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【七十五話】選択の行方
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【七十五話】選択の行方
本文編集
うーん。
私は選べない二択を前に、黙考していた。
というか婚前に「押し倒される」という選択肢はないわよね?
世間的にもそれで合ってる?
するとつまりお説教な訳だけど、上からヤイヤイ言われるのって、性に合わないわけ。
ええ。
気が強いお嬢様ですから。
でも、こうずーっと胸の中に抱かれていると、思考力が鈍る…わね………。
体が触れ合った部分から、温かい体温を感じて……。
間違えた選択肢を選びかねない。
危険だ。
ルーファスって、こういうキャラだったかしら?
もうちょっと意地悪ーな感じじゃない?
悪役令息っていうかさ。
斜に構えてるというかさ……。
私は、やや目線を上げ彼の表情を確認する。
息が掛かりそうな程間近。
整った顔立ちの彼と目が合う。
翠石のような瞳。
前世にも緑色の瞳の人は存在した。
けどーー
それは身近な世界の人ではなく、遠い存在。
友達や知人にはいなかった。
ここまで、間近で見たのは始めてだ。
というか。
男の人に抱かれたのは、ルーファスが初めて。
前世の私は、沢山の本の存在は知っていたけれど、自分を抱き締めてくれる男の人の手は知らなかった。
ずっと長いこと知らなかった。
朝起きたら、朝食を取り、身支度をして職場に行く。
時間いっぱいまで仕事をしたら、帰って本を読んで寝る。
男の人も、王子様も、その日常には存在しなかった。
生まれてから、一度も存在しなかった……。
思えば、少し寂しい人生だったかな。
そんなこと、思った事もなかったけれど。
寂しかったのかも知れない。
まあ、一人孤独に死んだ訳だし……ね?
思い出したくもないけどさ。
「ルーファス」
「何? ミシェール」
「お説教を選ぼうと思うんだけど、でもね……」
「でも、何ですか?」
「……すーーーっごく短くて、すーーーーーっごく優しいお説教にしてくれる?」
何だが、お説教を受ける人間の言葉とは思えない希望を訴えると、彼はクスクスと笑った。
クスクス笑って私の事をじっと見る。
ルーファルの瞳に私が映り込むくらい、見つめられた。
思えば私って、手の掛かる存在よね?
目を離せば、勝手に落馬をして死にかける。
回復したと思ったら、夜中に絞殺される。
図書館で本を読んでいたかと思えば、令息達に囲まれる。
王宮に入れたかと思ったら、毒を掛けられる。
ホントに。
マジで手が掛かる。
こんな手の掛かる令嬢に、ルーファスは何を感じているのだろう?
彼の手が私の頬に触れる。
触れた手が頬をなぞり、私の唇で止まった。
これはーー
チュウ?
チュウする気?
今、マジでめちゃくちゃそういう空気だよね?
するの?
するの?
するの?
私は息を飲む。
いや、まあ、どうしていいか分かんないというか……。
心臓がバクバクして来たというか。
そもそもーー
さっきまで私達はキスをしていた訳で。
そう考えれば、そんなに緊張しなくても良い訳で。
なのに、なんなのこの心臓の音。
ヤバイ。
ドクン。
ドクン。
と耳の内側で響いてる。
ドクン。
ドクン。
と響いてる。
これは、心臓の音?
それとも、耳元に流れる血液の音?
そんな事に気を取られていると。
チュっとキスされた。
ーー耳に。
「………っ」
そっち!?
私は声にならない声を上げる。
なんで耳なの!?
フェイントだし。
しかも、今、耳に物凄く神経を集中させていた所だった。
そんな時に、その場所に、ちゅって。
体中の血が顔に集まって行く。
彼の立てた小さなリップ音が耳の中に響く。
ヤバイ、体の力が抜ける。
ベッドの上で良かった。
立ってたら絶対崩れそうになってたと思う。
私はなけなしの力で彼を恨めしく睨んだ。
お説教って言ったくせに。
私、お説教って言ったよね?
なのにチュっとキスされました。
なし崩しに押し倒されそうですね?
