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【百四話】あなたの居場所を、私だけが分かるって思うのは、自惚れですか?
しおりを挟む今日が終われば、私達は学生という身分ではなくなってしまう。
それが嬉しくもあり。
多少の不安でもある。
ティアナ・オールディスは何と言ったか?
王弟としての責務が始まる。
と言っていたではないか。
そうなるとルーファスの覚悟というものは、相当なものになるはず。
ーー覚悟
王弟としての覚悟というのは、つまりは影の仕事をこなす。
ということになる。
王弟自らが?
と思わなくもないのだが……。
逆に言うと、そういう役割分担をした方が、王族内の秩序が平和に保たれる。
という事なのだろうか?
結構、心境としては複雑よね?
そもそも、側妃様の御子様を問答無用で臣籍降下させるあたり、かなり厳しい。
側妃様の御子様とて、陛下の御子に変わりは無いのだ。
しかしーー
男子が多いのも諍いの種である事も確か。
側妃様の御子は、王を守る盾となれ。
つまりは、王族を守る立場になれ。
という事だ。
身分と立場が秩序だっていて、曖昧を許さない。
第一王子様と、第二王子様の身分にも、相当の差を付けているのね?
他者には分かり難いが、歴然とした差よね?
まあ、第三公爵令嬢ティアナ・オールディスは知っていて。
第四公爵令嬢ミシェール・カールトンは知らなかった。
という感じだが……。
しかし、第二王子様はなー。
彼は他者と違う決定的な部分がある。
治癒魔法使いだという事だ。
これはーー
物理的な問題として、マズいんじゃないかと思う訳。
ウンディーネがさ……。
何かさ……。
へそを曲げそうっていうか。
汚れ仕事を一手に担うって、あのプライドが高い精霊が許さないでしょう?
ないわー。
ある意味、岐路になると思う。
選択としては、簡単なことなのだ。
第二王子様が出来る事は、第二王子様がやり。
他者でも出来ることは、他者がやる?
そもそも王弟が影の仕事を担っていたのは、建国期ではないか。
そんなバタバタした時期と、今は違う。
建国期の王弟は、生まれながらの王弟ではない。
国が建国され、勝利者は王になり、勝利者の弟は王弟になった。
という流れだ。
その流れを、今でも引き継ぐ必要ってあるのかな?
ないでしょうよ?
けど、アッシュベリー王国には、そういった客観的視点は持てない。
当事者ではあるが、実質者じゃないからだ。
もっと砕いて言うと、自分の国の事であり、けれど自分は王弟ではない。
変える必要性を感じないのだ。
中の外からは、変えにくい……。
しがらみが有り。
因習があり。
妄執もある。
うーん。
フィラル王国の王が、精霊の申し子であるルーファスに、そんな事をさせられるのを指を咥えて見ているかしら……。
私は一度しか会った事がないが、フィル様という偽名を名乗った愉快な王様を思い出していた。
あの人、なんだか掴み所のない人だったけど、本質を見誤らない感じがしたのよね。
大切なポイントを押さえて、無駄なく、要領よく行きそうなタイプ。
フィラル国としても、譲れない筈よね?
ええ。譲らないわね。
じゃあ、どうする?
力ずくで、ルーファスを婿に貰う?
それは少し時期尚早な感じしない?
でもーー
何かしてくるのは確実なのよ。
つまりはーー
やんわりと、王弟が担う仕事から遠ざける?
これ。
かなり濃厚。
彼らの第一目的よね?
それさえ出来れば、後は徐々に外堀を埋める的な。
そう。
いきなり婿では、国同士に緊張が走る。
そんな悪手を打つ人じゃないのよ?
アッシュベリーだって、治癒魔法の担い手の王子を手放すなんて出来ないもの。
明日で学生が終わる。
ルーファスは王弟の仕事を担う。
明日も学生が終わらなければ?
王弟の仕事は先延ばし。
猶予期間が出来るわね?
そうなって来ると、第二王子様に学生を終わらせて欲しくない訳だ。
ならば留年??
ナイナイナイナイナイナイナイ。
王子に留年ないわー。
成績も優秀だし。
じゃあ、学生の延長で綺麗な理由ってなんだろう。
研究?
助手?
留学?
ーー留学
フィラル国に留学!?
これって、ちょっと、ニアピンしてない?
私は、体の中がゾワリとなる。
辿り付けない答えに、手が届いたような。
そういう感じ。
彼はね。
きっと。
私がルーファスの事を一番理解してるって言ったら自惚れかしら?
ティアナ・オールディスに吹っ飛ばされる?
でも。
私は、命懸けで当たりを付けたのよ?
ルーファスは基本的に薔薇園が好きなのだが、ここから向かうには遠すぎる。
一応主役である彼が、遠くに行くとは思えない。
その辺は、弁えているタイプだ。
というか王子だしね。
みんなが困るようなことは、しないだろう。
生まれた時から身に染み付いた習性のようなものだ。
じゃあ、どこに行く?
近場で好きな所。
薔薇の次に何が好き?
きっと本能に組み込まれたもの。
私はそれに見当を付けた。
当たっているわよね?
初代国王と、ウンディーネは恋をした。
素敵な素敵な恋だった。
精霊である筈のウンディーネは、人間の男に恋してしまったのだ。
二人は種を超えて愛し合ったのよ。
二人の子供には、精霊の力が宿る。
それはそうよね?
だって母親がウンディーネなんだものね。
だからねーー
DNAレベルで水が好きなのよね?
そうでしょ?
ルーファス。
私は足を止め、荒い呼吸を整える。
目的の場所。
ドンピシャリだ。
彼はライトアップされた噴水の縁で、ボンヤリと吹き上がる水を見ていた。
月の明かりが噴水に降り注ぐ。
水滴の音が響く。
水があって。
水の匂いがする。
ルーファスはきっとーー
水に癒やされる。
当たってたでしょ?
水の癒やし手である第二王子様。
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