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【七十二話】水の制圧
しおりを挟む手首を強く引かれて、別室に連れ込まれた私は、第二王子様にきつく抱き締められる。
イタイ……。
マジでギューッと抱かれた。
抱かれた瞬間、ぶわりと光が溢れ出す。
ん?
魔法展開?
ヒ素というのは、体内摂取した場合は胃洗浄と強力下剤で体外に排出するわけだが、解毒剤も摂取する。
血中タンパク質からヒ素を隔離する薬だ。
だかしかしーー
摂取した毒が綺麗に無効化する訳じゃない。
ヒ素はそもそも元素。
前世で言う所の元素番号三十三。
第十五族元素。
つまりは物質を構成する基礎的成分だ。
それが故に、簡単に中和はさせにくいのではないだろうか?
当たり前だが、ヒ素系の毒は元素のままな訳ではなく、自然物を使っている。
鉱石という化合物だ。
それはそうよね。
この世界は、科学力が発達した前世ではない。
しかし前世ですら解毒剤が存在しない毒の方が多かった。
あの蜂の毒ですら、毒消しは存在しない。
普通に考えれば胃洗浄は前世の技術で、今世にあるとは思えない。
とにかく、飲んで吐いて飲んで吐いての繰り返しだろう。
まあ、それも摂取一時間以内と言われているが。
ただ、私は一滴も経口摂取はしていない。
胃洗浄はもちろん関係無いと思う。
強力下剤も関係無いわよね?
皮膚に触れたもの。
そして呼吸から取り込んだもの。
または眼球などの粘膜に付着したもの。
この三つくらいよね?
可能性として。
でも、目はきつく閉じていた。
鼻は覆ってなかったけど、水分は吸い込んでいないと思う。
もちろん口だってキツく閉じていた。
毒が飛んでくるのが分かっていて、口を開けて待つアホはそうそういない。
皮膚に触れた場合でも、腹痛、内臓の炎症、吐き気、下痢、皮膚障害には一応なる。
濃度、高そうじゃない?
あの杯の中身。
そんなことをふつふつと考えていると、ふと光がふわりと収まった。
濡れてもいなければ、吐き気や腹痛も起きていない。
微量摂取だったのかしら?
しかし、光が収束し、視界が開けると、理由が分かった。
治療というか、水の制圧だったんだ。
私に掛かった筈の水が、全て足元の分厚いカーペットに吸収されている。
分離したのね?
そう理解したと同時に、また手を引かれた。
あ、部屋を変えるんですね?
ついでに、あのカーペット捨てるんですね?
分かります。
高そうですけどね?
無毒化するには、きっとエラい時間が掛かるでしょうね。
というか……。
封印か。
濾過か。
微生物で分解か。
どちらにしろ封印以外は時間が掛かるわね。
高級カーペット。
捨てたところで土壌に染み出てしまうので、濡れた部分を封印が、一番現実的?
毒って事後処理も大変ね?
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