本文編集
うーん。
私は選べない二択を前に、黙考していた。
というか婚前に「押し倒される」という選択肢はないわよね?
世間的にもそれで合ってる?
するとつまりお説教な訳だけど、上からヤイヤイ言われるのって、性に合わないわけ。
ええ。
気が強いお嬢様ですから。
でも、こうずーっと胸の中に抱かれていると、思考力が鈍る…わね………。
体が触れ合った部分から、温かい体温を感じて……。
間違えた選択肢を選びかねない。
危険だ。
ルーファスって、こういうキャラだったかしら?
もうちょっと意地悪ーな感じじゃない?
悪役令息っていうかさ。
斜に構えてるというかさ……。
私は、やや目線を上げ彼の表情を確認する。
息が掛かりそうな程間近。
整った顔立ちの彼と目が合う。
翠石のような瞳。
前世にも緑色の瞳の人は存在した。
けどーー
それは身近な世界の人ではなく、遠い存在。
友達や知人にはいなかった。
ここまで、間近で見たのは始めてだ。
というか。
男の人に抱かれたのは、ルーファスが初めて。
前世の私は、沢山の本の存在は知っていたけれど、自分を抱き締めてくれる男の人の手は知らなかった。
ずっと長いこと知らなかった。
朝起きたら、朝食を取り、身支度をして職場に行く。
時間いっぱいまで仕事をしたら、帰って本を読んで寝る。
男の人も、王子様も、その日常には存在しなかった。
生まれてから、一度も存在しなかった……。
思えば、少し寂しい人生だったかな。
そんなこと、思った事もなかったけれど。
寂しかったのかも知れない。
まあ、一人孤独に死んだ訳だし……ね?
思い出したくもないけどさ。
「ルーファス」
「何? ミシェール」
「お説教を選ぼうと思うんだけど、でもね……」
「でも、何ですか?」
「……すーーーっごく短くて、すーーーーーっごく優しいお説教にしてくれる?」
何だが、お説教を受ける人間の言葉とは思えない希望を訴えると、彼はクスクスと笑った。
クスクス笑って私の事をじっと見る。
ルーファルの瞳に私が映り込むくらい、見つめられた。
思えば私って、手の掛かる存在よね?
目を離せば、勝手に落馬をして死にかける。
回復したと思ったら、夜中に絞殺される。
図書館で本を読んでいたかと思えば、令息達に囲まれる。
王宮に入れたかと思ったら、毒を掛けられる。
ホントに。
マジで手が掛かる。
こんな手の掛かる令嬢に、ルーファスは何を感じているのだろう?
彼の手が私の頬に触れる。
触れた手が頬をなぞり、私の唇で止まった。
これはーー
チュウ?
チュウする気?
今、マジでめちゃくちゃそういう空気だよね?
するの?
するの?
するの?
私は息を飲む。
いや、まあ、どうしていいか分かんないというか……。
心臓がバクバクして来たというか。
そもそもーー
さっきまで私達はキスをしていた訳で。
そう考えれば、そんなに緊張しなくても良い訳で。
なのに、なんなのこの心臓の音。
ヤバイ。
ドクン。
ドクン。
と耳の内側で響いてる。
ドクン。
ドクン。
と響いてる。
これは、心臓の音?
それとも、耳元に流れる血液の音?
そんな事に気を取られていると。
チュっとキスされた。
ーー耳に。
「………っ」
そっち!?
私は声にならない声を上げる。
なんで耳なの!?
フェイントだし。
しかも、今、耳に物凄く神経を集中させていた所だった。
そんな時に、その場所に、ちゅって。
体中の血が顔に集まって行く。
彼の立てた小さなリップ音が耳の中に響く。
ヤバイ、体の力が抜ける。
ベッドの上で良かった。
立ってたら絶対崩れそうになってたと思う。
私はなけなしの力で彼を恨めしく睨んだ。
お説教って言ったくせに。
私、お説教って言ったよね?
なのにチュっとキスされました。
なし崩しに押し倒されそうですね?
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