「………」



「カールトン公爵家令嬢の名がなければ嫁げないわね」



「………誰?」



「聞いてどうするの?」



「どのみち直ぐに分かるだろ」



「そうね」



「……侯爵以上?」



「どうかしら」



「侯爵以上で歳の頃を考えれば直ぐに割り出せる」



「割り出してどうするの? 落馬させるの? 絞殺するの? それとも刺殺?」



「…………」



「殺されるのは困るのよ?」





 お姉様の冷たい笑い声が響いた。

 きっと彼女は羽扇を仰いで勝ち誇ってるわ。

 そんな気がする。







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