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【百五話】私の差し出せるものは、私自身。
しおりを挟む「……ルーファス」
月明かりの中、ボンヤリとしていた彼を呼ぶ。
何か。
さっきはシンデレラの美しさに見取れたが、今はルーファスの神がかった容姿にも目が離せなくなる。
さすが精霊の申し子と言うべきか。
それとも、さすが精霊の恋をした建国王の子孫と言うべきか。
どちらにしろ、神がかっているのは確かだ。
しかも、何故か月明かりの下、アンニュイな雰囲気が出てるんですけど?
「探したわよ? ルーファス……」
私は黄昏れている彼に話掛ける。
「ミシェール?」
彼は目を見開いて驚いていた。
私が現れた事に驚いたのか?
それとも、血塗れの格好に驚いたのか?
両方かしら?
でも、勘が良い人だから、血を見たらそれなりにピンと来るものがあるみたい。
「怪我人?」
私の血に濡れた手を見ながら聞いてくる。
本当はドレスも真っ赤なのだが、不幸中の幸いというか。
同色で見えないのよ。
「そう。怪我人……。キースが私を庇って刺されたの………」
私は先程起きたことを、初めて口にした。
口にしたら、何だか現実味を帯びて怖くなる。
正真正銘の現実だが……。
認めたく無いというか……。
嘘であって欲しいというか……。
夢だったらいいのに……。
この世界の全てが夢で、目が覚めたら、私は何事もなく図書館司書をしているのょ?
でも、そうしたら、目の前の彼には、二度と会えないわね?
キースにもーー
「………助けて」
普段はエラそうで、気が強いのに、随分と小さな声になってしまった。
もっと言葉を並べ立てた方が良いかしら?
でも、私ーー
喉が詰まってしまって、声が声にならないの……。
言った瞬間、堪えていた涙が溢れ出して、ぼたぼたと落ちる。
何コレ?
文字通り、ルーファスに泣き付く事になってしまった。
「ミシェール……。今日、僕が君をエスコートしなかった事、怒ってない?」
「……怒ってないわ」
ガーンと来たけど、今は怒りは吹き飛んでいる。
なんというか……。
貴族今更なのですが……。
誰が誰をエスコートするとか……。
人の命の前では、吹き飛びやすい案件ね?
「第一王女と踊ったことは?」
「……怒ってないわ」
吃驚したけど……。
人の命の前ではーー
って続くわよ?
「一生、僕のもので居てくれる?」
「…………」
一瞬の沈黙の後、首を縦に振る。
キースの命に比べれば、私の一生なんて安いものよ。
頷くのを確認したルーファスは、私の涙をそっと掬う。
ヤベー。
二度泣きだ。
厚化粧……。
ヤベー。
涙が黒色じゃない?
「第一王女様と結婚するのではなくて?」
「……まさか、僕達従姉弟だよ? 血が濃くなる事は、フィラル王も望んでいない」
あんのいかさま王め。
「……じゃあなんでエスコートしたのよ?」
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「……ふーん」
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あんたねー。
「軽蔑した?」
「……別に、ルーファスらしくて結構よ」
彼は軽く笑った。
とっととキースの所に戻るわよ?
笑っている暇、ないからね。
私は彼を伴って駆け出した。
ええ。
ドレスですが全速力です。
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