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【六十五話】年齢不詳

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 王宮ラウンジで三人目を紹介された時、声が出なかった。





 一瞬頭が真っ白になったのだ。

 思考停止。





 ちなみに、どちらかというと想定外の事が起きても、頭が真っ白にはならないタイプだったのですが。





「???」





 何コレ?

 どゆこと?





 そもそも、身分もお名前も聞いていない。

 なんでも、お忍びで来られているので、お名前も身分も明かせないそうなのだ。





 だがしかし。





 分かるだろって話だ。

 オリヴィアお姉様なら一瞬で、私だって数瞬で分かるわ。





 プラチナブロンドの髪に、エメラルド色の瞳。

 滑らかな肌は、何歳なのかと疑問を感じさせる。





 似てるわよね?

 第二王子様に。





 そして我がアッシュベリー王国、皇后陛下に。

 海の宝玉と謳われた絶世の美女だ。





 身分を隠すって言ったって……。

 ちょっと無理があるわよ?





 っていうか、こんな所で何やってるの?!

 という話だ。





 フィラルという国は、三方を海に囲まれた、海洋国。

 その都は、水の都と呼ばれ、碁盤の目のように水路が走っている。





 その水路をゴンドラで移動する。

 夢のように美しい都。





 そうそう留守にしていい訳はない。

 嘘でしょ!?





 私は何度も瞬きをして、目の前の男性を見る。

 呑気にお茶を飲んでいますけど?





「ミシェール殿は、ルーファスと正式に婚約したそうだな」



「はい。あのミシェールとお呼び下さい」





 私はなんと呼べば良いのだろうか?

 お忍びというからには、陛下じゃマズい。





 確か。

 キャルヴィン・フィラル二世で間違い無いだろうか。





 こんなお茶の席に、大物過ぎますよね?

 何だろう?

 何なんだろう?





「先程も言ったが、こちらはお忍びでね。本当の名は明かせない。フィルとでも呼んでくれ」





 それってフィラルのフィル?

 まんまですけど大丈夫なんですか!?





 名は明かせないというけど、みんな知ってるし!?

 知らぬ振りをしろって事で良いの?





 対応、それで合ってる??

 自分からは、そうそう話掛けられない立場よね?





 私は、目の前の素敵な男性をしみじみと見ていた。

 皇后陛下のお兄様なのだから、三十後半から四十手前くらいだろうか?





 なんというか、吟遊詩人のような、竪琴を持たせたいタイプの男性だ。

 相当美形なのだが、どこか童話の中の人のような。





 この世のものとは思えない、彼の周りだけ、優しい風が吹いてるような、遠い国の王様というか……ね。





 ていうか、実際隣国の王様ですし。

 王様って、こんなにお気軽に国を空けて平気なの??





「私の家はね、背格好の似た弟が名代として役割を果たしているから、心配ない。というか、この国には実の妹が嫁いでいてね、ちょくちょくお忍びで来ているんだよ」





 身分を隠す気あるんですか!?

 どっち??





「まあ、出来の良い弟でね。何かと頼りにしている。我が家は、精霊のご加護を受けた者が、家を継ぐ習わしでね。長子相続ではないんだが、たまたま長男の私が加護を受けたので継いでいる」



「…………」



「ここまで言えば、分かるかな?」



「???」





 え?

 何?





 今の会話で何を分からなければいけなかったの?

 え?





 私が戸惑っていると、フィル様は再度言葉を繋いでくれた。





「私には、娘が三人いるが、全て加護は受けていない。弟の所には男子も生まれているが、やはり加護は受けていない。つまり、精霊の加護の行方が大切だ」



「……?」





 ん?

 精霊の加護の行方……。





 つまり、精霊の加護が顕現しているのは、実の妹の二番目の子供と言っているの??





 加護を受けたものが、王位を受け継ぐと言った!?

 いや、待て待て。





 有り得ないし。

 百歩譲って姫ならまだしも、王子はないだろ。





「幼少期から、我が娘に嫁ぐように言っている。正式な婚約とはどういう事なのだろうな?」





 じろりと見られて竦み上がった。

ごめんなさい。





 全然知りませんでした。

 そういうの許されるのかしら?





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