70 / 158
【六十九話】歴史の終焉
しおりを挟む私達は微動だにせず、向かい合っていた。
今まで会った三人は、どこか掴めない、何を考えているか分からない、そんな雰囲気がしたものだ。
ーーだがしかし
目の前の令嬢はどうだろう?
これは……。
敵意剥き出し?
この令嬢は、こんな子だった?
大人しくて、穏やかで、物静か……。
そんな令嬢はどこに行ったのかしら?
第三公爵家令嬢、ティアナ・オールディス。
オールディス家の八番目の御息女だ。
八番目。
結構な数よね。
公爵家の奥様は、複数人いらっしゃる。
四人くらいだったと思う。
彼女は、四人目の奥様の御子だ。
第三公爵家って子供の数だけでも十人越えなのよね。
それはそれでサバイバルな環境だ。
爵位というのは一つしかない。
つまり、単純計算で爵位が九個足りないのだ。
女子は嫁がせるとして、男子はどうするか?
文官になるか。
武官になるか。
商人になるか。
市井に下るか。
婿養子になるか。
そのまま、長男のご厄介になるか。
これが一番無難よね?
肩身はせまいけどさ。
一番上の子息が爵位を継ぐのか基本だ。
そして継いだ長男に家族が出来、息子が二人くらい生まれれば、三男辺りから、お役ゴメン。
公爵家に生まれた人間が市井に下りるとか、そんな事はそうそうない訳で、後はたたき売りよね。
男爵、子爵、伯爵、侯爵家へどんどん嫁がせる。
どんどん婿入りさせる。
ティアナも誰かとご婚約をしていたかしら?
結構重要なところよね。
私は張り詰めた空気の中、物思いに耽っていた。
だってさー。
台本の一行目は挨拶なのだが、それすら言い出せない雰囲気なのよ?
黒髪の美少女がこちらをじっと見ている。
睨むように。
憎しみを込めて。
これは黒?
髪の色じゃなくてね。
私は勇気を振り絞って、微笑む。
「ごきげんよう。ティアナ様。今日はお目にかかれて嬉しいわ」
「…………」
あ、うん。
返事なしね。
オーケーオーケー。
でも、この子、なんでこんなに私を憎んでいるのかしら?
普通に考えれば第二王子様に懸想している訳だけど。
それで合ってる?
「ティアナ様の髪の色、とても綺麗ね。私、黒髪ってとても親近感が沸きますの」
これ、もうアドリブですよ? セイ。
前世では黒髪に囲まれまくっていたので、親近感が沸くのはホント。
「…………」
あ、うん。
無視ね。
オーケーオーケー。
大丈夫よ。
ティアナって、ルーファスの事を、好きな素振りをしていたっけ?
次辺り直球で聞いて見る?
私はコホンと咳払いをした。
さあ、言うわよ。
「ミシェール様、こちらは今朝、詰んだばかりのラズベリーで作った、ラズベリー水です」
私はコケそうになる。
ああ、最高のタイミングで第一声を発してくれてありがとう。
頂くわ。
甘酸っぱくて美味しいのよね。
私は銀杯を持って来るよう、メイドに頼む
王宮のラウンジを使う時は、こちらに用意している。
人前なので、頼んでみました。
いつもは自分でとっとと取ります。
テーブルに置かれた杯に、ティアナがラズベリー水を注いでくれたのだが、公爵令嬢自ら注ぐのって珍しいわね。
普通は使用人にさせるのだけど。
どうしてかしら?
持参した瓶をメイドに渡せばいいのに。
ほら、慣れない手付きで危ない。
令嬢中の令嬢だから、カトラリーより重い物を持ったことなさそうじゃない?
私は危なっかしい手付きを見ていたのだが、そこでもっと恐ろしい物を目にした。
嘘?
銀杯がみるみる黒ずんで行く。
「…………」
言葉が出ないとはこのことだ。
私はティアナの顔をじっと見つめる。
失礼は承知だが、見ずにはいられない。
銀が黒ずむということは………。
銀が黒ずむ理由は三つ。
その一つが毒なのだが……。
ヒ素系の毒だ。
ヒ素は猛毒。
吐き気。
嘔吐。
下痢。
腹痛。
大量に摂取すれば、脊髄障害にもなる恐れがある。
しかも、ヒ素の毒は、体内に残留するため、足が付きやすい。
この子、何を考えているんだろうか?
飲んでも、飲まなくても、身の破滅だ。
私……ではなく、公爵令嬢ティアナの。
私は黒ずんだ杯に目を注ぎながら、心の中では呆然としていた。
第三公爵令嬢に毒を盛られました。
歴史有る家でしたが、この瞬間に終わりましたね。
0
お気に入りに追加
168
あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。
《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》
素材採取家の異世界旅行記
木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。
可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。
個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。
このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。
この度アルファポリスより書籍化致しました。
書籍化部分はレンタルしております。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

このやってられない世界で
みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。
悪役令嬢・キーラになったらしいけど、
そのフラグは初っ端に折れてしまった。
主人公のヒロインをそっちのけの、
よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、
王子様に捕まってしまったキーラは
楽しく生き残ることができるのか。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる