転生したらシンデレラの義理の姉でした!? ~悪役令嬢まっしぐらです~

日向雪

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【八十六話】硝子の破片

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 私の足元には、粉々に散ったワイングラスの破片が落ちていた。





 令嬢のくせに、ここまで叩き付けるかな? と思う。

 これじゃあ、出陣前の兵士だ。





 勝利に乾杯!

 みたいなさ……。





「おい、危ないぞ。下がれよ」





 セイが後ろから声を掛ける。

 彼は私達より、一歩引いて、事の成り行きを見守っていた。





 しかし、アレね。

 セイもすっかり元通りと言うか……。





 手の甲に口づけした紳士は誰?

 みたいなさ。





 きっと幻なのねー。

 格好良かったけどさ。





 影というよりはナイトだったわよね。

 格好もそんな感じだし。





 ティアナは私からワイングラスを受け取ると、一気に飲み干したのだ。

 迷わずに。

 笑ってさえいた。





 一滴も残さず飲み干すと、床に思い切り叩き付けた。

 さすがに大きな音が鳴ったわよね。





「お気遣い、ありがたく頂くわ。ミシェール様」





 ふてぶてしい態度で、それだけ言うと、シミだらけになったドレスを翻して。

 優雅に扉から出て行ったのだ。





 衛兵にも全て伝えてあったから、誰にも邪魔される事なく。

 彼女は振り返りもせず、出て行った。





 もう、どこに行くか決めたのかしらね?





「何人付けたの?」





 私はセイを振り返りながら聞いた。

 もちろん、ティアナの見張りだ。





「影が三人。衛兵が遠巻きから五人。結構な数字だろ」





 そうね。

 結構な数字よね。





 逃げ切れるものじゃない。

 むしろ、彼女は逃げないのでしょうけど。





「どちらと接触するのかしら?」





 私はポツリと呟いた。



 

「…………」



「愚問だったかしら?」





 どちらに接触するかなんて、分からない。

 彼女の性格から行動原理を割り出したとて。

 それはあくまで推測なのだ。





 彼女は最後に誰と会う?





 自分を陥れた人物か?





 それともーー





 自分の愛しい人。





 もしも、第二王子様に会いに行くのなら、泳がせた事はまるで意味がない。

 本当にただの末期のプレゼントになってしまう。





 そんな無駄な結果になって欲しくはないけれど。

 でもーー





 彼女の性格だから。

 第二王子様に会いに行くかも知れないわね。





 真っ直ぐな子だから。





 自分の全てを捨てて、愛した人。

 それ程、愛しい人ならば。





 犯した罪はなくならないから。

 過去は変わりはしないから。





 彼女は、もう救われない。





 だから、最後に会いに行くのかしら?





 もし、そうだったら。

 彼女は最後に絶望するかもしれない。





 私は、犯人を殺すと言っていた、ルーファスの暗い声を思い出す。

 あの人、そういう部分では甘くない気がするのよ。





 だからどうかーー





 ティアナに入れ知恵をして。

 全てを押し付けた人物に。





 会いに行って欲しいと思う。





 心から。







 私は西塔の小さな窓から、外を見る。





 夕焼けだ。

 眩しいほどの夕焼けが、塔をオレンジ色に染めていく。





 もう直ぐ、ダンスパーティーが始まる時間。





 私は、第二王子様にエスコートされ、衆人環視の元に踊るのだ。





 覚悟を決めよう。









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