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【百十四話】ウンディーネが愛する少年の条件。
しおりを挟む精霊術の光が二倍になった。
明るくて温かい黄色い光。
術者が二倍になったから、光も二倍という感じで……。
なんか、恐ろしく神々しいわね?
一般人?
の私がここにいるのもおこがましいくらい場違いというか……。
まあ。
貴族だし家族だし一般人でもないのだが………。
「時にミシェール」
え?
魔術執行中に話かけられた。
この人、執行中に雑談出来るタイプ?
それとも年季が違うの?
「なんでしょうか? フィル様」
私も私で、取り澄ました声で応じる。
……いや、この人と話す時って、変なスイッチ入るわ。
女優じゃないのにさ、女優スイッチっていうの?
つまりは構えるって事なのだけど。
「大きな貸しが出来て嬉しいよ」
「………」
ホントにね……。
マジ大きいね。
私、逆らえないもんね。
でも。
アッシュベリー王国ではなく、私に貸しにするの?
イヤイヤイヤ。
それはないか。
じゃあ、両方?
それがそつの無い生き方よね?
「先ずは、学園の卒業と同時に我が国に二年間の留学をしてもらう」
……我が国って。
その言い方、変装している意味あるのかなー。
でも治癒魔法を使っている時点で、そんなレベルの秘密何でもないかー。
正体を知らない人、ここにはいないしね。
ーーしかし
私の予想、ドンピシャリだ。
ど真ん中。
ど真ん中過ぎて鳥肌が立ったわ。
そうよね。
それが一番穏便に事を進める方法だものね。
つまりはルーファスにも二年の留学期間を設けていると。
そういう段取りになったのね。
そして私にも付いて来いって事。
なんでか分かんないけど……。
「名目は何でも良いが、薬学の勉強とか、尤もらしいものを考えて置くように」
……薬学か……。
どっちかっていうとティアナにピッタリね。
フィラル国って、独自の薬文化が発達しているのよね。
なんていうか前世で言う所の漢方学みたいなもの。
私も前世では、ケミカルな西洋医学の薬と、漢方薬を併用してた。
アレ、マジで良く効く。
急性は西洋医学。
慢性は漢方学。
と自分なりに分けていたけど、以外に火傷や頭痛でも漢方薬を使っていた。
ただ漢方と違うのは、その殆どが畑ではなく海から採取している所。
つまり他国はそうそう真似できない。
フィラル国の薬は当たり前だが、漢方薬ではなく海聖薬として、大きな輸出産業を担っている。
フィラル国の富の一部だ。
海藻の粘土は捻挫に効き。
魚の毒は痛み止めに………。
痛み止め………。
毒って、一口に言っても、植物、鉱物、動物、魚類、菌類等、以外に多岐に渡る。
麻酔に使えそうな毒も有りそうじゃない?
ああ。
でも私……。
そんな名目で留学してしまったら、魔女部門行きだわ……。
むしろ私が部長? みたいな……。
「その上で、研究が軌道に乗り、追加で一年留学を延長し、通算三年間にしてもらう」
「………」
つまりはがっつり三年は、ルーファスを囲う予定なんだ。
ただし、アッシュベリー王家の確約は二年しか取れなかったので、苦肉の策的な。
「その三年で、ルーファスとの間に子を成してもらう」
?
聞き違い?
何か、今……変な言葉が……。
子を成す???
はい???
場の空気が凍り付いた。
何かコレは。
ティアナは鬼の形相で凍り付き。
サイは「言っちゃった」的なノリで凍り付き。
ブレットは、無表情で凍り付き。
私は呆然自失で凍り付き。
ルーファスはというと、やや頬に赤味が差していただろうか……。
こいつ、知ってたな。
既に根回しというか、事前に聞いてたのね?
子を成してどうするんだ!?
飛躍し過ぎでしょ?
「そして、子供とのゴタゴタでもう一年フィラルに留まる事とする」
スゴイ強引な手口ですね!
吃驚です!
「子を成してどうするのですか?」
「ルーファスは私の甥で有るからな。その子と私の関係は大伯父だろう。親族だ」
まあ、親族は親族ね。
「出来ればそのどさくさに乗じて、ルーファスを我が子として養子にするつもりだ。なに、実の妹の子だ。なんの問題もなかろう」
フィル様は澄まして言ったが、問題大有りだろと突っ込みたい。
ルーファスはアッシュベリー王国の第二王子だよ? 養子なんて認められないでしょう……。
「養子という話は、ルーファスが生まれた時から打診している。我が子は男児がいないからな。丁度良い」
……いや、つまり。
ルーファスが生まれた時から打診していて、ずっと断られているって事だよね?
ルーファスを養子にしてどうする?
養子にした所で、彼が王には立てないだろう。
王というのは、その国で生まれ、その国で育ち、そして国民に広く存在を知られているのがベストだ。
王女様の婿になり、婿養子になるのならば、打って付けだが、養子は若干苦しい。
隣国の王子が、王に立つような事があれば、フィラルはアッシュベリー王国の手の内だ。
そんな愚策はないだろう。
その上、ルーファスは正妃の第二王子の座から、隣国の第四子という立場になってしまう。
王族には変わらないが、第二子と第四子って、明らかに身分降格。
そんな話は飲めない筈だ。
「……見ての通り、我らは癒やし手だ。人の体を治すことが本分だ。ミシェール、それがどういうことか分かるか?」
「?」
「人体に精髄しすぎている。どこの血管を切れば、人が死ぬか、最小限の力で殺す方法を知っている。知らなければ癒やし手など出来はしない。表裏一体なのだ」
「…………」
「故に、影の仕事を任せられたならば、必要以上に優秀にこなせるだろう」
「…………」
「癒やし手は、影になっては成らぬ。ウンディーネが許さない。我らが力は我らの力に有らず、水の精霊王ウンディーネの力なり。ウンディーネの力はウンディーネが望む場所で使わねば成らぬ。そうでなければ彼の精霊は怒り狂い、裏切った者を決して許さぬだろう」
「…………」
「次世代の精霊の申し子を守るのは先代の大切な役目」
キースの体の中に入り込んだ光が一瞬強く瞬く。
臓器が復元した?
位置的に肝臓だ。
フィル様が担当していた?
それから続いて、肺の辺りで光が瞬くと、皮膚の縫合が急速に進み、数カ所で小さな魔法陣が回転しながら術式を展開している。
アレはきっと縫合魔法ね。
光の糸で縫われていく。
縫った先から、縫い跡が綺麗に消えて行き、元の滑らかな皮膚が再現して行く。
最後は加速するように治って行く。
裏切った者を決して許さないと言った?
不穏な言葉ね?
ええ。
私、留学します。
借りは返さなきゃ行けないし。
それに未来永劫、ウンディーネとは仲良くいたいですよね?
精霊に喧嘩仕掛ける馬鹿はそうそういませんよ。
そう思いたいです。
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