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【百二十四話】硝子の靴を履いた時2。
しおりを挟む舞踏会の日に。
王子様と結ばれる女の子。
それが誰と問われれば。
それは『シンデレラ』だと答えるだろう。
童話の中をお話は素敵で。
世界中に愛されている。
私はーー
そのシンデレラに会いに行く。
私はこの部屋で。
ルーファスは自室で。
お互いに少し休むと、身支度を調え、お茶を飲んで部屋を出る。
お茶を飲んだのは、カラカラだった喉を潤す為と、平静を取り戻す為。
だって、あんな事があったから少し興奮しているのよ?
私は若草色のドレスに身を包んでいた。
ドレスと言っても、舞踏会に出るような華美なものではない。
どちらかというと、お茶会に参加するような、品が良いけど、おとなしめのドレスだ。
本当はこういうドレスの方が好きなのよ?
レースが重ねられていて、動く度に揺れて。
一番上のレースだけが白いから、全体的に淡い印象になる。
お化粧も薄めで。
だけど、首元には王家のエメラルドを外さずに付けて置いた。
凄い存在感。
微妙に首元のゴージャスさが悪役令嬢かしら?
控え目な男爵令嬢辺りを目指したのだが……。
足元には硝子の靴を履いて。
髪は下ろして、小さなオフェリアの蕾を付けて。
結構着飾ると気持ちが上がるわね。
しかも割と好みの装いだから。
私は、ルーファスに手を引かれ、地下に下りていく。
地下と言っても半地下だろうか。
明かり窓だけは上部に取れるようになっている。
牢番には事前に話を通してあったから。
だから、私達二人きり。
キースの事はセイに頼んで置いたし。
警備には近衛が付いている。
あれって、セイの部下かなーと思って見たり。
同僚ではなさそうよね?
あいつ平じゃないのかしら?
ルーファスの専属の影なのだから、きっと留学先にも付いてくる。
ならばその時に、詳しく聞こう。
セイってなんだか、問い詰めやすいっていうか?
遠慮がいらない存在っていうか?
まあ。
問い質しやすい訳。
そんなことを考えながら歩いていると。
ーーいた。
最奥の牢だ。
「ご機嫌よ? シンデレラ」
私は上から目線で言い放つ。
私って、基本上からの人なのよねー。
ルーファスは、私の手をそっと離すと、一歩後ろに下がった。
彼もまた素敵なナイトッぷりだ。
このシチュエーションってティアナ・オールディスを尋ねた時と似てるわねー。
なんて思う。
あの時は西塔で。
ナイトはセイだったけど。
ティアナは気高く食ってかかって来たけれど。
私の妹はどう出るのかしら?
彼女は簡素な囚人服に着替えていた。
白い、麻の、上下。
ドレスは動き難いし。
所持品検査をしたのかもしれない。
「素敵なお洋服ねシンデレラ」
エッフェル塔より高い位置から嫌味を言ってみた。
私って何様?
「お姉様」
シンデレラは私に気が付くと、直ぐに走り寄って来る。
?
大分下から来たわね?
「ミシェールお姉様、助けて。ここから出して下さい。ここは寒くて、薄暗いし、とても怖いのです」
うーん。
確かに、周りは囚人ばかりだし。
恐いっちゃあ。
怖いと思う。
私はニコリと微笑んだ。
「確かに怖くて薄暗い場所ね?」
「ええ。そうなのです。私、ここでは不安で落ち着かないのです。お家に帰りたい。お姉様から出してくれるように言って下さい。公爵家に帰りたい。帰りたいの、お姉様」
彼女は可愛らしく首を傾げる。
マジ可愛い。
私が男ならイチコロ。
女でもコロッと逝きそう。
男の一人であるルーファスはどうだろうと振り返ったら、彼は鬼の形相でシンデレラを見ていた。
あ、うん。
ムカついてますね。
可愛い子に騙されないタイプか。
まあ、アレよね?
男の子の中には、ルックスに騙されない奇特なタイプが若干いるらしい。
完璧に着飾った私より、シンデレラの方が数段可愛いわ。
囚人服でその可愛さ。
まさに罪。
「お姉様から第二王子様にお願いして下さい」
「………」
うん。
直ぐ後ろにいるものね?
私から第二王子様にシンデレラを助けるように言って欲しいと。
成る程、成る程。
結構凄い発想だなー。
さっき私を刺そうとした人間が、私に普通にお願い事を言うのね?
本末転倒な訳だけど。
その部分には思考が回らないのかな?
「お姉様、ミシェールお姉様。お願いです。助けて下さい」
そう言って、鉄格子越しに私の手を取った。
華奢で綺麗な手をしていた。
牢にいたので冷えてしまったのか。
手は冷たい。
童話の中のシンデレラは、水仕事なんかしていたから、アカギレだらけだったけど。
妹の手は滑らかで傷一つない。
妹の手から懐かしい感触が伝わる。
私の手を掴む白い手。
私はーー
七年前に義理の弟と妹が出来て嬉しかった。
そうーー
弟だけじゃない。
妹が出来た事も喜んだのだ。
お人形みたいに綺麗な妹だったから。
前世的に言えば、まるでフランス人形のようだったから。
弟ほどではないにしても。
私なりに、一歳年下の妹を可愛がった。
手を繋いだのは、これが初めてじゃない。
幾度も繋いで来たのだ。
私はーー
鉄格子越しに、彼女と手を繋いで。
そして妹の感触を思い出していた。
鼻の奥がツンとする。
フィル様が魔術執行中に言っていたわよね。
私の父親は間違い無くカールトン公爵だと。
一国の王が下した諜報だもの。
きっと信憑性があるはず。
ずっと分からず仕舞いだったけど。
私の父はカールトン公爵なのだ。
ならばーー
私は、この妹と血を分けた腹違いの姉妹ということになる。
七年前から、私達は姉妹だった。
今はーー
鉄格子を挟んで命乞いをされている。
『助けて』
と私の胸に訴えている。
この子を見殺しにするも。
助けるも。
私の手に委ねられたのかな?
苦しい選択肢が目の前に広がって行くのが分かった。
胸が少し痛いです……。
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