転生したらシンデレラの義理の姉でした!? ~悪役令嬢まっしぐらです~

日向雪

文字の大きさ
上 下
145 / 158

【百四十四話】彼を知っている人はこの世にいますか?

しおりを挟む



 お目付役がオリヴィアお姉様に最適というのであれば、姉もまた自分が彼のアキレス腱に成り得ると気付いていた事になる。





 つまりは、私の気のせいではなく、事実彼女は彼のアキレス腱だという事だ。

 しかしーー

 もちろん自称ですが(笑)





 この姉に惚れる人かー……。





 私は羽扇を仰ぎながら、優雅に微笑む姉を見る。

 例え王族である第二王子様がいてもこの不遜さ。





 マジで凄くない?

 私とは器が違うというか……。





 この人を一度嫁にしたならば、間違い無く尻に敷かれるというか……。

 むしろ敷かれることが前提というか……。





「ところで第二王子様とミシェールは彼の事をどれくらい御存知なのかしら?」





 ……彼か。

 彼がどこの誰だかは説明していない。





 ということは姉は僅かなヒント。

 第二王子様が言った

「あなたに惚れている男性」

 という言葉と、私達が会って欲しいと言った状況だけで理解した事になる。





 普通辿り付けないわよねー。

 オリヴィアお姉様には動物並みの嗅覚があるのかしら?





「彼の性格が歪んだのは、色々な事情が複合している訳だけど、それは理解していて?」





 歪んでるって。

 歪んでるだって(笑)





 なんの躊躇もなく言い切るから、大笑いだ。

 歪んでますよね? 実際。

 私もそう思います。





「長男であり、本来は全てを継ぐものとして、優遇される立場である彼が歪んだのには、意外に人の本質として真っ当な理由があるのよ?」





「つまりはお姉様は、彼が歪んだのはありがちな理由だと」





「まあそうね。子供ってね無意識に親を求めるものなの。自分の産んだ人への強い愛着と思慕」





 それはまあそうだと思う。

 当然本能に組み込まれた一部だ。





「でも、現実には様々な理由から、子供に心を傾けない親がいるのも事実だわ」





 そういう親もいるだろうと思う。

 親の数だけタイプがあるのだ。





「よくある理由として存在するのが兄弟。兄弟がいるなんて一般的で大多数の事だと思うでしょ? 親もね大概言うものよ? 『兄弟が出来てよかったね』と。でも上の子にしてみればそんな単純な問題じゃない。下の子が生まれて、どれだけ不安と苦しさに苛まれるか……」





 長女である姉は言った。

 つまり、あなたも苛まれたのですか?

 私が生まれた時に?





「私は四人姉妹の一番上だったけれど、次女のミシェールが生まれた時は、二歳だったわ。ミシェールは小さくて、当然一番に優先して守られるものになるところだった」





 え?

 つまりならなかったって事?





「でも、母は比較的母にそっくりだった私を一番に可愛がったの。妹が生まれてもね。そしてまだ何も分からない赤ん坊の妹は、お祖父様とお祖母様と男爵家のみんながそれはそれは可愛がった。なので愛情の所在地がハッリキしていたため、私もミシェールもそれなりに恵まれて育ったわ」





 えー……。

 確かに私はお母様には一番って感じじゃなかったわね?

 でも、そう、お祖父様の存在。

 お祖父様の事は、今も昔もこれからもずっと大切だわ。





 私が何をしても、お祖父様はきっと助けて下さる。

 それが自分の人格の安定に繋がっているといえば、繋がっているのかも知れない。





 そして、お祖父様の一番は私だ。

 姉じゃない。

 それが私の矜恃でもある。





 確かに愛情は結果的に担当制になっている。

 家によっては、母親の愛情を分散させるパターンもあるだろうけど。





「彼の家はね、お母様が長男を産んだ時、ある期待をかけていたの。しかし期待は裏切られた。長男は父親に似ていて、母親の潜在的性質は受け継がなかった……」





 確かに髪も目もお父様譲りだ。





「だから、次男が生まれた時は歓喜したらしいわ。『これで大丈夫。この子がいればもう平気だ』と。そして困った事に、父親も母親そっくりの次男を溺愛した」



「………」



「ここでね。父親が自分にそっくりの長男を愛していれば、結果は違っていたのかもしれない。でも、そうはならなかった。父親は美しい妻に似た子を溺愛した」





 愛情とは直感でもある。

 理由などないのだ。

 好きだから好き。





 バランスを考えて、長男は自分が愛そうだなんて、愛情に算盤は弾けない。





「彼は二歳の時から親の暖かな愛情を受けていないのよ? そして彼に取って面白くないのは次男の存在。両親からちやほやされ、全ての人の愛情を根こそぎ取っていく次男」



「…………」



「屈折してしまったのね? だから彼は思った。せめて自分だけは彼に絶対に愛情は注ぐまい。彼の人格の一部を壊してやる」



「………」



「彼は、次男に事あるごとに辛く当たった。そして陰湿に嫌がらせをした」





 オリヴィアお姉様の羽扇が揺れる。

 揺れた先に第二王子様がいる。





 彼はオリヴィアお姉様の話を静かに聞いていた。





「次男は確かに彼のお陰で幸せの一部を失った。彼の嫌がらせの一部は確かに届いたのね……」



「………」



「カールトン公爵家を巻き込んだ、この壮大な兄弟喧嘩の不始末を誰が払いましょうか?」



「………」



「カールトン公爵家だけが払うなんて、納得出来ないわよね?」





 そう言って、姉はうふふと可愛らしく笑った。

 この笑いは、魔王というより魔王の娘といった所ですかね?





 妙に色っぽいです。











しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...